腎移植後はさまざまな要因によって糖尿病を発症しやすくなります。腎移植後に糖尿病を発症すると、発症していない人に比べて生命予後が悪く、心血管病のリスクがあがることが報告されています。また、糖尿病の発症により移植腎機能の早期悪化や移植腎喪失の可能性が高くなります。
移植腎を長持ちさせるためにも気を付けなければならない「腎移植後の糖尿病」について、東京女子医科大学病院 腎臓病総合医療センター 泌尿器科の奥見雅由先生にシリーズで解説していただきます。

4.腎移植後に糖尿病と言われたらどうすればいいのか

■PTDM(移植後糖尿病)の診断基準
PTDMの診断基準は、アメリカ糖尿病学会(the American Diabetes Association)の2型糖尿病の診断基準とほぼ同様です。つまり、空腹時血糖値:126mg/dL以上、75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)での食後2時間後血糖値:200mg/dL以上、または糖尿病の典型症状(口喝、多飲、多尿、体重減少)を伴う随時血糖値:200mg/dL以上となります。

特に腎移植後早期においては、HbA1cをPTDM診断に用いるのは推奨されません。なぜならば、HbA1cは過去1~2カ月の平均血糖値を反映するため、移植手術前の腎性貧血や、周術期の輸血、移植後の貧血の合併や移植腎機能の影響を受ける可能性があるためです(1)
※HbA1c:血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンというタンパク質とブドウ糖が結合したもの。HbA1cの数値を調べることで過去1~2カ月の平均血糖値を知ることができる。

さらに、術後1年以内ではHbA1c (NGSP値)6.5%以上をPTDMと診断した場合、HbA1c値とPTDM合併症との関連性は明らかではなかったと報告されています(2)

一般的に、腎移植後、退院後の外来通院での管理目標血糖値は、空腹時血糖値で90~130mg/dL、食後2時間後血糖値で180mg/dL未満で、特に術後6カ月以内はPTDMの発生頻度が高いため(3, 4)、この間は厳重な血糖値のチェックと、ライフスタイルの改善を含めた管理が必要です。

■PTDMと診断された場合
PTDMと診断された場合、以前のコラムでも述べたように、免疫抑制薬の影響が最も大きいため、拒絶反応を抑制しながら、厳密な血糖管理が必要になるため、免疫抑制薬の投与量の緻密な調整が求められます。そのためには、腎移植医と糖尿病専門医との連携が必要です。また、糖尿病専門看護師や栄養士を含めたチーム医療の介入が望まれます。

治療としては、適切な食事・運動療法の導入と、DPP-4阻害薬も使用可能ですが、インスリンを原則として薬剤治療を開始します。
※DPP-4阻害薬:
DPP-4はインクレチンを分解する酵素のこと。インクレチンは、血糖値が高い状態でインスリン(すい臓から分泌される血糖値を下げる働きをもつホルモン)の分泌を促し、グルカゴン(すい臓から分泌される血糖値を上げる働きをもつホルモン)の分泌を抑える働きをもつ。
DPP-4阻害薬は、DPP-4がインクレチンを分解してしまう作用を遮断して、インクレチンの作用を促進させる。

■PTDMの治療目標
PTDMの治療目標としては、日本糖尿病学会の「熊本宣言2013:あなたとあなたの大切な人のために Keep your A1c below 7%」として発表された「HbA1c(NGSP値)7.0%未満」を血糖管理の新たな目標値として用いることが適切です。HbA1cが6.9%未満であれば細小血管合併症(糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経症)の出現する可能性が少ないと報告されています(5) 。HbA1c 7.0%未満は「糖尿病合併症予防のための目標値」として定められたもので、対応する血糖値としては、空腹時血糖値130mg/dL未満、食後2時間血糖値180mg/dL未満が目安となっています。

<PTDM治療管理目標値>
◎空腹時血糖:130mg/dL未満
◎食後2時間血糖:180mg未満
◎HbA1c(NGSP値):7.0%未満

 

【文献】
[1] Jenssen T, Hartmann A. Emerging treatments for post-transplantation diabetes mellitus. Nat Rev Nephrol. 2015; 11: 465-77.
[2] Eide IA, Halden TA, Hartmann A et al. Mortality risk in post-transplantation diabetes mellitus based on glucose and HbA1c diagnostic criteria. Transpl Int. 2016; 29: 568-78.
[3] Lane JT, Dagogo-Jack S. Approach to the patient with new-onset diabetes after transplant (NODAT). J Clin Endocrinol Metab. 2011; 96: 3289-97.
[4] Okumi M, Unagami K, Hirai T et al. Diabetes mellitus after kidney transplantation in Japanese patients: The Japan Academic Consortium of Kidney Transplantation study. Int J Urol. 2017; 24: 197-204.
[5] Araki E, Haneda M, Kasuga M et al. New glycemic targets for patients with diabetes from the Japan Diabetes Society. J Diabetes Investig. 2017; 8: 123-5.