腎移植における「TDM」とその重要性-その1から続く

TDM

同じ量の薬を服用しても吸収が良ければ、そして代謝・分解が少なければ、薬の血中濃度は上がります。もちろん薬をたくさん飲めばそれだけ血中濃度は上がるはずです。ただ、吸収には限界がありますし、血中の薬が多くなるほど普通代謝・分解も上昇しますが、これにも限界があります。

これらの吸収や代謝の度合いは、それを司っている酵素という体の中のタンパク質の働きの度合いによって左右されます。他にもいろいろな要素がありますが、簡単に言うと吸収に関与する酵素の働きが上がれば吸収が多くなって血中濃度は上がり、逆に代謝に関与する酵素の働きが上がれば代謝が多くなり血中濃度が下がります。

次に薬の血中濃度が上がれば、それだけその薬の作用は強くなると考えられます。薬の血中濃度と作用は直線的に比例するわけではありません。厳密に言えば、薬の血中濃度ではなく、薬が組織に分布して作用を起こす場所での濃度が問題になるのですが、それを測ることは現実には出来ません。いちいち組織を取って測るなんて無理ですよね。そこで、血中濃度からその作用を経験的に推し量ることになります。

また、薬にはそれによって効果を得ようとする作用の他にも、あまり歓迎できないような作用や別の作用、すなわち副作用も発現することがほとんどです。基本的には副作用の無い薬は存在しないと考えて差し支えありません。効果を期待して薬をたくさん飲めば飲むほど副作用も増加します。もし副作用の方が作用より強く、重篤であればその薬を服用することは出来ませんし、そのような薬は使用できないので市場から消えてしまうことになります。

さて、薬よっては作用が発現して効果を生む血中濃度と副作用が強く出てしまう血中濃度がかなり近いことがあります。つまり、ほんの少し多く飲んでしまったら副作用の方が多く出てしまうのです。いわゆる微妙な「さじ加減」が必要となります。ここで、薬の血中濃度は吸収と代謝・排泄の度合いによって決まってくることを思い出してください。ほとんどの薬ではこれらの度合いはほぼ一定です。よって例えば100mgの薬1錠ずつを1日3回服用すれば良いと言った具合に成ります。

しかし、前回の記事でも書いたようにカルシニューリン阻害薬のような薬では吸収と代謝の度合いが、まず、人によって変わります。さらに、その人の状態によっても変化するので厄介です。ある人は1日100mg服用すればちょうど良い血中濃度が得られるのに、他の人では200mg服用しないといけない、あるいは、今日は100mgで良かったのが、数日後には125mgの服用が必要になるということになります。

そこで薬の血中濃度を測定して、それまでの臨床データや経験の蓄積から、どの程度の濃度であれば十分な効果が得られ、副作用も少ないかを判断して次の投与量を決めます。さて、薬を服用すると、その薬の血中濃度は服用からの時間によって変わるのでしたね。そこで、服用後何時間目のあるいは服用前(前回の服用から一番時間が経っている)の血中濃度かを明らかにしておく必要があります。服用前の血中濃度と服用が2時間目の血中濃度では比べ様がありません。腎移植後の免疫抑制薬は安定するまでの1〜3ヶ月は特に、その後も1ヶ月に一度程度は薬の血中濃度を見て薬の投与量を調整する必要があります。

よく、薬の飲み合わせということを言われますが、別の薬によって吸収や代謝の度合いが変わってしまうこともあります。 それは、別の薬によって薬を代謝する酵素が多くなったり、働きが阻害されたりすることがあるからです。代謝酵素の働きが別の薬によって上がれば、免疫抑制薬も多く代謝されて血中濃度が下がったり、逆に酵素の働きが下がって血中濃度が上がったりするわけです。

また、薬によっては油に溶けやすかったり、水に溶けやすかったりします。この性質の違いで、体の中のどの部分に分布するかが変わるので血中濃度や薬の効果の時間的変化が変わります。脂肪が多い人、筋肉が多い人でも薬の血中濃度曲線や効果が変わってきますし、排泄機能、すなわち腎機能や、肝機能によっても影響を受けます。薬の吸収は食事によって左右され、これも血中濃度を変えます。

このようにTDMは、薬剤師の中でも専門の人たちによって、とても複雑な薬の動態を考慮して、採血した薬物の血中濃度からいろいろなパラメータを算出し、これを移植医が見て、薬剤師と相談し、症状等も考慮して判断した後、移植した患者さんに次の服用量が伝えられることになります。

免疫抑制薬の調節は腎移植には重要であり、TDMが移植に果たす役割は大きく、よって薬剤師の存在はチーム医療である移植医療には欠かせないものなのです。