九州エリアの移植医療の中核を担う九州大学病院。こちらの施設では、2015年までに740例以上の腎移植が行われており、腎臓内科、糖尿病内科、小児科、泌尿器科などと連携を取りながら、小児腎移植、血液型不適合移植、2次移植、既存抗体陽性のハイリスク症例の移植にも積極的に取り組んでいます。腎移植後の成績も良好で、5年生存率・5年生着率はそれぞれ98.3%、95.8%となっています。
膵臓・腎臓移植外科の岡部安博先生と加来啓三先生に、九州大学病院における腎移植・膵移植への取組みと、今後の展開についてお聞きしました。
Chapter1 九州大学病院おける腎移植・膵移植の状況ついて
まず、九州大学病院における献腎移植の状況について教えてください。
岡部先生:
全国的な傾向と一緒で、心停止後の臓器提供が減っていますが、脳死後の提供が特別増えているわけでもありません。そのため献腎移植件数も増えていません。臓器提供を増やすための施策については、どのエリアでもいろいろと模索していると思いますが、現時点では、まずは各地で地道に啓発活動を行っていくことが大切だと思います。
献腎移植の待機期間は現在、成人で約16年と言われていますが、膵臓移植はどのくらいでしょうか。
加来先生:
膵移植は、糖尿病専門医の治療によってもなお、血糖コントロールが難しい1型糖尿病の患者さんが対象です。待機期間は平均で約3年半です。中には2年くらいで連絡がくる方もいますが5年以上待たれている方もいます。まだまだ脳死ドナーは少ないのが現状です。
日本全国における膵臓・膵腎同時移植数は年間35~40件程度ですが、昨年度は6件を当院で行いました。
膵腎同時移植の最近の成績はどうですか。
加来先生:
膵腎同時移植の場合の移植腎の生着率は、生体腎移植とほぼ変わらず、5年で90%くらいです。膵臓の生着率は5年で80%くらいです。
生体腎移植の最近の状況についてはどうでしょうか。
岡部先生:
九州全体としては、年間150件前後の腎移植が行われていますが、当院においては、年間60~70件の生体腎移植と、加えて献腎移植と膵移植を行っています。
当院は博多駅からも便利な場所にあり、例えば鹿児島からでも、今は新幹線ですと1時間半で来ることができますので、九州一円から患者さんが来られます。
最近の生体腎移植の傾向があれば教えてください。
岡部先生:
手術手技、術後管理、免疫抑制薬などが良くなりましたので、レシピエントとドナーの血液型が違っても腎移植の成績に影響が無くなり、他人同士である夫婦間移植が増えています。また高齢のレシピエントも増えています。当院で移植を受けた方の中には、70代後半の方もいらっしゃいます。
レシピエントと同じく、高齢のドナーも増えているのでしょうか。
岡部先生:
高齢の夫婦間移植が増えていることや、お孫さんに提供したいという方もいらっしゃるため、ドナーも高齢の方が増えています。
2014年に、日本移植学会と日本臨床腎移植学会から「生体腎ドナーガイドライン」が発表され、マージナルドナー※についての基準も定められました。当院では、その基準に合えば腎提供していただいていますので、70代のドナーの方も増えています。
※マージナルドナー:以前はドナーとして対象とならなかった高齢者、糖尿病患者、高血圧患者などからの腎提供のこと
2次移植、場合によっては3次移植を受ける方も増えていますか。
岡部先生:
当院ではまだ3次移植の経験はありませんが、2次移植を受ける方は普通にいらっしゃいます。2次移植の際は、1次移植の反対側に移植するだけで、プロトコールなどもほとんど変わりません。また3次移植待機中の方もおられます。
現在、初診から生体腎移植手術まではどのくらいの期間がかかりますか。
岡部先生:
ケースバイケースですが、先行的腎移植(PEKT)で移植を急ぐ場合には、初診から1カ月以内に手術の予定を組むこともあります。通常は、検査をして移植するまで最低でも2~3カ月は必要です。移植希望者も増えているので、現時点では長い場合は3カ月~半年くらい待っている患者さんもおられます。
当院の受診を希望される方は、まずはレシピエント移植コーディネーターに連絡してください。初診の患者さんには、レシピエント移植コーディネーターが移植に関する情報提供、事務手続きの管理、移植前の検査の案内など、さまざまな対応を行っております。コーディネーターが確認した患者さんの背景、合併症、服用薬などの情報を確認した上で、私たち医師が診察を行っています。