移植腎の長期生着のために知っておくべきことについて、北里大学病院の吉田一成先生にシリーズで解説していただきます。
第8回目は、移植腎機能が悪くなってしまったらどうしたらいいのか、についてです。<前編>腎代替療法の選択が必要になった場合、<中編>腎代替療法の選択に向けて(血液透析・腹膜透析)、<後編> 腎代替療法の選択に向けて(腎移植)の3回に分けて解説していただきます。

Q8.移植腎機能が悪くなってしまったら?<中編>腎代替療法の選択に向けて(血液透析・腹膜透析)

■血液透析(HD)を選択する場合
HDの場合には、血液を体外に出して浄化するため、バスキュラーアクセス(VA)である動静脈シャント(AVFあるいはAVG)が必要になります。腎移植後もAVFを閉鎖せずにそのまま残している人もいますので、その場合はそのまま使えるのですが、AVFが無い人ではそれを作製する必要があります。VAを作製するにあたっては心臓の機能、腕の血管の状態を調べてAVF作製手術の準備をします。AVFは作製後使用できるまでに少し時間がかかります(1~2週間)ので、あまりギリギリになって作製するのではなく、余裕を持って行う方が良いと思います。

日本で多く行われているHD療法は1回4時間程度のHDを週3回繰り返すものですが、実はこれだけでは本来の腎臓の働きには到底足りないものです。週7日のうちHDをしているのは12時間、つまり半日に過ぎず、これは正常腎機能の約10分の1に過ぎません。この不足を改善しようと、最近は1回の透析を6時間以上、場合によっては8時間(つまり2倍)行う、長時間透析(long hemodialysis, LHD)も出てきています。心臓への負担が少ない、食事の制限が緩和されるなど多くの利点がありますが、昼間に1日8時間ベッド上でHDを受けるのでは働くことができません。そのため、夜間寝ながらHDを受ける患者さんもいます。夜間に充分な人手が無い状況でHDを受けるので、病状があまりに危険な患者さん、例えば心機能が悪い、糖尿病のコントロールが悪いような方は受け入れてもらえないですし、夜間LHDを行っている透析施設は限られています。また、HDを自宅で行う(多くの患者さんはほぼ毎日自宅でHDを行う)在宅透析(home hemodialysis, HHD)も出てきています。家族と団欒しながらHDが出来る、頻回(例えば毎日)HDが出来る(そのため透析量が増加します)、などの多くの利点はありますが、医療者が行っていたHDの用意、穿刺、透析器械の設定などを自ら行う必要があり、緊急時の対処方法なども含めて、これらを自ら学んで出来るようにする必要があります。また、HD中に血圧が下がって意識を失った時に対処できるよう、必ず家族など、他の人が一緒に見ている必要があります。
HHDでは患者さんは月に1回の医療機関への受診で済むことが多いのですが、HHDを実施できる透析施設も限られています。LHDもHHDも少しずつ増加しているものの、患者数はまだ非常に少ないのが現状です(*1)

■腹膜透析(PD)を選択する場合
もう1つの在宅透析方法がPDですが、PDは腹腔内に透析液を入れ、老廃物が染み出し、除水ができたところで新しい透析液と交換して透析を行う方法です。通常は1日に4回程度の透析液の出し入れを繰り返します。実はこの透析方法は100年以上前からあったのですが、1980年代に腹膜透析システムが改良され、入院ではなく日常生活の中で実施できるようになりました(CAPD)。

PDを考える場合は、透析液を腹腔内に出し入れするためのペリトネアルアクセス(PA)を作製する必要があります。VA手術はほとんどの場合、局所麻酔で行えますが、PAを作製する場合には麻酔、入院が必要になることが多いのでスケジュールを調整します。PAのカテーテル(管)を予め挿入手術で皮下に置いておき、PDが必要になったときに局所麻酔での小手術でカテーテルの端を取り出してPDを開始することもできます。
PDは老廃物や水分の除去が緩徐で心機能に大きな影響を与えない、在宅なので社会生活の自由度が高い、という長所もありますが、カテーテルが皮膚の外に出ているので感染を起こしやすく、透析効率も高くはありません。また透析液が腹膜に少なからず障害を起こすので、長期間は行い難く(7年程度以下)、基本的にはある程度の腎機能が残っている(残腎機能がある)人がその対象になります。
透析液の交換を寝ている間に機械で行う方法もあり、その人の社会生活パターンに合わせた治療ができます。ただし、カテーテルのケアなど自ら治療を行う必要があるので、自己管理がきちんとできないと危険が伴います。腎移植後に自己管理を上手に行ってきた方にとっては問題なくできると思います。PDも安定していれば月に1回の外来受診ですみます。移植腎機能廃絶後、PDを選択するのは米国では8%、カナダで20%、スペインで5%(*2)というデータがありますが、日本ではそもそもPDを行っている患者さんが少なく(3%以下)、移植腎機能廃絶後のPD導入のデータ評価がありません。

HDとPDの長所と短所を充分に理解して、どちらが自分にとって良いのかを移植医や腎臓内科医と一緒に相談して決めることが必要です。

*1 JSDT 統計2017
*2 Am J Kidney Dis 49(supple1) s99-110, 2007