移植手術に向けて

その後、移植担当医の先生と、初めて移植について話したのはいつごろですか。また、その時にはどのような会話がありましたか。

山田さん
始めて戸田中央総合病院の外来に行ったのは、2009年の10月頃だったと思います。移植外科の先生から、手術の方法や、これから受ける検査などのお話があったと思いますが、一番印象に残ったのは、先生が優しい笑顔で、「大丈夫ですよ、安心してください」と言ってくださったことです。その後、腎臓内科で松田先生にお会いし、やはり大変優しく親身に接してくださり、手術への不安が無くなっていきました。

戸田中央総合病院では、初めて移植の相談に来られた患者さんは、どのような流れで診察を受けるのですか。

松田先生

松田先生
現在は、移植外科の清水先生が初診を行い、レシピエントとドナーの組織適合性検査を行います。組織適合性検査で問題がなければ、入院して術前検査を受けていただき、検査を終えた方は、腎臓内科で最終的に移植手術ができるかどうかを決めています。腎臓内科で移植手術の許可を出すと、戸田中央総合病院のカンファレンスで確認され、その後、東京女子医科大学病院の移植のカンファレンスにかけ、移植手術となります。

かなり多くのステップがあるのですね。移植を希望して来られた人のうち、どのくらいの人が実際に移植手術を受けられるのですか。

松田先生
現時点では、移植を希望して受診された患者さんの、ほぼすべての方が移植手術を受けています。何かの検査で引っかかることがあっても、手術の時期を延ばし、治療するなどの対応をしてから移植手術を行っています。

叔父の愛情

山田さんもお母様と一緒に、移植手術に向けて検査を進めていったのですね。

山田さん
はい。最初は母がドナーになってくれると言っていましたので、一通りの検査を戸田中央総合病院で受けてから、最終的に移植が可能かを判断してもらうために、母と一緒に東京女子医科大学病院まで行ったのですが、母の病気のことがあり、「ドナーになるのは難しい」と言われてしまいました。その時の病院からの帰り道のことは、あまり覚えていません。曇っていて寒く、暗い気持ちになり、「どうしようか、どうしようか」と言っていましたね。

その後、ドナーの方はどのようにして決まったのですか。

山田さん
東京女子医科大学病院へ行く前に、祖母を含む叔父家族と集まって話をしていたのですが、病院から帰宅後、「駄目だった」という話をしたら、叔父が、「じゃあ、俺がドナーになるよ」と言ってくれたのです。私と血が繋がっているのは叔父か弟しかいないのですが、「弟がドナーになるのは難しい」というのが、家族皆の一致した考えでしたので、おそらく叔父は、「自分しかいないんだ」と思ってくれたのだと思います。

先生、叔父様や叔母様がドナーになるケースは結構あるのですか。

松田先生
多くはありません。やはり親子間か兄弟姉妹間の移植が多いですね。最近は夫婦間移植も増えています。

山田さんは、小さいころから叔父様との接点が多かったのですか。

山田さん
はい。子どものころから、ものすごくかわいがってもらっていました。


松田先生
叔父様は、山田さんが結婚された時、私に結婚式の写真を見せてくれたのですが、「こんなにきれいなんだよ。本当にありがとう。こんな笑顔が見られるんだったら、ドナーになるなんて安いもんだよ。」と、とてもうれしそうにおっしゃっていたので、私は叔父様と一緒にうれし泣きしてしまいました(笑)。叔父様は照れて、山田さんには直接そのような話はしていないかもしれませんが、「本当に自慢の姪っ子なんだな」と感じました。
移植手術前も、「僕は、温子(山田さん)が『申し訳ない』という気持ちになってしまうのは嫌だし、『ありがとう。ありがとう。』と言われるような、ベタベタした感じも苦手だ」とおっしゃっていましたね。

本当にいい叔父様ですね。ドナーになってくれるというお話があった時は、どのような気持ちでしたか。

山田さん
「うれしいけど、本当にいいのかな?」という気持ちがありました。後は、叔母と従姉妹の気持ちもすごく気になりました。

叔母様や従姉妹とは移植について話をしましたか。

山田さん
叔母とは話しましたが、従姉妹とは直接は話していません。叔母は、「お父さんは自分で決めたら、私たちが何を言っても駄目なのよ。温子が元気になれるのであれば、いいと思うよ。」と言ってくれました。

本当にいい親戚ですね。

山田さん
はい。心から感謝しています。

その後、移植手術前に叔父様とは何かお話をされましたか。

山田さん
叔父は大げさなことが嫌いなので、あまりたくさんのことは話せませんでしたが、感謝の気持ちを叔父と叔父の家族に伝えました。

移植手術が決まってから、実際の手術までの期間はどのくらいでしたか。またその期間の生活で、特に気を付けていたことがあれば教えてください。

山田さん
移植手術までは、半年くらいだったと思います。「まずはとにかく、腹膜透析をきちんとやらなくては」と思っていました。食事制限もあったので、たんぱく質や塩分を取り過ぎないように気を付けていました。最近は外食の際にも、メニューに塩分量が書いてあるレストランもありますので、助かりましたね。

甘くて赤いスイカ

移植手術を終えた時の心境を教えてください。

山田さん

山田さん
手術後の第一印象は、「痛い~」だったと思います。
ICUに居る時に、松田先生が、「移植後はごはんの味がとても良くなるから、たくさん食べてね」とおっしゃってくださったのですが、術後初めての食事でスイカを食べた時の、甘くて体に染みこんでいく感じは今でも忘れられません。暗いICUの部屋の中でしたので、スイカの真っ赤な色も印象的でしたね。

手術後の経過はどうでしたか。

山田さん
とても順調でした。落ち着いて自分の体のことを考えられるようになったのは、一般病棟に移動してからでしたが、腹膜透析の管が体から無くなっていたのは、とてもうれしかったです。

先生、こちらの病院では、移植手術の際の一般的な入院期間はどのくらいですか。

松田先生
だいたい術後2週間です。