2013年4月25日~28日に札幌市にて開催された、第101回日本泌尿器科学会総会での主な演題について、北海道大学 外科治療分野 腎泌尿器外科学 講師 森田研先生にご紹介・ご解説頂くシリーズの第2回目です。
2013年4月25日(木)から4日間、札幌市で行われました上記学会で腎移植に関係した講演を聴講致しました。各部門の専門家を招いて行われた企画講演(特別講演やシンポジウムなど)を今回ご紹介致します。毎度のことながら、内容についての解釈や文責は私にあります。事実と違う点がございましたらご容赦下さい。
献腎ドナーの合併症による対応法 (David A. Goldfarb先生 米国クリーブランドクリニック財団)
献腎移植ドナーの状態によって、移植後の合併症の危険性や、移植した腎臓が長持ちするかどうか、移植によって病気は移行しないか、移植腎がきちんと最初から働くか、という問題を予測する研究が紹介されました。
米国では、献腎ドナーの状況により、標準的ドナー、ハイリスクドナー、などと分類を行っています。KDRI(腎臓ドナーのリスクインデックス)という評価法が臨床経過から判断され、この分類に使われています。また、移植のときの腎生検でドナー腎の評価を行う方法も紹介されました。
KDRIにより計算されるKDPI(腎臓ドナーの状態インデックス)により移植腎の評価が行われており、この値と移植成績を分析して検討が行われています。インターネットでこのKDPI を計算するページが公開されています。
KDPI calculator
このHPを開くと、献腎移植ドナーの年齢、身長、体重、人種、高血圧既往、糖尿病既往、死因、Cr値、感染症、などを入力する欄があり、移植後の機能不全の確率が何%ぐらいあるのか、2012年のドナーの成績を元にして、そのリスクを判断できるようになっています。 この計算式は毎年、前年度のデータを参考に適宜修正されることになっています。
このほかに、亡くなった方から提供される腎臓が実際どの程度の働きがあるかを判定する方法として、腎臓の一部を病理検査に出して数時間で結果を見て判断する方法や、ヨーロッパで主に行われている、摘出腎を冷却しながら自動灌流装置に装着して、その腎血管抵抗や灌流圧、灌流速度などの検査値を指標に腎臓の状態を予測する方法などがあります。最近では、低温冷却状態で灌流するよりも、常温で酸素を十分供給しながら灌流する方が移植腎機能は良くなるということも報告されており、今後の研究が待たれます。
これらの評価法を用いて、1個だけの腎臓では不足と判断されるような場合は、大人の腎臓でも2個同時に移植したり、腎臓を廃棄する判断が実際行われています。臨床的にはこのKDRI、病理所見、灌流の状況などを総合的に判断することが必要であると思われます。実際に日本では心停止下などの、より困難な状況で腎提供が行われることがこれまで多かったので、移植に使えるかどうかの判断は現場で臨床医の経験と勘で行われて来ました。これをスコア化しようとする試みです。
日本でも最近、富山県で行われた小児ドナーからの2腎同時移植は、2つの腎臓をバラバラにすることなく大血管ごと血管吻合することで行われました。小児の腎臓は構造が細かいため腎移植早期の手術合併症が多いものの、2つ移植した方が移植後の機能不全は少なくなるようです。一般的に体重が10kg以下のドナーでは、2腎を同時に移植した方が成績は良いと言われています。
米国では、薬物乱用や性的偏向、感染症を持つドナーの割合も多く、感染対策局からドナーの感染症についてのガイドラインが出ています。最近、アメーバや狂犬病、といった稀な感染症が移植で移行したことが報道されていますが、これらに対する注意も必要です。
会場から、病腎移植や修復腎移植についての米国での可能性について質問がありました。実際に米国でも小さな癌のある腎臓が、1個丸ごと摘出されて捨てられているという実態を指摘した質問でした。これに対しては、そのような腎臓を利用した移植の成績は悪くはないと思われるが、癌を切除した後の腎臓を移植したことで起こりうる危険性について、移植の際に医師が考える危険性を、患者・家族が十分理解出来るよう説明できるかが、非常に疑問であり、移植を受ける側がその場で正しい判断をすることは困難であるということで、癌を取り除いた後の腎移植は適切ではないとの返答でした。移植しないで捨てられる腎臓が一定数あるのは事実でありますが、泌尿器科医が行うべきことは、そうであれば腎部分切除手術を選択することです。一方、生体腎移植を希望されてきた方々の術前検査で小さな腎疾病が発見されたために、それを修復してから移植するということは、移植を行う前提が先行しているので許容できます。しかし、癌の治療を行う必要が先にある方に、ドナーになって他人への移植を考えることは問題であるとGoldfarb先生は話していました。
解説・文責:北海道大学 外科治療分野 腎泌尿器外科学 森田研先生