MediPress編集部コラム【腎移植後のお金シリーズ】では、移植後の生活の中で、腎移植者のみなさんが現実的に向き合うお金の問題について、わかりやすく解説をしていきます。
第6回目は、「腎移植後の民間の生命保険」についてです。

前回特集した医療保険と同様に、「腎移植をした後に加入できる生命保険はない」と思っている方が多くおられるようですが、そんなことはありません。いくつかの条件を満たせば入れる商品があります。一方で、「本当に民間の生命保険に入る必要があるのか」「何のために入るのか」を、事前にきちんと検討することが大切です。

ご自身とご家族の生活状況を踏まえた上で、リスクヘッジとしての生命保険について考えてみましょう。

※以下文章内に含まれる情報は、2015年8月現在のものです。随時変更される可能性がありますので、最新情報は各自ご確認ください。

~腎移植後のお金シリーズ~
第1回 医療費助成制度と障害年金
第2回 小児のための医療費助成制度
第3回 身体障害者手帳により受けられるサービス①(税金、交通機関)
第4回 身体障害者手帳により受けられるサービス②(公共料金、公共施設)
第5回 腎移植後の民間の医療保険
第6回 腎移植後の民間の生命保険

社会保障制度の遺族年金について

自分の身に何かあった場合に備えて、残された家族がきちんと生活を維持していけるよう、民間の生命保険の加入を検討している方は多いと思います。しかしその前に、まずは国の社会保障制度である「遺族年金」について、知っておきましょう。

日本の社会保障制度のひとつに「公的年金」がありますが、日本では20歳以上の全国民が加入する「国民皆年金」のしくみがとられています。また公的年金は、加入者の仕事の種類によって、「国民年金」「厚生年金」「共済年金※」の3種類に分かれています。

そして、公的年金に加入していると、生計を担っていた家族が死亡した場合、残された遺族は「遺族年金」をもらうことができます。ただし、加入者がどの年金に加入していたかにより、もらえる遺族年金の種類や金額、もらえる対象者の範囲が大きく異なるので注意が必要です。

遺族年金の種類表

※平成27年10月より、厚生年金保険制度に公務員及び教職員も加入することとし、共済年金は厚生年金保険制度に統一されました。

例えば、会社員の方は「遺族基礎年金」に加えて「遺族厚生年金」ももらえますが、自営業者の方は「遺族基礎年金」だけしかもらえません。また、遺族年金をもらえる対象者の範囲も異なります。実際にはさらに、配偶者の年齢などさまざまな条件が加わりますので、ご自身のケース(対象となる年金の種類や金額等)について、問い合せて確認してみましょう。

<参考>:日本年金機構ホームページ
◆年金の受給(遺族年金)について
◆電話での年金相談窓口について

民間の生命保険の役割

家族

それでは、民間の生命保険の役割とは何でしょうか。
それは主として、社会保障制度である遺族年金の保障額では、その後の遺族の生活費として足りない場合、その不足する部分を補てんすることです。

また、本来の目的とは少々異なりますが、相続税・贈与税対策として、財産分割や節税を目的として利用することもできます。

子どもの教育のための学資保険についても、加入者に持病があると事前審査で加入できない場合があるので、その代替として生命保険を利用し備えておくという考え方もあります。

慢性腎臓病でも入れる民間の生命保険

(限定告知型保険・引受基準緩和型保険)

将来の安心のため、やはり民間の生命保険に入ることも検討したいという方には、持病があっても入ることのできる商品があります。保険料が割増になっている代わりに、加入条件が緩やかに設定されているので、過去に一般の生命保険に入れなかった方でも、加入できる可能性があります。

■商品の探し方

健康上の理由(持病・既往症)などで、通常の保険に加入できない方のために設計された保険は、「限定告知型保険」「引受基準緩和型保険」などと呼ばれています。インターネットなどで検索する際には、このキーワードを入れてみてください。多くの商品がヒットします。

■加入条件

保険会社により異なりますが、多くの場合3〜4つ程度の加入条件が設定されており、その条件を満たせば、医師による診査がなくても加入することができます。以下は代表的な条件の例ですが、商品によって、◯部分に入る年数や条件の組み合わせは異なります。

<代表的な例>
・過去◯年以内に、病気やケガで入院したこと、または手術を受けたことがない
・過去◯年以内に、ガン等で入院したこと、または手術を受けたことがない
・最近◯カ月以内に、医師の診察または検査により入院または手術をすすめられたことがない
・現在、入院していない など

つまり、腎移植後の一定年数(条件の年数)を、入院や手術などなく元気に過ごせていると、保険に加入できる可能性があります。逆に言うと、再度入院や手術などをした時点で、また一から年数の数え直しとなるので、「条件的に加入できるとき(腎移植後、体調が安定してよいとき)に加入しておく」ということが、ポイントになります。

■保険料と支払削減期間

「限定告知型保険」「引受基準緩和型保険」は、保険会社がより多くのリスクを引き受けている商品ですので、一般向けのものよりも、保険料が割高になっています。
また、「支払削減期間」が定められているケースも多いようです。これは、契約日から一定期間内に給付金の支払が発生した場合、給付金の金額が一定割合で削減される期間です。
一定期間を経過した後は、通常の給付金額になります。

■その他

おじいちゃん

商品によって異なる、さまざまな変更可能事項や特約(付随契約)などがありますので、将来必要になりそうなものがあれば、利用するのもよいでしょう。

例えば、これからの時代は、公的年金(基礎年金や厚生年金など)だけでは、ゆとりある老後の生活費が必ずしもまかなえるわけではなさそうです。ですから、「解約時の払戻金を年金のかたちで受け取ることができるもの」を選んでおくというのも、将来を見据えたプランとしては有効かもしれません。

まとめ

以上、腎移植後の民間の生命保険についてご紹介してきました。医療保険のときと同じく、最初にやるべきことは、“自分は民間の生命保険への加入が必要か否か”を判断することです。そのために、まずは自分が加入している公的年金の遺族年金について確認しましょう。そして、民間の生命保険への加入が必要だと判断したら、加入できるタイミングを逃さないようにしましょう。