移植腎の長期生着のために知っておくべきことについて、北里大学病院の吉田一成先生にシリーズで解説していただきます。
第7回目は、移植後の糖尿病についてです。<前編>腎移植後は糖尿病になりやすいですか?、<後編>腎移植後の糖尿病の治療はどうすればいいですか? の2回に分けて解説していただきます。

Q7.腎移植後の糖尿病の治療はどうすればいいですか? <腎移植後の糖尿病 後編>

■糖尿病の治療薬について
糖尿病の治療薬として最近はインスリンの他に経口血糖降下薬(oral hypoglycemic agent)という経口で服用して血糖を下げる薬が何種類も出ており、インスリンの注射をしないで済む場合もありますが、CNIによりインスリン分泌が抑えられてしまっている時期にはインスリンの注射が最適です。
きちんと血糖をコントロールすることは1つしかない移植腎の機能を守るために重要ですが、特に高齢者では逆に低血糖を起こすこともあり、生命の危機につながるため細心の注意が必要です。例えば、インスリンを注射したのに食事をしなかった、などの状況はとても危険ですのできちんとした管理が重要です。

移植手術直後、入院中はステロイドの量も多く血糖が高く不安定になるので、血糖コントロールのために、スライディングスケールといって、食事前などに血糖を測り、それに見合ったインスリンを注射する方法がとられます。

本来、体内のインスリンの分泌には、食事で血糖値が上がったことに反応して一時的に分泌される「追加分泌」と、一日中一定の割合で少しずつ分泌される「基礎分泌」があり、体内で自動調節されていますが、それができなくなるのが糖尿病です。
それを補うためのインスリン製剤にも追加分泌型(即効型)、基礎分泌型(中間型)とその混合型の分類があります。さらにそれぞれのインスリン製剤にはヒトインスリン型とインスリンアナログ型があります。インスリンではありませんが、GLP-1受容体作動薬を皮下注射することもあります。

一方、経口血糖降下薬にはスルフォニル尿素薬のようなインスリン分泌促進薬や、α-グルコシダーゼ阻害薬のようなブドウ糖吸収阻害薬、ビグアナイド系やチアゾリジン系のブドウ糖吸収阻害薬、食後に分泌される消化管ホルモンで膵臓のβ細胞を刺激してインスリンの分泌を増加させる働きをもつものの総称であるインクレチンを増強するDPP-4阻害薬や、また腎臓での糖の再吸収を抑えて血糖を下げるSGLT2阻害薬といったいろいろな種類の薬があります。これらの薬をどのように使用するかは、糖尿病専門医とよく相談して決めていきます。


血糖降下薬の種類

最近では血糖を持続的に測定できる携帯型の機器や、持続的にインスリンを投与できる医療機器があり、専門医の下で使用されることもあります。

■腎移植後の糖尿病治療
腎移植前から糖尿病だった場合、移植後は免疫抑制薬の使用量の変化、日常生活に戻った後の運動量の変化や食事の変化により、随時これらの薬の量や種類を変えていく必要があります。さらに薬に頼るだけではなく、食事や運動のコントロールが重要です。そのためには移植後も管理栄養士とともに、きちんとした栄養管理を行う必要があります。また、腎移植後に糖尿病となった場合は、食事管理が一層重要になります。
ただ、あれもこれも食べられないのでは人生の楽しみが減ってしまいますので、管理栄養士とよく相談して、自分自身でメリハリをつけた食事管理を行いましょう。

また、糖尿病患者では運動を一定以上行うことにより生命予後が改善し、腎機能悪化が遅くなることが報告されています(*1)。これはCKDである腎移植患者でも同じだと考えられるので、腎移植後も運動療法を中心とする腎臓リハビリテーションは大切だと言えます。腎移植後の正しい運動は血糖のコントロールのみならず、骨の状態の改善にも重要であり、「体力」は長期の生命予後を左右することがわかっています(*2)ので、理学療法士とともに運動療法を行うことが推奨されます。

腎移植後糖尿病になったとしても、腎機能が安定し免疫抑制薬が減量されてくると、血糖コントロールは改善しますので、腎移植医療チームと十分に相談しながら「攻めの移植人生」を目指していただきたいと思います。

*1 J Ren Nutr.2018; 28(1): 45-53
*2 J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2001