頂いた尊い命への恩返し
移植手術を終えた後のお気持ちはどうでしたか?
鈴木さん:
もちろんドナーの方は教えて頂けないですし、その方やその方のご家族に対して何かをすることも出来ないのですが、母親は年に何回かお参りをしているようで、私は私で移植手術の日は当然ですが、毎日寝る前に必ず感謝をするようにしています。
お仕事の面では手術後、変化はありましたか?
鈴木さん:
手術後は透析治療を受けていた頃と全く違いました。透析を受けていた頃は、週3回、4時間~5時間の時間の拘束があり、仕事にも制限がありましたが、移植後はそれが無くなった分、ものすごく働かせて頂きましたね。
社会貢献のような大それた事は言いませんが、何の恩返しが出来るかという事は常に考えており、医療現場に携わっているので、自分の専門性を使って少しでも皆さんが元気に生きて頂けるような働きかけを介して、頂いた命への恩返しが出来ればいいなと常に思っています。
私は透析治療が無ければ19歳で死んでいたわけですし、27歳で移植して現在まで元気に生きている。その間にもちろん仕事だけでなく、家族を連れて旅行にも行く事が出来たわけです。まだ何年か頑張って働いて、多くの患者さんが元気になるように働きかけていきたいと思っています。
医師への信頼と精神的な安定を保つこと
移植腎を約30年間維持出来た理由は何なのでしょうか?
鈴木さん:
3つあると思います。
1つは、名古屋第二日赤病院で手術を受け、その後も診て頂いているという事です。私は先生を信頼していますし、それがあるからここまで来る事が出来ている。不安になる事もありますが、先生のちょっとした一言でとても助けられる事があります。その信頼感が支えになっています。
もう1つは、頂いた腎臓のHLAのマッチングが良かったという事です。
そして最後に、きちんと働き、精神的にも安定しているという事がいいのだと思います。
現在医療現場に従事していて、患者さんの話を聞いたりする際にも、「何か分からない事があったら、すぐに先生に聞きに行け」と言っています。私が移植をして間もない頃は、今から思えば、「あの時もう少しこうしていれば移植腎の為にも良かったのでは」と思う事も多いのですが、今は先生がエビデンスをもとに回答を持っている事も多いわけですから、先生の言う事を忠実に守っていけばいいと思います。自分の命を預けるのであればとことん預けないとだめですよね。
最後に先生にお聞きしたい事はありますか?
鈴木さん:
どうしたら、より多くの移植患者さんが少しでも長く元気に生活出来るかをお聞きしたいです。
打田先生:
それは、『自分が自分の主治医になる』ことです。しかし、『医師の意見をプロの意見として尊重する』ことも忘れないで欲しいです。
自己流の経験的な解釈で透析生活を長く送ってきた患者さんは、腎移植後の免疫抑制療法も自己流に解釈しがちです。しかし、透析療法と移植後免疫抑制療法は大きく異なります。医師の言葉のある一部分だけを、都合よく捉え自己判断をすることは危険です。しかし、そうは言っても、医師はプロであっても患者さん自身ではありません。患者さんのことを一番しているのはあなた自身です。あなた自身がご自分の主治医となって自己管理;日々の体重測定・血圧測定・内服薬の管理・食事管理・・・などなどを行いましょう。このような毎日毎日の地道な積み重ねが、移植腎を長持ちさせます。