千葉東病院レシピエントインタビュー第3回目は、数年前に膵腎同時移植手術を受けられた佐藤菜々さん(仮名)です。佐藤さんは小学5年生のころに1型糖尿病を発症し、28歳の時に透析導入となりました。低血糖の発作や、腎不全などの糖尿病の合併症を乗り越え移植されるまでのお話や、移植後、仕事やプライベートで充実した毎日を送っていらっしゃる様子をお聞きすることができました。
佐藤さんが移植を受けるまでの経緯
- 10歳頃 1型糖尿病発症
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28歳頃 血液透析導入
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30歳頃 膵腎同時移植手術
甘いものが欲しくて
病状が出始める前は、どのような生活でしたか。
佐藤さん:
普通に元気で活発な小学生でした。陸上、水泳、スキー、バスケットと、あらゆるスポーツをやっていました。小学5年生の時には、駅伝の大会に出場して、賞をもらったこともあります。
症状が出始めたのはいつごろからですか。またその時の様子を教えてください。
佐藤さん:
1型糖尿病の症状が出始めたのは、小学5年生のころです。甘いものが常に欲しくて、家に帰ると、母や祖母の目を盗んで、お菓子を探していました。普通の子どもが食べる量ではないくらい、大量に欲しました。食べると今度は喉が渇くので、ファンタなどの炭酸系の飲み物を飲んでいました。1.5リットルのペットボトルを2本くらいは、普通に飲んでいましたね。それでまたトイレへ行く、ということを繰り返していました。
先生、1型糖尿病の患者さんは、佐藤さんのような症状以外では、どのような症状をあげる方が多いですか。
圷先生:
スポーツが大好きだったのに、急に走れなくなり、「あれ、おかしいな、もっと走れたはずなのに」という感じで、気付く方もいましたね。
インスリン注射が始まって
そして、インスリン注射が始まったということですね。
佐藤さん:
1型糖尿病と診断され、インスリン注射が始まってからも、食べ物の制限は特になく、運動もいろいろとチャレンジしていました。
先生、一般的に 1型糖尿病の方は、運動の制限はないのでしょうか。
圷先生:
運動すると血糖値が下がりますので、運動を制限される方が多いと思います。
佐藤さん:
私は血糖値が高く、200mg/dl以上が普通だったので、逆に「運動しろ」と言われていました。
圷先生:
血糖値が高いと合併症が増えますので、そのような指導だったのだと思います。逆に血糖値を下げすぎると、今度は低血糖になってしまいます。低血糖を心配するあまりに、夜もよく眠れなかったり、運動をかなり制限する方もいらっしゃいます。
血糖コントロールはうまくいっていたのですか。
佐藤さん:
HbA1c(ヘモグロビン エイワンシー)※というものがあるのですが、私はそれが常に10%を超えていたので、先生からは、「すぐに入院しなさい」と言われていました。
※ 血液中で酵素を運ぶ「ヘモグロビン」とブドウ糖が結合した物質で、過去1~2カ月の血糖コントロールの状態がわかる。正常値は6.3%未満。
圷先生:
HbA1c が高いということは、つまり合併症が増えて進行するということです。それを10~20年続けてしまうとかなり厳しい状態になります。佐藤さんはまだ若いので、大丈夫だったのかもしれません。
インスリンはきちんと打っていたのですか。
佐藤さん:
全然きちんと打っていませんでした。小学生の時に、血糖値を記録する表があり、朝昼晩の数値を1カ月間記録しなくてはいけなかったのですが、最初はきちんとやっていたものの、だんだん面倒くさくなって、診察の1時間前に適当に書いて出していたのです。
HbA1cの1カ月分くらいの結果が出るのですが、たぶん先生には、きちんとやっていないことがわかっていたと思います。
やはり子どもの場合は、そういう管理が難しいですよね。
圷先生:
そうですね。そもそも大人に比べて自己管理をさせるのが難しいというのもありますし、学校でインスリンを打たなくてはいけないので、「友達の前では打ちたくない」とか、「人に見られるのが嫌だ」というのもあって、適当になってしまうお子さんもいるのだと思います。
佐藤さん:
私も、なるべくばれないようにというか、隠そう隠そうと思っていました。病気のことは、友達にも誰にも言っていなかったので、家族しか知らなかったと思います。そういうこともあり、適当にやっていたので、たまに入院するといきなり血糖コントロールが良くなり、先生に、「おかしい。家できちんと打っていないでしょう。」と怒られたりしていました。
低血糖の怖さ
低血糖の発作もあったのでしょうか。
佐藤さん:
低血糖ではよく倒れていましたね。救急車で運ばれたこともあります。知らない間に低血糖になって、ベッドから落ちることもよくありました。ベッドから落ちた時に、ごみ箱に頭を突っ込んでしまい、口から血を流していたこともありました。父は私が低血糖になっているとは思わず、「きっと寝ながらチョコでも食べてたんだよ」と言っていましたが(笑)。
血糖値が高くなればインスリンを打たなくてはいけないですし、打つ量やタイミングを間違えると低血糖になってしまうので、高くなったり低くなったりと、コントロールが非常に難しかったですね。
1型糖尿病の方は、皆さん低血糖の怖さをお話しされますね。
佐藤さん:
会社で倒れて、みんなに運んでもらったこともあります。健康診断の時だったのですが、心電図をとっている時に低血糖で意識を失ってしまい、心電図の服のままおんぶされて医務室に運ばれました。健診前は、「何も食べないでください」と言われていたので、血糖が下がってしまっていたのだと思います。
1型糖尿病は若い患者さんがたくさんいると思うのですが、普通の人は1型糖尿病と2型糖尿病の違いを知らないので、周りの人に、「私は1型の糖尿病です」と言った時に、「甘い物を食べすぎたんでしょう?」などと言われることが多いです。そうではないと説明するのも面倒くさくて嫌だったので、私も1型糖尿病だということを隠していました。「透析をしている」ということを言うよりも、「1型糖尿病だ」と言うことの方が嫌でしたね。
ただ、会社に入って、「1型の糖尿病です」と言ったら、上司や同僚のみんなが、「1型糖尿病とは、どういう病気なのだろう?」とネットなどで調べてくれました。病気のことを周りの人に伝えてからは、結構変わりましたね。皆さんが気にして助けてくれました。
きちんと話せば理解してくれる人もいるので、言ってしまった方が楽になることもありますね。
佐藤さんは、目の合併症もあったのでしょうか。
佐藤さん:
目の合併症もありましたが、レーザー治療を受けていたので、左目の方は現在も結構視力があり、コンタクトや眼鏡をすれば、一応普通に見えますね。