前回のコラム「薬を正しく飲み続けるために【1】Part1、Part2」では、薬の体内の動きについてお話ししました。今回はそれを踏まえ、免疫抑制剤と相互作用のある、セント・ジョーンズ・ワートについて解説していきたいと思います。
免疫抑制剤の服用者がセント・ジョーンズ・ワート含有製品を摂ると、免疫抑制剤の血中濃度が下がってしまい、適切な免疫の状態を維持できなくなるため、摂取は避けましょう。
セント・ジョーンズ・ワート( St.John’s wort )とは
一般的にセイヨウオトギリソウと言われます。
学名:Hypericum perforatum Lから、ヒペリクムソウと呼ばれることもあります。
黄色い花を咲かせるヨーロッパ原産の多年草のハーブで、気持ちを楽にする作用があり、うつ病の治療に利用されることがあります。
他の表現で、西洋弟切草、 Klamath weed、 Goat weed、 貫葉連翹 と書かれていることがあります。
セント・ジョーンズ・ワートの有効成分を抽出したエキスやフリーズドライにしたもののカプセル剤、チンキ剤(※1)や乾燥ハーブなど多様な商品が販売されています。
一見して、セント・ジョーンズ・ワートが含まれていることがわからない商品もあるので注意が必要です。
※1 チンキ剤とは、生薬やハーブの成分をエタノール、またはエタノールと精製水の混合液に浸して作られる液状の製剤のこと。
セント・ジョーンズ・ワート( St.John’s wort )と免疫抑制剤の相互作用はどのようにして起こるのでしょうか?
少し専門的なお話になりますが、セント・ジョーンズ・ワートの主な有効性成分は、ヒペリシン(hypericin)、ヒペリフォリン(hyperhorin)とされており、このヒペリフォリン(ハイパーフォリン、hyperhorin)が、医薬品との相互作用を引き起こすと考えられています。
生体にはPXR (Pregunane X receptor:プレグナン・エックス・レセプター) という異物を認識する核内受容体(※2)があり、その働きにより薬物代謝酵素CYP3A4の遺伝子発現がコントロールされています。
PXRがセント・ジョーンズ・ワートの成分のヒペリフォリンを認識すると、遺伝子の転写が亢進されCYP3A4という酵素がたくさん作られます。このように、薬物によって酵素がたくさん作られるようになる作用を、薬物の酵素誘導と言います。セント・ジョーンズ・ワートは酵素誘導をする代表的な食物です。
CYP3A4で代謝されるタクロリムスやシクロスポリンは、誘導によって通常時以上に生成された酵素によりいつもよりも早い速度で代謝されていき、この結果血中濃度が下がってしまい、免疫抑制剤の効果が減弱してしまうと考えられています。
※2 核内受容体とは、細胞にあるたんぱく質の一種で、代謝などの生命維持の根幹にかかわる遺伝子の転写に関与しています。
次回は、免疫抑制剤との相互作用②として、グレープフルーツについてお話したいと思います。