すべての方々への感謝

移植手術を終えた時の心境を教えてください。

牧野さん
意識が朦朧としている中、「終わったよ」と先生から呼びかけられたのを覚えている、そんな感じです。あとは、「これで、これからは透析をしなくていいのだ」と思いました。その時に、すべての方々に感謝する気持ちが湧いてきました。まずはドナーとなられた方とドナーのご家族、先生方、看護師さん、そして電話連絡で、「4番目から2番目に繰り上がることは、普通はありませんよ」と言って決心させてくれた移植コーディネーターさん、すべての方々に対してです。

手術後の経過はどうでしたか。

牧野さん
実は、移植後10日たってもクレアチニンの値が15mg/dlあり、気分が悪い日が続き、食事を食べることが出来ませんでした。術後1週間程度は透析を続けていました。


大月先生

大月先生
牧野さんの場合は、心停止後提供ドナーからの移植でしたので、術後1週間程度の透析は必要でした。術後透析期間が1週間程度までは通常通りなのですが、それが更に伸びてくると、Primary Non Function(PNF)といって、移植した腎臓がそもそも機能しないという心配があり、その確率が上がっていきます。 ただ、免疫抑制剤を飲んでいるうちに、しばらくたってから利尿が得られたという方もいます。日本の献腎移植のドナーの状況は、(最近は少し変わってきましたが)脳死が主体である諸外国と事情が違いますし、心停止でも海外よりもさらに厳しい条件の場合がほとんどです。牧野さんが移植を受けた時は、当院の脳死腎移植はまだ2例しかありませんでした。


牧野さん
また、入院中に尿管障害のために再手術となりました。入院から約3カ月で退院できました。

大月先生、献腎移植をされた方の入院期間は、通常はどのくらいなのでしょうか。

大月先生
通常は1カ月くらいです。
脳死後提供ドナーによる移植の場合ですと比較的退院は早いですね。当院は他の施設と違って、後方支援的なサポートをする病院がありませんので、社会復帰ができるギリギリまで入院していただくため、入院期間は若干長くなります。ドナーの条件やレシピエントの年齢などにもよりますが、平均的には1カ月くらいの入院だと思います。


牧野さん
また、退院してから1年後には、ニューモシスチス肺炎(カリニ肺炎)のために1カ月半くらい入院しました。
私の場合は呼吸困難などもなく体は元気だったのですが、ステロイド剤を10錠飲んで、それを1週間ごとに減らしていく治療だったので、なかなか退院できませんでした。その後5年以上はお陰様で順調です。

食事がおいしくて

移植をしてから一番良かったこと、うれしかったことはどのようなことですか。

牧野さん
透析の時間拘束が無くなったことが一番うれしかったですね。あと、食事が大変おいしく、うれしく感じました。透析を受けていた時はカリウム制限があり、大好きなお寿司やお刺身のような生ものと、果物を食べることを自粛していましたので。
また、2泊以上の旅行に行けるようになったこともよかったです。透析中は、透析を1日ずらしても1泊2日が限界でしたから。
移植後、広島の宮島や、北海道など、いろいろなところに行きました。海外は、水が少し怖いのと、時差もあるので薬の飲み忘れが心配ですね。また、旅先でもし何かあっても、日本であればなんとかなると思うのですが、海外だとすぐに戻って来られないので、それを考えると私は日本の旅行で十分なのかなと思っています。


移植後の生活


大月先生、移植された方の海外旅行は特に禁止はされていませんよね。

大月先生
全く禁止していないですよ。どうぞ行ってきてください(笑)。海外旅行の際には、何かあったときのために英文のサーティフィケーション(移植をしていることや服用している薬について記載)を出しています。税関のスムーズな通過と旅先の急病に備えて、そして患者さんの安心のために出しています。