腎移植後はさまざまな要因によって糖尿病を発症しやすくなります。腎移植後に糖尿病を発症すると、発症していない人に比べて生命予後が悪く、心血管病のリスクがあがることが報告されています。また、糖尿病の発症により移植腎機能の早期悪化や移植腎喪失の可能性が高くなります。
移植腎を長持ちさせるためにも気を付けなければならない「腎移植後の糖尿病」について、東京女子医科大学病院 腎臓病総合医療センター 泌尿器科の奥見雅由先生にシリーズで解説していただきます。
2.腎移植後に糖尿病になると何がいけないのか
PTDM(移植後糖尿病)はインスリン抵抗性※を増大させ、微小血管合併症(糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害)、高血圧などを引き起こし、血糖管理のために慢性的な不十分な免疫抑制状態を引き起こすこともあります。これらにより、移植腎機能喪失、心血管障害や感染症の危険性を増加させてしまいます。
腎移植後平均4.5年の観察期間において、PTDM患者さんの半数が、PTDMという診断をされてから約4年で移植腎に糖尿病性腎症が発症したと報告されています(1)。さらに、移植腎に糖尿病性腎症が発症したケースにおいては、術前から糖尿病であるかPTDMかに関わらず、移植後5~7年で合併すると報告されており、糖尿病性腎症の病理学的な重篤度に有意差は認められませんでした(2)。微小血管障害(糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害)を予防するためには、厳格な血糖管理が必要であり、移植腎への糖尿病性腎症発症を考えるとより厳格に管理することが必要になります。
PTDM合併にかかわる心血管障害からの死亡率は、PTDMを合併しない場合より1.5~3倍高くなるとの報告や(3)、PTDM合併による移植後感染症の増加が報告されています(4)。さらには、PTDMが移植腎廃絶の予後予測因子となる可能性を示唆する報告もあります(5)。
PTDM、高血圧、脂質代謝異常は移植後肥満と相まって、移植後メタボリックシンドロームを形成することになります。このように、PTDMは移植腎生着率および腎移植患者の生命予後に影響を及ぼすため、定期的な血糖スクリーニングおよび適切な血糖管理が重要となります。すなわち、生活習慣の改善、薬物療法を行う一方で、拒絶反応が起きないような免疫抑制薬使用の配慮が必要となります。さらに、PTDMの様々な側面を捉えて、合併症の予防や治療を積極的に行っていくことを留意しておかなければならなりません。
※インスリン抵抗性:肝臓、筋肉、脂肪細胞におけるインスリン感受性が低下すること。
【文献】
[1] Koselj M, Koselj-Kajtna M, Kandus A, Bren A. Posttransplant diabetes mellitus in renal allograft recipients. Transplant Proc. 2001; 33: 3662-3.
[2] Bhalla V, Nast CC, Stollenwerk N et al. Recurrent and de novo diabetic nephropathy in renal allografts. Transplantation. 2003; 75: 66-71.
[3] Jindal RM, Hjelmesaeth J. Impact and management of posttransplant diabetes mellitus. Transplantation. 2000; 70: SS58-63.
[4] Sumrani NB, Delaney V, Ding ZK et al. Diabetes mellitus after renal transplantation in the cyclosporine era--an analysis of risk factors. Transplantation. 1991; 51: 343-7.
[5] Roth D, Milgrom M, Esquenazi V, Fuller L, Burke G, Miller J. Posttransplant hyperglycemia. Increased incidence in cyclosporine-treated renal allograft recipients. Transplantation. 1989; 47: 278-81.