移植腎の長期生着のために知っておくべきことについて、北里大学病院の吉田一成先生にシリーズで解説していただきます。
第8回目は、移植腎機能が悪くなってしまったらどうしたらいいのか、についてです。<前編>腎代替療法の選択が必要になった場合、<中編>腎代替療法の選択に向けて(血液透析・腹膜透析)、<後編> 腎代替療法の選択に向けて(腎移植)の3回に分けて解説していただきます。
Q8.移植腎機能が悪くなってしまったら?<後編>腎代替療法の選択に向けて (腎移植)
■腎移植を選択する場合
移植腎機能を失っても、次の腎移植(再移植)が可能であれば一番良いと思いますが、簡単には行かないのが現実です。再移植にも生体腎移植と献腎移植があります。生体腎移植の場合にはまた新たなドナーを探す必要がありますし、献腎移植は日本ではドナーが著しく少ないため、なかなか受けられないという問題があります。
そして、2回目以降の腎移植には難しい点が幾つかあります。まずは手術手技として、すでにある移植腎を摘出することはほとんどせず、反対側の下腹部に腎臓を移植します。日本では非常に数が少ないのですが、何回も(3回以上)腎移植を受ける方もいらっしゃいます。2回目の移植までは両側の骨盤腔が空いていますが、3回目になると移植腎をおさめる骨盤腔が空いていないため、移植された過去の腎臓を摘出してから新たな腎臓を同部位、あるいは少し違う部位に移植することになります。この場合、移植腎の血管を繋ぐ部位が限られてきます。このような理由により、複数回の移植は、数を重ねるごとに外科手技的な難易度が増してきます。
それよりも重要なのは、免疫学的な難易度です。患者さんは過去に移植された腎臓によって免疫的に感作されて(抗体を作って)しまっていますから、同様なHLA抗原が再度移植によって入ってきた場合は、強烈な拒絶反応を起こします。すなわち過去の移植腎に対する抗体と新たな移植抗原が一致している場合は、移植が困難となります。通常2回目まではこのようなリスクはそれほどありませんが、3回目以降になりますと免疫学的にも難易度がかなり高くなります。この場合、抗体を除去して拒絶反応を起こす免疫反応を弱めてから移植を行います。その治療を脱感作治療といい、感作状態がそれほど強くなければ、血漿交換や特殊な薬を使用して抗体を除去するなどの方法で移植することも可能です。ただし、この方法でいつでも移植が行えるというわけではなく、腎移植後の成績も劣るのが現状です。
最初の移植腎が腎炎の再発により機能不全になることもあります。この場合には次の移植の前に腎臓内科医と相談して、腎炎が再発しないような予防策をとるべきでしょう。
■腎代替療法の選択に向けて
最近は治療選択外来と言って、腎不全治療としてのHD、PD、腎移植の長所と短所を十分に説明して、患者さんと医療者が共同して治療法を選択していくsheared decision making(シェアード ディシジョン メイキング)という方法が取られることが多くなりました。それぞれの治療法の利点、欠点を患者さん自身が理解して、自分にとって一番良い治療法を選択していきます。もちろん患者さんに専門的知識があるわけではないので、医療者が充分な情報と医療の観点から一番良いと思われる治療法を提示し、それが受け入れられるのであればその治療法を、疑問が残るのであればセカンドオピニオンなどを聞きながら治療法を選択していきます。そこにはある程度の自己責任も生じます。
透析が間近に迫ってくると気分が落ち込みます。特に以前透析を経験した方は、「またあの透析か・・・」と落ち込みが激しく、どうしても透析再導入を先に伸ばす傾向があります。しかし、あまりに導入時期を遅らせてしまうと、尿毒症の状態に長く体を置くことになり、決して良いことではありません。これ以上は危険だという専門家の意見を無為に無視することは、後に後悔することにもなるので注意が必要です。自分の納得がいくまで医療者と良く話し合うことが重要です。移植腎機能を失ったからといって(もちろん残念なことですが)、腎不全の治療が終わってしまうわけではありません。次の移植に向かって「攻めの移植人生(攻めの移植後人生)」を送っていただきたいと思います。