MediPress編集部コラム【腎移植後のお金シリーズ】では、移植後の生活の中で、腎移植者のみなさんが現実的に向き合うお金の問題について、わかりやすく解説をしていきます。
第5回目は、「腎移植後の民間の医療保険」についてです。
「腎移植をした後に加入できる医療保険はない」と思っている方が多くおられるようですが、そんなことはありません。いくつかの簡単な条件を満たせば入れる商品があります。一方で、本当に民間の医療保険に入る必要があるかどうか、きちんと見極める必要もあります。
ご自身とご家族の生活状況を踏まえた上で、リスクヘッジとしての民間の医療保険について、考えてみましょう。
※以下文章内に含まれる情報は、2015年8月現在のものです。随時変更される可能性がありますので、最新情報は各自ご確認ください。
~腎移植後のお金シリーズ~
第1回 医療費助成制度と障害年金
第2回 小児のための医療費助成制度
第3回 身体障害者手帳により受けられるサービス①(税金、交通機関)
第4回 身体障害者手帳により受けられるサービス②(公共料金、公共施設)
第5回 腎移植後の民間の医療保険
第6回 腎移植後の民間の生命保険
腎移植者の民間保険加入の実績は?
昨年11月に実施した「MediPress腎移植 2014年度オフィシャルアンケート」にて、腎移植者の方に、「民間の生命保険や医療保険に加入していますか?」という質問をしたところ、結果は以下のとおりでした。
生命保険・医療保険ともに、移植前から加入している人がそれぞれ56%・41%と多く、移植後から加入した人は10%未満と非常に少ないことが分かりました。また、「現在は加入していないが、可能であれば加入したい」と考えている人が生命保険・医療保険ともに、全体の25%程度を占めていることから、民間の保険に対する一定のニーズがあることも分かります。
医療保険の種類
では、まずは医療保険の種類について説明します。医療保険は、大きく以下の2つに分けることができます。
↓
① 国の社会保障制度のひとつである「公的な医療保険」
② 保険会社が販売する「民間の医療保険」
公的な医療保険とその役割
公的な医療保険とは、保険証を提示して利用する、いわゆる「健康保険※1」や「国民健康保険」などのことです。加入者やその家族に医療が必要となった場合、公的機関が医療費の一部を負担してくれる制度です。
日本では、すべての人が公的医療保険に加入する「国民皆保険」の仕組みになっており、現在の公的医療保険では、医療費の自己負担割合は1〜3割となっています。
腎移植者の皆さんには、公的医療保険に加えて、医療費助成制度※2が適用されますので、移植後の免疫抑制療法に関する治療費は、実質的に毎月の自己負担額が0〜2万円程度に抑えられているケースが多いようです。
また、公的医療保険には、「高額療養費制度」がありますので、免疫抑制療法以外の病気・ケガで医療費が高額になっても、一定の金額以上は自己負担をする必要がありません。後から払い戻しを受けることができます。
※1:組合管掌健康保険、全国健康保険協会管掌保険など。
※2:医療費助成制度の詳細については、【腎移植後のお金シリーズVol.1_医療費助成制度と障害年金】、【腎移植後のお金シリーズVol.2_小児のための医療費助成制度】をご参照ください。
民間の医療保険とその役割
それでは、民間の医療保険の役割は何でしょうか。
こちらは、公的な医療保険及び医療費助成制度ではカバーできない部分の補てんや、将来のリスク・不安を軽減するための商品だと言えます。
民間の医療保険でカバーされる主な内容としては、以下の2つが挙げられます。
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①病気やケガをして入院をしたときの給付金支給
②手術をしたときの給付金支給
例えば、腎移植者のみなさんが「ニューモシスチス肺炎で1カ月間の治療入院をした」というような場合には、先に書いたとおり、公的医療保険(健康保険や国民健康保険など)の適用と、医療費助成制度による自己負担額の助成で、実際には少額の支払いで済みます。ですから、民間の医療保険に入る必要性はあまり感じないかもしれません。
