前回 『~薬について Part1~』では、体内での薬の流れと、薬の性質を解説していただきました。 今回は、薬の作用や相互作用に大きく関わる代謝と排泄について解説していただきます。



代謝とは、主に異物を無毒化したり、体外に排泄しやすいように異物の性質を変える作用を言います。この代謝を担う主な臓器が肝臓です。
排泄とは異物を体外に出すことであり、この作用を担う重要な臓器が腎臓です。

肝臓と薬

薬も体にとっては異物であるため、代謝を受けるものがあり、主に脂溶性の高い薬物がこの代謝を受けます。薬物代謝の主な作用は、薬の活性(薬として期待される効果)をなくすこと、更に尿と一緒に排泄されやすいように、水に溶けやすい性質に変えることです。
薬物代謝において特に重要な役割を果たすものに、CYP(シトクロームP450)という、異物を代謝するための酵素があります。
CYPにはいくつかの分子種があり、たとえばタクロリムス(プログラフ®、グラセプター®)、シクロスポリンはCYPの3A4という分子種で代謝されることがわかっています。
薬物の中には、これらの薬物代謝酵素の働きを強めてしまう作用(専門用語で酵素の誘導と言います)を持つものや、逆に薬物代謝酵素の働きを弱める作用(専門用語で酵素の阻害と言います)を持つものがあり、このような作用を持つ薬物を併用することで、例えば免疫抑制剤の血中濃度が低くなってしまったり、反対に高くなってしまうなど不都合な相互作用が起こることがあります。

肝臓の機能の低下している人が、肝臓で代謝を受ける薬物を服用した場合を考えます。
Part1でご説明しましたが、薬効を示すのは薬物の内の遊離型薬物(タンパクに結合していない薬物)です。一般的に、肝臓の機能が低下すると、肝臓で合成されるタンパク量が低下します。すると遊離型薬物の割合が増えるため、薬の作用が強くなり副作用が出てしまうことがあります。 また、代謝する力の低下によって、活性を持った薬物が体内に長くとどまることで、薬の作用が長く続き有害な作用が出てしまうことがあります。

腎臓と薬

腎臓の重要な働きの一つは、体内の老廃物や代謝物を尿の成分として体外に排泄することです。
薬の中には、肝臓での代謝を受けず、そのままの形(専門用語で未変化体と言います)で腎臓から排泄されるものがあり、主に水溶性の高い薬物がこれに該当します。
一般的に、腎臓の機能が低下すると、糸球体のろ過能力が低下し薬物が体外に排泄されにくくなります。
腎臓の機能が低下した患者さんが、腎臓から未変化体で排泄される薬物を服用すると、排泄されにくいため、活性をもつ薬物の血中濃度が高くなり、薬の作用が強く出すぎたり副作用が出てしまったりすることがあります。
このため、腎臓の機能状態に合わせた薬の変更や服用する用量の変更、服用する間隔の変更などの調整が重要になります。
他にも消化管や腎臓には、特定の薬物を体内に組み入れたり、くみ出したりするしくみ(専門用語でトランスポーターと言います)もあり、やはりそれを阻害したり誘導したりするような薬物を併用することで血中濃度に影響を与えることがあります。
シクロスポリン(ネオーラル®)は、薬物代謝酵素のCYP3A4と、トランスポーターを利用する薬物であることがわかっています。

Part1、Part2の2回にわたって、体内での薬の流れと、薬の基本的な性質、薬の作用や相互作用に深く関わる代謝と排泄について解説しました。
これら薬の性質と体のしくみが影響しあい、さまざまな作用、相互作用が起こります。

次回は、これまでのお話を踏まえて、免疫抑制剤との相互作用①として、セント・ジョーンズ・ワート(セイヨウオトギリソウ)についてお話ししたいと思います。酵素の誘導を起こす代表的な例です。