千葉東病院レシピエントインタビュー第2回目は、40歳ごろに献腎移植手術を受けられた牧野岩男さんです。約14年の待機期間を経て移植手術に臨まれたときのお話や、移植後、仕事や旅行、患者会の活動と、充実した毎日を過ごしていらっしゃる様子などをお聞きすることが出来ました。
牧野さんが移植を受けるまでの経緯
- 12歳頃 慢性腎炎で入院治療
- 19歳 保存療法開始
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26歳 血液透析導入
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40歳頃 献腎移植手術
献腎移植の登録へ
病状が出始める前はどのような生活でしたか。
牧野さん:
小学校1年生のころ、7歳ぐらいでしょうか、学校の検査で、「蛋白尿が出ているので病院で詳しい検査をしてもらってください」と言われました。その状態が5年生くらいまで続いたのですが、それ以外は、普通に小学校生活を送っていたと思います。
12歳の時に、腰痛やだるさを感じて総合病院に検査入院したのですが、恐らくその時すでに慢性腎炎だったのだと思います。それからは入院生活が続き、18歳の時には慢性腎不全に進行していたと思います。学生時代は、ほとんど入院治療の生活でした。その後、26歳から透析導入となり、約14年間透析をしていました。
献腎移植に関しての情報や知識は、いつ、どのようにして知ったのでしょうか。
牧野さん:
透析導入をした病院の腎臓内科の先生から、導入時に「献腎移植希望登録というものがありますよ」と聞かされました。また、入院していた時にも10代で透析になった方から、献腎移植の希望登録をしたという話を聞いていましたので、登録については知っていました。ただ、移植についての知識は全くありませんでした。
献腎移植希望の登録はいつごろされたのですか。また、移植手術までの期間はどのくらいでしたか。
牧野さん:
透析導入と同時に登録しました。移植手術までの期間は約14年でした。
移植希望の登録後、移植についてどのような勉強をしましたか。
牧野さん:
移植希望の登録をした病院から毎年連絡があり、登録された方に対しての説明会が年に1回、毎年秋ごろにありましたので、その説明会には参加していました。移植の知識はその勉強会で得ていました。
移植希望の登録をされた患者さん向けの説明会というのは、千葉東病院でも毎年行われているのですか。
橋詰コーディネーター:
現在は、説明会はしておりませんが、待機者の方々には毎年受診に来ていただき、その際に献腎移植の現状や実際移植になった時の流れなどを1対1で説明しています。現在、千葉東病院では、370名(2015年3月現在 約400名)の方が献腎移植希望登録をされています。
毎年、移植希望の登録をされている方全員が来られるのでしょうか。
橋詰コーディネーター:
例年ですと登録者の3割ぐらいの方しか来院されていません。今年度は、より多くの待機患者さんが受診していただけるよう新しい取り組みを始め、現在5割ぐらい(2015年3月現在 6割ぐらい)の方が来院されています。まだ年度末まで時間があるので、もう少し増えるかと思います。
受診に来ている方のほうが、来ていない方より全身状態が良いということはありますか。
橋詰コーディネーター:
術前の体調管理は非常に大切です。毎年の受診に全く来ていなかったために、実際移植をする時になって、術前検査で「移植手術ができない」と判断されることがないようにしていきたいです。そのようなことを防ぐためにも、献腎移植希望の登録期間中は、定期的に移植病院を受診していただき、緊急手術へ向けた準備が必要だと思います。
牧野さんは、移植希望の登録期間中、毎年移植病院に行かれていたのですか。
牧野さん:
登録後、最初の3~4年くらいは移植説明会には行っていました。ただ、内容が先生の過去の事例説明で、毎年ほぼ同じだったので、その後は行かなくなりました。
当時は橋詰さんが言われたような、移植希望の登録期間中に個別に移植病院の診察を受けるというようなシステムはありませんでした。
