2018年5月に2日間の日程で鹿児島市で行われた第34回腎移植・血管外科研究会にて、腎移植に関わるテーマで興味深い講演がございましたのでレポート致します。発表内容は聴講した内容を記載しておりますので、発表者の趣旨と異なる可能性があります。毎度ながらご了承ください。

研究会2日目、「腎臓リハビリテーション・エクセサイズと腎移植」というテーマのシンポジウム4が開催されました。
司会は相川厚先生(東邦大学)と、大山力先生(弘前大学)で、4名の講演と特別発言が行われました。運動リハビリ・運動療法は現代を生きる私たちに共通の課題で、腎臓病・腎移植と運動の観点から最新情報が論議されましたのでレポートします。

腎移植血管外科
第34回腎移植・血管外科研究会 シンポジウム4
「腎臓リハビリテーション・エクセサイズと腎移植」
座長:相川厚先生(東邦大学)、大石力先生(弘前大学)

腎移植とスポーツ」
丸井祐二先生(聖マリアンナ医科大学)

運動・スポーツが腎移植後の生活を向上させることを、移植者のオリンピックともいえる世界移植者スポーツ大会(World Transplant Games)に参加して報告されました。この大会は1978年にイギリスで始まった国際大会で、オリンピックさながら多種目スポーツ競技会として隔年開催されています。
日本からも心臓・肝臓・腎臓移植を受けたレシピエント11名が水泳・卓球・バドミントン・ボーリング・ダーツ・陸上競技などにエントリーし、メダルを獲得しました。運動習慣やスポーツ経験があるレシピエントは、スポーツが安全であることに加えて、移植後の生活が改善し、生着率にも良い影響を与えることを証明していました。そしてこの大会の大きな意義として、医療従事者が、移植後の生活にスポーツが有益であることを認識できるということと、この大会を報道することで、移植医療の啓発につなげられるということがあります。
会場から、今回の研究会事務局の鹿児島大学 山田保俊先生が、運動することが腎臓以外の全身に対して良い効果をもたらすことは明らかであるが、運動が腎機能に直接良い影響をもたらすかどうかについて質問されました。直接的な臨床的効果を実際に証明するのは難しいことかもしれません。
移植者スポーツ大会に医療スタッフとして参加したことのある相川厚先生は、この大会では参加者のことを患者とは呼ばず、アスリートと呼ぶことになっており、スポーツによる直接的な臨床効果に加えて、ドナーや家族も参加することにより移植啓発を行う意味があり、イギリスの病院では大会参加の許可を移植外来の主治医に提出する元気なレシピエントがいるというエピソードを話されていました。


「腎移植におけるフレイル」
内田潤次先生(大阪市立大学)

2014年に老年医学会で提唱されたフレイルの概念は、身体的脆弱性を示すレシピエントの予後に影響する因子となってきています。腎不全の病態下では、より若年者に起こり始めており、透析や併存疾患、加齢によってこのフレイルの程度は高くなります。
※フレイル:高齢者が筋力や活動が低下している状態(虚弱)のこと。

内田先生は大阪市立大学のレシピエントに調査を行い、簡易フレイルインデックスという数値を用いて、どのような条件がこのフレイルを悪化させ、レシピエントの生存率・生着率に悪影響をもたらすのかを調べました。その結果、年齢よりも個人個人のサルコペニア(筋肉機能低下)や移植後経過の良し悪し、栄養状態、透析期間が原因になることがつきとめられました。腎移植が最大のフレイル改善のための方策であり、先行的腎移植がそのもっとも良い条件となること、腎移植後でも栄養状態の低下がフレイルになるリスクとなっていくことが示されました。
もともと腎不全による身体的影響の多い状態で腎移植を受けるレシピエントにとって、移植後安定期となる100日目まではこのフレイル悪化のリスクが高いものの、それ以降になるとフレイルの程度は改善してくるということも、内田先生が新たに確認した結果でありました。


次回、「腎臓リハビリテーション・エクセサイズと腎移植」<後編>をお届けします。