痛みを乗り越えて
移植手術を終えた時の心境を教えてください。
佐藤さん:
終わってしばらくは、とても大変でしたので、「手術しなければ良かった・・・」と思ったりもしました。ホッとしていたのは家族の方で、私は「終わったんだ」とは思いましたが、痛みに耐えるのに必死でした。
圷先生:
佐藤さんは腸閉塞と出血で、移植を含めて手術を2回しましたので、余計に大変だったと思います。腸閉塞はチューブも入れました。その後出血があり、移植1週間後くらいに手術をして、同時に両方を治しました。
膵腎同時移植は、「術後はすごく痛かった」ということを患者さんからお聞きすることが多いです。
圷先生:
傷が大きいですからね。おなかの両側に、簡単に言うとV字型の傷がつくのです。両方ですので、痛いと思います。佐藤さんはさらにもう1回、緊急手術もしましたしね。
膵腎同時移植は、術後しばらくは動けないです。そういう意味では、腎単独の移植よりきついと思います。
痛みはどのくらい続いたのですか。
佐藤さん:
術後1 週間で、だいぶ引きました。
手術後の経過はどうでしたか。
佐藤さん:
尿もたくさん出て、血糖も落ちついていました。ただ、退院後にサイトメガロウイルスにかかり、すぐ再入院しました。
サイトメガロウイルス感染は、薬で治療するのですか。
圷先生:
はい。飲み薬もありますし、点滴もあります。ひどいときには点滴を打ちますが、飲み薬で治ることが多いです。
移植後は、どのくらいの方がサイトメガロウイルスに感染するのですか。
圷先生:
症状は出なくても、ウイルスが血中に出てくる方は、大体4分の1くらいいらっしゃると思います。
果物が食べられる幸せ
移植をしてから一番良かったこと、うれしかったことはどのようなことですか。
佐藤さん:
何でも食べられるようになったことです。私は、バナナなどの果物や豆類など、カリウムが多いものばかりが大好きで、透析中は控えなければならなかったので、大好きなものが食べられるようになったことがとてもうれしかったです。ただやはり、今でも知らず知らずのうちに、あまり食べないように抑えていますね。あとは、普通のことが普通にできるようになったことが、とてもうれしいです。
移植後の日常生活では、移植膵腎のために、特にどのようなことに気を付けて生活をしていますか。
佐藤さん:
出かけるときには、必ずマスクをして感染予防をしています。また、水分を1日2リットル以上は飲むようにしています。
先生、膵腎同時移植をした方が、特別に気を付けることはありますか。
圷先生:
特別にはないですが、やはり食べ物がおいしくなるので、体重が増えてしまう人が多いです。血糖が高い状態が続くと、移植した膵臓に特に負担がかかりますから、体重は増やさない方がいいですね。また、血糖が高い状態を続けていると、移植した膵臓のもちも悪くなるかもしれません。目標としては、退院時の体重を維持するのがいいと思います。
日常の服薬や、血圧、体重などの記録はどのような方法で行っていますか。
佐藤さん:
薬は、小さな薬袋に小分けして、常に鞄の中に入れてあります。血圧などは、朝起きたら必ず測り、ノートに書くようにしています。
移植後、新たに始めたことや、今後の夢はありますか。
佐藤さん:
今まで食べられなかった果物を食べたくて、友達とおいしい物の食べ歩きを始めました。最近は人気のパンケーキを食べに行きました。サイトメガロウイルス感染で入院した時に、ちょうど同じ病室になった移植者の方とすぐに仲良くなりました。今ではその友達と一緒に遊びに行ったりしています。
今後は、お寺や神社、仏像などが好きなので、タイに行きたいと思っています。本当は、新婚旅行でタイに行こう思ったのですが、透析ができないので駄目だと言われてしまったのです。結局、新婚旅行はハワイに行ったのですが、透析をしていたので果物は食べられないですし、透析の時間になってしまうとやりたいことができないので、何にもできないまま帰ってきました。ですからこれからは、夫や友人といろいろな国に行ってみたいです。