運命だと感じた瞬間
移植希望の登録後、特に意識して気を付けていたことはありますか。
牧野さん:
飲酒と喫煙をしないようにしていました。喫煙は心臓にも悪いと聞いていましたし、当時の透析施設でも、「やめたほうがいいよ」と言われていましたので、しませんでした。お酒は、透析患者が飲むとどうしても体重が増えてしまいます。そうすると、透析の時に引く水の量がそれだけ増えるため、透析の途中で血圧が下がって、意識がなくなりそうになる思いを2~3 回しましたので、それ以来止めていました。
大月先生、一般的に、移植を待っている方はどのようなことに気を付けて生活をすると良いのでしょうか。
大月先生:
飲酒、喫煙をしないことと、体重コントロールが重要だと思っています。メタボや肥満が腎移植時に悪影響を及ぼすということは、データが続々と出ていますし、術後の合併症が多いというデータも出ています。術後の拒絶反応が起こる確率が高いこともあります。
体重コントロールに関してはBMIで判断されるのでしょうか。
大月先生:
そうですね、BMIです。BMIで25は絶対越えていただきたくないですね。理想は22ですが、まずは25未満を目指すとよいと思います。
だいたい体重の5~10%程度の減量で、比較的メタボが改善するということが言われていますので、例えば60kgの人であれば、3~5キロくらいの減量ですね。それを一時的ではなく、続けられるかどうかが重要です。体重をコントロールすることが、透析の管理や、腎移植後の内服の管理にも繋がっています。
また、腎移植や膵臓移植は、血管縫合を主体とした手術ですから、やはり動脈硬化が問題になります。そのため、基本的なこととして、患者さんの血圧、飲酒、喫煙等の状況を見ています。私どもでは、生体腎移植については、喫煙者の手術は控えようかと考えています。喫煙しながら移植するというのは相反することですので。
牧野さん:
では、私は大正解だったのですね。
大月先生:
心づもりが非常に良かったですね。
献腎移植の連絡を受けた時はどのようなお気持ちでしたか。
牧野さん:
移植の連絡が来たのは実はその時が初めてで、登録をしてから既に約14年たっていました。その日、病院から連絡が来たのは深夜の3時で、固定電話の方にかかってきたので、最初は間違い電話かと思って出ませんでした。次に二番目の連絡先として登録してあった携帯電話へかかってきた電話を取ったところ、移植コーディネーターの方からでした。
電話に出ると、「献腎移植の連絡です。牧野さんは4番目の候補者です。」と言われ、いったん電話を切りました。その後、15分後くらいにもう一度携帯電話が鳴りました。今度は、「2番目の候補者に繰り上がりました」ということでしたが、それでも即答することはできませんでした。当時、登録をしてから約14年たっていて、説明会にも行っていなかったので、移植というものが全く分からなかったのです。
すると、コーディネーターの方から、「4番目の候補から2番目に繰り上がることは、普通はありませんよ」と言われたのです。このコーディネーターの方の言葉で、“ 順番が繰り上がるのはめったにないことならば、私は相当強運の持ち主なのかな”、と考え直し、「分かりました」と答えました。すると、「すぐ病院に来て入院してください」という話になりました。深夜3時過ぎのことでした。
当時、タクシー会社の事務と運行管理の仕事をしていたのですが、会社には献腎移植の登録のことを何も説明していなかったので、その時に職場に居た当直の同僚に状況を説明して急いで引き継ぎをし、千葉東病院には朝6時ぐらいに着きました。その後すぐに検査をして、先生から移植手術と合併症等の説明を受け、7時半には手術開始となりました。
移植の連絡があった際、当初は困惑しながらも、最終的に移植を受けようと決断できたのはなぜですか。
牧野さん:
やはり「4番目の候補者から2番目に繰り上がることは、普通はありませんよ」という、移植コーディネーターの方のその一言ですね。「これは運命なのではないか」と思ったのです。