移植に向けての心と体の準備の大切さ
その後、移植を受けるまで順調でしたか?
田村さん:
実は移植の順番が段々と近づいていた頃に、定期検査である疾患が見つかりました。最終的にはそれを治療できたので、その後献腎移植を受けることができたのですが、今から思うと移植を待っているときに定期的に健診に行っていて、本当に良かったと思っています。
献腎移植の連絡を受けた時はどの様なお気持ちでしたか?
田村さん:
移植の連絡は全部で3回頂きました。すべて夜中の1時か2時ごろの連絡だったと思います。1回目に連絡を受けた時は、こちらがそのような連絡が来ることを全く予想していなかったので本当に訳が分からず、「何十秒かで判断をしてください」と言われて頭が混乱したような記憶があります。優先順位は3番目とのことでしたが、取りあえずすぐに「行きます」とだけ回答しました。
ただし、実はこの1回目の時には、翌朝移植する病院に行ってから「断ればいい」と思っていました。その当時は透析にも慣れ、透析をしながら仕事も目一杯やっており、その様な生活ができていることに自信も持っていました。移植をするということはせっかくそこまでもってきたその生活を一旦断ち切ってしまうことになりますし、腎臓を頂いてもすぐに駄目になってしまうのではないかと当時は思っていました。
腎臓がすぐに駄目になってしまうかもしれないという話はどこから聞いていたのですか?
田村さん:
勉強会で移植腎の生着率などのデータを見て、移植後に腎臓が機能しなくなる可能性もあるのだと思っていました。頂いた腎臓が駄目になってしまうのは致し方ないですが、もし駄目になって再度透析に戻ったら、自分自身の気持ちが立ち直れないのではないかという思いがありました。その様な気持ちもあったせいか、1回目のご連絡を頂いたときには3番目だと言われて、ある意味安堵感を持ったのを覚えています。
その後、2回連絡を頂き、3回目の連絡で移植手術を受けられたということですね。
田村さん:
2回目の連絡は2004年頃に頂きました。3回目は2008年頃でその時には優先順位が1番目とのことでした。
3回目の連絡を頂いた時には、1回目の時とは違い、「移植を受けよう」という気持ちが固まっていましたので、会社にもきちんと連絡して理解を得、移植手術に臨みました。
心の腎不全からの開放
移植手術を終えた時はどのようなお気持ちでしたか?
田村さん:
移植後3、4日は術後の痛みなどで辛かったですが、4、5日過ぎた後から、おしっこが徐々に増えていく状況を見て、最高の安堵感に包まれたような気持ちの良さでした。水をたくさん飲みなさいと言われたことにも感動しました。
手術後の経過はどうでしたか?
田村さん:
順調だったと思います。大体1ヶ月くらいで退院したと思います。病院の指示に従って行動し、言われた通りに身体は回復し退院したと思います。
せっかく頂いた腎臓なので、しっかりと見守っていきましょうと指示を頂いたことを記憶しています。
移植をしてから一番良かった事、嬉しかった事はどんなことですか?
田村さん:
最初は何しろ嬉しくて、水が一杯飲める,おしっこが出るなど自分の喜びで一杯でした。
しかし、一番の喜びは、移植後に、これまで全く見られなかったような心から大笑いする家族の笑顔を見た時でした。特に息子たちがこれまで見せなかったような笑顔をしているのを見て、本当に嬉しかったです。腎移植が救ってくれたのは私1人の体だけではなく、家族全員の心の腎不全をも救ってくれたのだと思い、それが一番良かった事だと感じています。
改めて感謝の思いが膨らみ、感謝の手紙を書き、移植患者の会へ入会しました。
移植前と移植後では、腎移植に対する考えは変わりましたか?
田村さん:
透析をしていた頃は、夜に透析をして疲れ果てて帰り、次の朝にやっと体が軽くなる感覚を覚えていました。移植後は透析の翌朝の快調な感覚がずっと続くということに本当に感動しました。
移植後は私の中で腎不全の治療には腎移植が一番いいと思うようになりました。移植する前は、移植しても1、2年で腎臓が駄目になってしまったらどうしようと思っていましたが、移植後1、2ヶ月経ってからは、たとえ、1、2年で腎臓が駄目になってしまってもいい、移植後のこの経験が出来ればそれでもいいと思うようになりました。