腎移植後はさまざまな要因によって糖尿病を発症しやすくなります。腎移植後に糖尿病を発症すると、発症していない人に比べて生命予後が悪く、心血管病のリスクがあがることが報告されています。また、糖尿病の発症により移植腎機能の早期悪化や移植腎喪失の可能性が高くなります。
移植腎を長持ちさせるためにも気を付けなければならない「腎移植後の糖尿病」について、東京女子医科大学病院 腎臓病総合医療センター 泌尿器科の奥見雅由先生にシリーズで解説していただきます。

3.腎移植後は糖尿病になりやすいのか

腎移植後の糖尿病【1】のコラムで述べたように、PTDM(移植後糖尿病)は腎移植後約4~25%に発症すると言われており(1-3)、移植後1年以内に発症することが多く(4)、年々その発症は増加していくとされています(5)
PTDM発生の危険因子として、色々な因子が挙げられますが、その中でも最も影響が大きいものは免疫抑制薬です。腎移植後に服用する免疫抑制薬の中で、ステロイドはインスリン抵抗性※1を、カルシニューリン阻害薬(シクロスポリンおよびタクロリムス)はインスリン分泌低下を引き起こすことで、耐糖能障害※2を起こすことはよく知られています。また、mTOR阻害薬は、肝のインスリン抵抗性を増加させ、末梢のインスリン抵抗性、β細胞毒性を引き起こし、PTDM発症の危険性を増加させるとの報告もあります(6)

しかし、PTDMの発生率や危険因子に関しては、欧米諸国からの報告は多いですが、本邦からのまとまった報告は少ないです。

私たちが行った観察研究では、1996年から2013年までに移植を行った日本人の生体腎移患者849例中、移植後5年で127例(15.1%)がPTDMを発症していました。レシピエント年齢、肥満、術後2週目のタクロリムス濃度、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)非使用がPTDM発症の有意な予測因子でした。さらに、レシピエント年齢と肥満の有無を統計学的に調整すると、MMFを使用し、低濃度のタクロリムスによる免疫抑制療法下では、移植後5年のPTDM推測発症率は9.4%であったのに対して、MMFを使用せず、高濃度のタクロリムスによる免疫抑制療法下では38.4%でした(7)
つまり、日本においてもPTDMはごく一般的な腎移植後合併症の1つであり、現在主流となっているタクロリムスとMMFを併用した免疫抑制療法により、PTDMの発症が抑えられている可能性があると考えられます。

今回は、私たちが行った観察研究の結果を中心に、PTDMの発生率や予測因子について解説しましたが、腎移植後は免疫抑制薬を処方された通りに、毎日決められたタイミングや時間に確実に服用することが何よりも大切です。免疫抑制薬の服用において何か気になることがあれば、自己判断をせず、必ず主治医に相談しましょう。

※1 インスリン抵抗性:肝臓、筋肉、脂肪細胞におけるインスリン感受性が低下すること。
※2 耐糖能障害:インスリン分泌不足や作用不良などによって起こる、血糖値の正常化機構が不良になった状態。

【文献】
[1] Kasiske BL, Snyder JJ, Gilbertson D, Matas AJ. Diabetes mellitus after kidney transplantation in the United States. Am J Transplant. 2003; 3: 178-85.
[2] Yates CJ, Fourlanos S, Hjelmesaeth J, Colman PG, Cohney SJ. New-onset diabetes after kidney transplantation-changes and challenges. Am J Transplant. 2012; 12: 820-8.
[3] Pham PT, Pham PM, Pham SV, Pham PA, Pham PC. New onset diabetes after transplantation (NODAT): an overview. Diabetes, metabolic syndrome and obesity : targets and therapy. 2011; 4: 175-86.
[4] Sumrani NB, Delaney V, Ding ZK et al. Diabetes mellitus after renal transplantation in the cyclosporine era--an analysis of risk factors. Transplantation. 1991; 51: 343-7.
[5] Cosio FG, Pesavento TE, Osei K, Henry ML, Ferguson RM. Post-transplant diabetes mellitus: increasing incidence in renal allograft recipients transplanted in recent years. Kidney Int. 2001; 59: 732-7.
[6] Johnston O, Rose CL, Webster AC, Gill JS. Sirolimus is associated with new-onset diabetes in kidney transplant recipients. J Am Soc Nephrol. 2008; 19: 1411-8.
[7] Okumi M, Unagami K, Hirai T et al. Diabetes mellitus after kidney transplantation in Japanese patients: The Japan Academic Consortium of Kidney Transplantation study. Int J Urol. 2017; 24: 197-204.