移植腎の長期生着のために知っておくべきことについて、北里大学病院の吉田一成先生にシリーズで解説していただきます。
第8回目は、移植腎機能が悪くなってしまったらどうしたらいいのか、についてです。<前編>腎代替療法の選択が必要になった場合、<中編>腎代替療法の選択に向けて(血液透析・腹膜透析)、<後編> 腎代替療法の選択に向けて(腎移植)の3回に分けて解説していただきます。
Q8.移植腎機能が悪くなってしまったら?<前編>腎代替療法の選択が必要になった場合
■移植腎の寿命
腎移植では、他の人から提供していただいた腎臓を移植するので、拒絶反応を防ぐために免疫抑制薬を服用します。そして、ほとんどすべての腎移植では移植される腎臓は1つです。そのため、腎機能からみても腎移植後は慢性腎臓病(CKD)であり、定義上も「CKDである」となっています。ということは、移植腎はその機能が悪化し、再び末期腎不全になってしまう可能性が残念ながら少なくないのです。
CKDでは、腎機能が悪ければ悪いほど、そして蛋白尿が多ければ多いほど腎機能を失う、あるいは心血管系障害を起こす可能性が高いですが(*1)、移植後もまさにそのような状態にあるのです。Q&Aシリーズ④で移植腎の長期生着が難しいこと、移植腎機能が長続きしない原因に急性・慢性拒絶反応、抗体が関係する拒絶反応、拒絶反応を抑えるための免疫抑制薬の副作用に起因する代謝障害や発がん、そして腎炎の再発などがあることをお話ししました。
最近の腎移植の10年生存率は95%、生着率は85%程度まで改善してきています。しかし、これを逆に見れば、10年経つと残念ながら約5%の方が亡くなり、約15%の移植腎がその機能を失っているということです。死亡するとその時点で移植腎機能も停止するので、10年で約10%の腎移植患者さんは透析に戻っているということになります。特に移植後20年目の生着率は30~50%しかなく、半数以上の患者さんが透析への再導入か再移植を受けざるを得ません(*2)。
米国における腎移植では、移植腎廃絶、透析あるいは再移植、死亡がそれぞれ1年で6.9%、3.8%、3.7%、5年で26.6%、16.0%、16.5%、10年で52.4%、33.4%、36.5%(*3)というデータがあります。欧米では年間2~4%の腎移植患者さんが再透析になるともいわれています(*4)。これと比較して日本の腎移植の成績は良好です。
腎移植後は定期的にフォローアップ外来があるので、急に移植腎機能廃絶、透析導入、ということはほぼないはずです。しかし移植腎機能が徐々に悪化して、eGFRが15~20ml/minを下回り、CKD G4からG5になってきてしまった場合は、次の治療法として、透析あるいは再移植を考える必要があります。残念ながら、腎移植後に透析に再導入された患者さんのその後についてはあまり良いデータがないため(*5)、やはり現在の移植腎を大切にすることはとても重要です。
■腎代替療法の選択が必要になった場合
移植腎機能が悪化し、再度腎代替療法の選択が必要になった場合、ほとんどの患者さんは透析への再導入となりますが、最近では1回目の腎移植の際に、透析を経験せずに先行的腎移植(PEKT)を行っている人もいますので、その場合は透析への初導入になります。以前透析を行った経験がある方は、それを思い出す必要がありますし(あまり思い出したくないとは思いますが)、初導入の場合は、透析についての知識を得る必要があります。
ご存知のように透析には血液透析(hemodialysis, HD)と腹膜透析(peritoneal dialysis, PD)があります。腎移植前はHDをしていたが、今度はPDを考える場合、あるいはその逆の場合には、それぞれの知識を習得することになりますし、それぞれの透析に対する準備が必要になります。
再移植の予定がすぐに立つのであれば、免疫抑制薬はそのまま服用を続けることもありますが、透析へ再導入になった場合には、免疫抑制薬の量を段々に減らしていき、最終的には中止します。あまり急に中止すると拒絶反応を起こして、発熱、移植腎部の違和感増加、血尿などが出ることもあり、様子を見ながら移植医と相談して免疫抑制薬の量の調節をします。どの薬を最初に減らすのかは移植医によって意見が異なりますので、よく説明を聞きながら中止に持っていきます。免疫抑制薬には副作用があることは以前にもお話ししましたので、不必要に服用することは良くありません。また、なかなか拒絶反応が消えない場合などは、機能しなくなった移植腎を手術で取り出す場合もあります。
*1 CKD診療ガイドライン2013、日本腎臓学会
*2 移植 51(1): 40-46, 2015
*3 2017USRDS
*4 UNOSデータ
*5 Am J Transplantation 2: 970-974, 2002