背中を押されて

その後、移植をしようと思ったのはなぜでしょうか。

高橋さん
当時交際していた現在の主人に勧められたからです。主人は、移植について本などで調べていたようです。透析導入当初は、献腎移植希望の登録もしていませんでしたので、「まずは登録した方がいいんじゃないの?」と、強く勧められました。
また、母からは、実家のご近所の方で、たまたま八王子医療センターで移植を受けた方の話を聞きました。それ以前は、移植医療については全く知りませんでしたので、母が、「盲腸の手術みたいに、簡単にできるらしいよ」とかなり楽観的に話していたので(笑)、「そんなはずはないでしょう?」と言いながらも、移植を検討してみようという話になりました。

当時は現在のご主人との結婚を考えていたのですか。

高橋さん
当時は、私自身はそこまで考えていなかったのですが、周りからの勧めはありました。主人も結婚を考えていてくれていましたので、「移植をしていろいろなことが良い方向に進めばいいな」という気持ちはありました。


岩本先生
ご主人は、移植後、髙橋さんが感染症で入院されていた時も、「先生、大丈夫なんでしょうか?」と、とても心配そうに聞いてこられたので、「高橋さんはとても愛されているな」と感じましたね(笑)。


高橋さん
主人はスーパー心配性なので(笑)、余計なことはあまり言わないようにしています。今も、私の定期通院の日を知っているので、細かい説明はせずに、「全然平気だったよ」と言うようにしています。


その後、移植担当医の先生と初めて移植について話したのはいつごろですか。

高橋さん
2005年に移植を希望して八王子医療センターを受診した時に、初めて先生とお話ししました。その時には、術式や入院期間、免疫抑制剤や移植後の水分摂取などについてお聞きしました。

先生、現在こちらの病院では、移植を検討されている方向けの外来などはあるのでしょうか。

岩本先生
初めて移植の説明をさせていただく場合は、内容が非常に多岐に渡って時間がかかりますので、「移植相談外来」というものを、週に1回、月曜日の午前中に設けています。外来では資料を使って、移植のメリット・デメリットを1時間くらいかけてお話ししています。その後、レシピエント移植コーディネーターの池田さんから、移植にかかる費用などに関しても詳しく説明してもらっています。

患者さんはそのような丁寧な説明を聞いた上で、移植前の検査に進んでいくのですね。

岩本先生

岩本先生
そうですね。移植の説明を聞きにこられた日に、「今日から検査を始めてください」と前のめりになる方もいらっしゃいますが、私からは、「いったん話を聞いて家に持ち帰り、ご家族でしっかりと話し合ってください」とお伝えしています。なぜなら、例えば、胃がんであれば、治療法を自分1人で選択しても構わないと思いますが、生体腎移植というのは生体ドナーを必要としますので、基本的には家族の同意がないとできないからです。生体ドナーとなっていただく方は、医学的には手術をする必要が無い方ですので、慎重に話を進めるようにしています。

移植前の検査はどのくらいの期間をかけて行われるのですか。

岩本先生
検査で何も問題がない場合は、1〜1.5カ月くらいで終わります。ただし、例えば、「心電図異常があるので、循環器内科の先生に診てもらう必要があります」という話になると、かなり時間がかかります。そのため、常に少し余裕をもって、移植予定日の3カ月前から検査をスタートするようにしています。

移植を希望されて受診された患者さんのうち、実際に移植ができる方は、どのくらいの割合なのでしょうか。

岩本先生
だいたい3分の2くらいだと思います。移植手術が難しいと判断したケースの多くが、ドナーの医学的な理由によるものです。例えば、蛋白尿や糖尿病などがある場合です。レシピエントが移植できない理由は心機能低下など手術をする体力がない場合です。

父の愛情

高橋さんの場合は、ドナーはどのようにして決められたのですか。

お父様

高橋さん
父が、「俺がやる」と言ってくれて、決まりました。ですから、ドナーの検査も父しか受けていません。父は、私が20歳のころに透析導入した時も、ドナーになるつもりだったようです。実際に移植手術を受けることが決まった際にも、「透析から解放されるのであれば、俺の腎臓をあげるから」とだけ言ってくれ、それ以上、あまり多くは語りませんでしたね。

移植手術が決まってから、実際の手術までの期間はどのくらいでしたか。またその間、特に気を付けていたことはありますか。

高橋さん
実際の手術までは1カ月くらいでした。その間は風邪を引かないように特に気を付けていました。

移植手術を終えた時の心境を覚えていらっしゃいますか。

高橋さん
ほんの一瞬ですが、痛すぎて、少し後悔しました(笑)。手術後、そんなに時間はかからずに意識は戻っていたと思うのですが、あまりにも痛かったためか、思い返そうとしても、3日分くらいの記憶がありません(笑)。

手術後の経過はどうでしたか。

高橋さん
退院して1週間くらいでサイトメガロウイルスに感染し、再入院しました。その後、膀胱炎から腎盂炎になり入院しました。移植後の最初の1年は、いろいろあって落ち着きませんでしたね。

先生、移植後、サイトメガロウイルスに感染する患者さんは、どのくらいいるのですか。

岩本先生
治療が必要な人は全体の2割くらいだと思います。もともと抗体があるのか無いのかで、サイトメガロウイルス感染症が発症しやすい人とそうでない人がいます。抗体が無い、いわゆるハイリスクの人の場合は、8割くらいの高確率で発症しますね。

逆に、もともと抗体を持っている人の場合は、かかる確率も低いということですね。

岩本先生
抗体を持っている人がかかる確率は2割弱ぐらいだと思います。現在は、感染しても、程度によっては治療薬を内服するだけで大丈夫な人も増えています。以前は内服薬がありませんでしたので、入院してもらい、点滴をしていました。


高橋さん
私がかかった時は入院も必要で、すごく大変な印象でしたが、あれから10年ほどたち、今は治療法もだいぶ進歩しているのですね。