前回は「透析を経ない“先行的腎移植”」のお話をさせていただきました。おかげさまで反応が大きく、コラムを読まれて腎移植を希望される方が相次いで来院されました。今回は「腎移植にかかる費用と、医療保障制度について」のお話をしたいと思います。
移植を希望されて外来に来られた方の多くから、移植の費用に関しての質問を良く受けます。移植には幾らくらいかかると思うかお尋ねすると、「自己負担額は数万円でしょうか」と答える方もいらっしゃれば、「自己負担額は500万円くらいかかるのではないでしょうか」と答える方もいらっしゃいます。

これに対する結論を先にお伝えしますと、現時点では、皆さんの自己負担は実際には極めて少額で済みます。

医療にお金がかかるのは、当たり前です。例えば、移植後服用しなければならない免疫抑制剤は1カプセル1,000円位するものもありますので、これを毎日5カプセル服用すると1日5,000円。1ヶ月で15万円かかります。もちろん1種類のみ服用するわけではありませんので、2~3種類服用するとそれだけで数十万円となります。
また、生体腎移植の場合、手術料金のみで60万円ほどかかりますので、移植手術前の透析、麻酔の費用、薬剤費、検査料、入院基本料その他と併せますと、移植のために入院された月には、医療費としては約400万円、ABO不適合腎移植など特殊な医療をすると、さらに血漿交換など高額な処置が追加されますので、500万円以上になることもあります。
もちろん皆さんは日本に住んでおりますので、健康保険に入っております。上記の移植手術にかかる費用(約400~500万円)の1割~3割が一般的には自己負担となり、数十万円~百数十万円の自己負担が本来生じることになります。

ところが、ここからが非常に重要ですので、良くお読みください。

(図1)に示した様にまず、2種類のケースがあります。

1つは透析療法を経てから移植する場合です。この場合は透析患者さんの多くは、身体障害者1級を有し、重度心身障害者医療費助成制度※ が適応となっております。
※重度心身障害者医療費助成制度:障害がある方とその家族の経済的負担を軽減するため、医療機関を受診した場合の医療費の自己負担額を軽減する制度。都道府県や市町村が実施しており、対象となる障害の程度や助成内容も各自治体によって異なる。

また、身体障害者手帳(腎臓機能障害)をお持ちの方に対しては、透析療法および腎移植医療に対して自立支援医療(更生医療)※ が適応となりますので、その方の状況に応じて最適な医療保障制度を利用することが出来ます。
※自立支援医療制度:心身の障害を除去・軽減するための医療について、医療費の自己負担額を軽減する公的負担医療制度
【参照1】厚生労働省HP 自立支援医療制度の概要 【参照2】厚生労働省HP 自立支援医療(更生医療)の概要

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もう1つのケースは前回触れました「透析を経ない“先行的腎移植”」のケースです。このような腎移植を予定される患者さんは、移植前には身体障害者3級あるいは4級を取得しておくことが肝要です(表1)。
3級は健康保険の自己負担割合が3割から1割となりますが、4級は3割のままです。この点で3級と4級で外来検査の際の自己負担割合が若干異なりますが、前述の自立支援医療(更生医療)は身体障害者手帳を持ってさえいれば適応となり、腎移植目的の入院の際には、重度心身障害者医療費受給者証をお持ちでない方も、自立支援医療(更生医療)制度により医療費が補助されます。
よって、本来かなりの金額が必要となる腎移植のための入院費も実際は補助が受けられることになりますので自己負担額はせいぜい数万円で済むことになります。

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なお、身体障害者等級3級あるいは4級で先行的腎移植を受けられた方も、移植を行った日からは1級となります(図2)。

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これまで当院で腎移植を受けられた方の実際のお支払い額を(表2)に示しましたので、ご覧下さい。
診療点数x10円がその月の医療費ということになりますので、例えばNo.1の方は約370万円かかっているという事になりますが、実際の本人の負担額は1万円でした。その方の納税額(収入)に応じて負担額には差がありますが、総じて移植を受けた月は、せいぜい数万円の負担額で済むことがわかります。実質負担なしという方もおりました。なお、食費や、病衣そのたの医療費以外の実費は別途かかることはご理解下さい。
ここでお話をさせて頂いた、各制度や負担額は、お住まいの都道府県や個々人の状況により細部が異なる場合もあり、また小児は別の補助制度がありますので、詳細は各医療機関や各都道府県、市町村にご相談いただきたいと思います。

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