しかし、1カ月間入院し働くことができない場合には、その間の収入はストップします。会社員であれば、会社によっては各種サポートがあるかもしれませんが、自営業者の方にはそのようなサポートシステムは一般的にはありません。また、公的医療保険の傷病手当金についても、国民健康保険では、支給されない場合も多いようです。
そんなとき、民間の医療保険に加入していれば、給付金によって生活費を補てんすることができますから、お金に関するプレッシャーは軽減するでしょう。
つまり、民間の医療保険の主な役割は、公的な保障では足りない場合の補てんです。
ですから、民間の医療保険への加入を検討する際には、まずはご自身が加入している公的医療保険の保障内容を調べることが第一です。手術や入院が必要になったとき、「ご自身がどのような保障を受けられるのか」、「その保障額で自分や家族の生活費などをまかなえるのか」を知り、その上で民間の医療保険の加入を判断しましょう。
慢性腎臓病でも入れる民間の医療保険
(限定告知型保険・引受基準緩和型保険)
将来の安心のため、やはり民間の医療保険に入ることも検討したいという方には、持病があっても入ることのできる医療保険商品があります。保険料が割増になっている代わりに、加入条件が緩やかに設定されているので、過去に一般の保険に入れなかった方でも、加入できる可能性があります。
■商品の探し方
健康上の理由(持病・既往症)などで、通常の保険に加入できない方のために設計された保険は、「限定告知型保険」「引受基準緩和型保険」などと呼ばれています。インターネットなどで検索する際には、このキーワードを入れてみてください。多くの商品がヒットします。
■加入条件
保険会社により異なりますが、多くの場合3〜4つ程度の加入条件が設定されており、その条件を満たせば、医師による診査がなくても加入することができます。以下は代表的な条件の例ですが、商品によって、◯部分に入る年数や条件の組み合わせは異なります。
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<代表的な例>
・過去◯年以内に、病気やケガで入院したこと、または手術を受けたことがない
・過去◯年以内に、ガン等で入院したこと、または手術を受けたことがない
・最近◯カ月以内に、医師の診察または検査により入院または手術をすすめられたことがない
・現在、入院していない など
つまり、腎移植後の一定年数(条件の年数)を、入院や手術などなく元気に過ごせていると、保険に加入できる可能性があります。逆に言うと、再度入院や手術などをした時点で、また一から年数の数え直しとなるので、加入を希望される場合には、「条件的に加入できるとき(腎移植後、体調が安定してよいとき)に加入しておく」ということが、ポイントになります。
■保険料と支払削減期間
「限定告知型保険」「引受基準緩和型保険」は、保険会社がより多くのリスクを引き受けている商品ですので、一般向けのものよりも、保険料が割高になっています。
また、「支払削減期間」が定められているケースも多いようです。これは、契約日から一定期間内に給付金の支払が発生した場合、給付金の金額が一定割合で削減される期間です。
一定期間を経過した後は、通常の給付金額になります。
■特約(とくやく)
医療保険の主契約(入院給付金、手術給付金等)とは別に、特約という付随契約も付けることが可能です。例えば、以下のようなものがあります。
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①先進医療を受けたときの給付金支給
②死亡した場合の死亡保険金支払
例えば、がんにかかって公的医療保険が効かない先進医療を受けたときなどは、この特約をつけていれば、資金的に大きなサポートになることもあるでしょう。また、死亡した場合には、死亡保険金の特約が、公的遺族年金や生命保険を補助するものとして、役立つこともあるでしょう。
まとめ
以上、腎移植後の民間の医療保険についてご紹介してきました。繰り返しになりますが、最初にやるべきことは、“自分は民間の医療保険への加入が必要か否か”を判断することです。そのために、まずは自分が加入している公的医療保険の保障内容を確認しましょう。そして、民間の医療保険への加入が必要だと判断したら、加入できるタイミングを逃さないようにしましょう。