移植腎の長期生着のために知っておくべきことについて、北里大学病院の吉田一成先生にシリーズで解説していただきます。
第6回目は、腎移植後のがんについてです。<前編>腎移植後のがんの発生率、<後編>早期発見、早期診断、早期治療のために(今回)の2回に分けて解説していただきます。

Q6.移植後はがんになりやすいですか?<後編> 早期発見、早期診断、早期治療のために

■なぜ、移植後にがんの発生率が高くなるのか
どうして移植後にがんの発生率が増加するのか、詳しい機序はよくわかっていませんが、我々の体内ではがん細胞は一定の数が絶えず生まれているといわれています。ただ、体内のリンパ球が見張っており、がん細胞を攻撃して駆除しているのです(*1)
免疫力が下がった状態(慢性腎不全もそうです)や、免疫抑制療法中ではこのリンパ球の働きが落ちており(リンパ球の働きを抑制しているので当然です)、がんの発生率が増加し、進行が加速すると考えられます。がん免疫と言われている分野で、この免疫を使って逆にがんの治療をする方法も出てきています。 免疫抑制薬による発がんの機序として、Sherstonらは長期における免疫抑制によるオンコウイルスの増殖や、免疫学的監視力の低下による腫瘍細胞の増殖、そして直接的な発がん作用の可能性があると報告しています(*2)

移植した臓器にたまたまがんがあり、これが移植後に発生することは稀です。とはいえ、気付かずに移植した腎臓にがんがあり、それが移植後に発生したという症例の報告も多くはありませんが散見されます(*3)
移植では免疫抑制療法を行うので、がんが治癒していないのに移植を行うことや、また、がんがある臓器を移植することは問題です。ただ、がんがきちんと治癒して、一定期間再発がなければ移植は可能であり、臓器提供も可能です。進行の状況はがんの種類によって違うので、がんの治癒からどの程度待ってから移植が可能になるのかも異なります。

免疫抑制薬ががんの発生を多くしている原因だということを述べましたが、近年使われだした、mTOR阻害薬という範疇の免疫抑制薬は、がんの発生を抑える方向にも働くと言われ、がんの発生率が少なくなったという海外の報告もあります(*4)。mTOR阻害薬は、がんの治療にも使われる薬なので腎移植後のがんの発生を抑える可能性は期待されていますが、まだ日本では使用が始まって日が浅く、きちんとした結果のデータがないのが実情です。がんの発生に関するデータは数年以上経ってから出てくるので、その結果はまだ先になります。

■早期発見、早期診断、早期治療のために
いずれにせよ、がんは早期発見、早期診断、早期治療が重要で、かなりのがんはきちんと早期に治療すれば治癒するようになってきています。
早期発見、早期診断、早期治療のためにがん検診などを利用することが大切です。がん検診は費用が多少かかりますので、定期的に受けている人は決して多くないのが現状ですが、会社や自治体の検診を上手く使って受けていくことをお勧めします。胃がんのための胃内視鏡検査(胃カメラ)、大腸がんのための便潜血検査、注腸造影や大腸内視鏡、スクリーニングのための腹部超音波検査やCT、腫瘍マーカー検査(前立腺がんではPSA、胃がんではCEA、など)、女性では子宮がん検診と乳がん検診など、いずれも多少の苦痛を伴う検査ではありますが、がんが進行してからの治療よりはつらくはないと思われます。ただし、あまりに高額、高侵襲で効果の低い検査を頻回に受ける必要はありません。これらは主治医と相談して無理のないように、そして忘れないように受けるようにしてください。

日頃から悪性腫瘍、がんに対する正しい知識を身につけることも、「攻めの移植人生」には大切です。

*1 J. Clin. Invest. 117:1137–1146,2007
*2 Transplantation 2014; 97: 605-611
*3 Systematic review of donor cancer transmission Xiao D et al Am J Transplant 2013
*4 Transplantation: 2017 ,101(1) ; 45–55