先生、海外旅行で行かない方がいい場所はありますか。
圷先生:
特にありませんが、衛生的によくない所は、少し控えた方がいいと思います。
多くの人への感謝とメッセージ
先生方へお伝えしたいことはありますか。
佐藤さん:
圷先生や病院の先生方、看護師の皆さまには、一生分、お世話になりました。本当に感謝しています。
今、私が元気にしていられるのも、皆さまのおかげです。圷先生は、手術ももちろん、外来でもしょっちゅうお世話になっています。妹と会うより先生と会っている方が多いくらいです(笑)。
提供ドナーへの思いを教えてください。
佐藤さん:
ただ「感謝」しかありません。移植後は、本当は体が良くなってうれしいのに、「膵臓、腎臓を頂いてありがとうございました」と言っていいのか分かりませんでした。言いたいことはたくさんあって、ドナーさんのご家族にお手紙も書いたのですが、何と伝えたらいいのか分かりませんでした。
でも、ドナーさんのおかげで元気になれたことは、本当にありがたいことなので、今は、「頂いた」と思わずに、「貸していただいて、一緒に頑張っていこう」と思っています。
現在、膵腎同時移植を待っている方や、膵腎同時移植登録を検討している方へメッセージをお願いします。
佐藤さん:
移植によって100%治るわけではないですし、人によっていろいろな考え方があると思うので、「100%、移植をした方がいい」とは言えません。でも、1%でも良くなることは、本当にすごいことだと思います。今より少し元気になることができれば、その後、さらに元気になることができると思います。
不安なことがあれば、先生や病院の皆さんが助けてくれますし、私や、その他の移植した仲間もいるので大丈夫です。私は、「移植して良かった」と心から思っているので、もし迷っている方がいれば、相談に乗りたいです。
移植して、何が一番変わったと思いますか。
佐藤さん:
まず、やりたいことが増えました。仕事も、時間の制約がないので、「やりたいだけやろう」と思ったりします。私は時間に縛られるのがあまり好きではないので、本当は病院にもあまり行きたくありません。移植後は定期的に通院することは必要ですが、移植前のように、週に何回も、何時間も病院に行かなければならないということはなくなったので、そういう制限がなくなり、やりたいことが増えたことが、一番の変化ですね。
家族との会話も変わりましたか。
佐藤さん:
母との会話が特に変わりました。移植する前は、母からいろいろと注意されていたのですが、移植をしてからは、母は、「あなた自身の管理のことだから」と、あまりうるさく言わなくなりました。母も安心したのだと思います。
橋詰コーディネーターからもメッセージをお願いします。
橋詰コーディネーター:
移植をして元気になる方がどんどん増えていき、そういった方々がご活躍されることで、臓器提供意思表示をしてくださる方の数が増えることにもつながると思います。「元気に活動できるようになった」ということを、いろいろな方々へ伝えていってほしいと思います。それが、移植医療の発展につながっていけばいいなと思っています。
先生から佐藤さんに、お伝えしたいことはありますか。
圷先生:
透析を離脱して、好きな物を食べられるようになって、いろいろな活動もできるようになったのですから、頂いた腎臓と膵臓を大事にして、その状態を長く続けていってもらいたいです。そのためには、太らないようにするなど、自己管理をしっかりとしてください。肥満は膵臓に負担がかかりますから。病院にもきちんと来て、体調が悪いときには連絡をくださいね。
最後に、先生から膵腎同時移植を検討している方や、現在待機している方々にメッセージをお願いします。
圷先生:
私は、「移植をした方がいいですよ」と言いたいです。「100%移植をした方がいい」と言ってしまうと語弊がありますが、やはり透析から離脱して、インスリン注射がなくなり、低血糖の心配もなくなるというのは、素晴らしいことだと思います。ですので、もし膵腎同時移植を検討しているのであれば、ぜひ千葉東病院に来ていただきたいと思います。