透析導入

その後はどの様な状態だったのでしょうか?

島谷さん
透析治療に入る2~3年前位から、時々腰痛になることと、血圧が少し高め(140超え) になり、よく耳に水が入ったような感じになりました。ただ排尿量や回数などが減るような感じはなく、総体的に体調が悪いといった強い自覚症状はありませんでした。
1994年にはクレアチニンの値が5㎎/dlを超え、BUNの数値も上昇した為、利尿剤をはじめ多種多量の薬を服用し始めました。そして1995年、腎臓機能不全のため、医師より「シャント手術を受けるように」との話があり、透析開始後の通院を考え転院し、5月に内シャント(左腕首)の手術を受けました。
その後半年ほど、腎機能の状態を見ながら透析開始時期をうかがっていましたが、11月に入院して透析治療を開始しました。

当時、透析の知識はどの程度お持ちでしたか?

島谷さん
ほとんど知識が無かったですね。その為、「透析導入してからの平均余命は10年を切っている」という話をどこからか聞き、「透析に入ったら、何年生きられるのだろう?」と思っていました。

その様な心配はあったものの、実際は透析治療を約14年間受けられたのですね。

島谷さん
そうですね。透析のスタッフには今でも本当に感謝しています。治療の質が高いことはもちろんのこと、透析中は精神的に参ってしまう事もありますので、その様な時にも支えてもらって本当にありがたかったです。

透析治療を受けていた頃は、腎移植に関しての知識はお持ちだったのでしょうか?

島谷さん

島谷さん
知識は殆んど無いに等しい状態でした。そういう治療法もあるのだとは思っていましたが、1995年頃の話ですので、今ほど手術件数は多くなかったと思いますし、透析の医師からも、「私は移植医療に関してあまり詳しくないが、献腎登録をし、移植手術を受けるのであれば、市立札幌病院や北大病院がいいと思いますよ」という話をされましたので、1996年に献腎登録をしました。
献腎登録をした頃は、「移植手術を受けるには、白血球の6つの型が合わなければ出来ない、移植が出来ても2年生着率が5割である」などの実際とは異なる曖昧な情報を信じ、わざと目を背けるように、あえて詳しい正しい知識を得ようとは努力していませんでした。
その様に知識を得ようとしなかったのは、透析治療に集中しようと思っていたこともありますし、また当時は「移植が出来る可能性は宝くじに当たるより確率が低い」と思い込んでいましたので、「必要以上の期待を持つと後で落胆するだけだ」と思っていたという事もありますね。

原田先生
献腎移植の待機年数は平均約14年ですので、高額の宝くじに当たるより確率は高いですよね(笑)。また、移植腎生着率も、1995年頃でも、生体腎移植で5年生着率が8割を超えていたと思いますし、献腎移植でも7割はあったと思います。

島谷さん
確かに冷静に考えれば高額の宝くじに当たるより確率は高いですよね(笑)。
透析治療を受けていた時は、もちろん仕事もしていたのですが、職場の理解もありましたので、夜間透析ではなく、早退させて頂いて午後の時間に透析を受けていました。その為、一緒に透析を受けている方も比較的高齢の方が多く、移植の知識はもちろんのこと、透析の知識も少ない方の方が多かったと思います。
また、医療スタッフの方々も移植治療に関しての知識に詳しい方はいらっしゃいませんでしたので、容易に情報を得られる環境にはなかったと思います。

情報が少ない中だったと思うのですが、移植は良い治療だとは思っていらっしゃいましたか?

島谷さん
実は知人で、13年間透析治療をされ、移植手術を受けた方がいらっしゃり、その方からは「透析を長く続けるとよくないぞ。登録した方がいいよ。」と言われていました。
移植に関しての詳しい話は聞きませんでしたが、その方はとても元気でしたので、「移植は、いい治療なのではないかな」とは思っていました。

尊い命の贈り物

その後、献腎移植の連絡を頂くまでは、体調はいかがでしたか?

島谷さん
移植を受ける直前の頃は、血圧などが不安定となり、徐々に体調の維持が難しくなった為、30年以上勤めていた職場を早期退職しました。体調がいつどうなってしまうか分からない状態でしたので、妻の方で、私がいつ入院しても大丈夫なように、必要なものをすべて備えた入院セットを常に準備(約1ヶ月分の準備)していました。その入院セットは今でも準備しています。
移植手術の為に入院した際も、もちろんご連絡を頂いてから準備をしたのですが、常に用意していた入院セットに必要なものはほとんど入っていましたので、準備にも時間がかからなかったですね。看護師さんにも、「ずいぶん荷物が多いですね(笑)」と言われました。

献腎移植の連絡を受けた時はどの様なお気持ちでしたか?

島谷さん
夜の10時頃に移植の意思確認のお電話を頂いたのですが、「自分が受けて良いのだろうか?将来ある年齢が若い方に譲った方がいいのではないか?」また、長期に透析治療を受けていた為、「移植を受けることが可能な状態(体)なのだろうか?(長期間の透析は、動脈硬化が進むとともに肺などの臓器が石灰化で移植が出来ない場合があると聞いていたため、もう移植出来る体ではないと自分で判断してしまっていました)」その他、「費用・今後の生活などはどうなるのだろう?」と一瞬の間に様々なことが頭の中をめぐりました。

先生、透析歴が10年を超えると移植に際して難しい点も出てくるのでしょうか?

原田先生
それは透析治療の質にもよりますね。透析治療の質が高ければ、石灰化などを遅らせる事が出来ます。日本は透析治療の質が全体的に良いと言われていますが、やはり10年を超えると人によっては様々な症状が出てきますので、特に透析歴が10年を超えた方は定期的な検査を行って体の状態を診ておく事が必要ですね。

その後手術に向けてどの様に気持ちを整理されたのですか?

島谷さん
キャンセルしようかという弱気な考えを、家族から「もう一度やりたい事が出来るチャンスを神様が与えてくれたのですよ」と背中を押してもらいました。 
電話に出るときには、献腎された方の尊い意思を無駄にするような生き方をすることなく、それ迄もそうであったように、前を向き、その時々を一所懸命に取り組もうと決心しました。