5回の連絡を見送って

その後、移植の連絡が来たのは、いつごろでしょうか。

築田さん
献腎移植の登録をしてから約24年間、一度も移植の連絡をいただくことはありませんでした。主人と入籍して岐阜に転居し、定期的に副甲状腺の検査をしてもらうために、名古屋第二赤十字病院に通院するようになってから1年後に、初めて移植の連絡を受けました。でも、初めて連絡をいただいた時には、生活上の問題や、ITP(特発性血小板減少性紫斑病)の症状があったことなどから、移植を断念しました。諸問題を調整した上で待機を続けましたが、その後、移植を受けるまでさらに約3年かかり、見送った連絡は5回になりました。

先生、ITP(突発性血小板減少性紫斑病)とは、どのような病気ですか。

山本先生

山本先生
ITPとは、何らかの要因によって血小板が減少し、その結果、出血の危険性が高まる病気で、国が指定する難病(特定疾患)の対象にもなっています。ヘリコバクター・ピロリ菌に感染することによって発症するという報告もあるので、ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌療法や、副腎皮質ステロイド療法などの治療が行われます。

ITPの患者さんの場合、移植ができないこともあるのですか。

山本先生
ITPの患者さんが移植できないというよりは、貧血で輸血を何回も行っているために、リンパ球クロスマッチ※が陽性となり、移植が難しくなる場合も あります。
(※ドナーとレシピエントのリンパ球の反応をみるもので、クロスマッチが陽性の場合は、移植後早期に激しい拒絶反応が起こる可能性がある。リンパ球クロスマッチが陽性となる要因としては、妊娠出産、輸血等が挙げられる。リンパ球クロスマッチが陽性でも、移植前に、抗ドナー抗体という抗体を血漿交換にて除去し、免疫抑制剤を服用することによって移植が可能な場合もある。)


築田さん
私は、透析導入の直前には貧血がかなりひどくなっていたのですが、「透析導入したら、ある程度正常値に戻るだろう」と言われていました。でも透析を始めても貧血の状況が改善されず、おかしいということで調べたら、ITPと診断されました。
その後、貧血の対策として、透析を開始した当初から頻繁に輸血をしていました。通院していた病院が、そういう方針だったようです。

現在の献腎移植の待機年数は平均で15~17年(成人)と言われていますので、移植の希望登録をしてから、最初の連絡をいただくまでに約25年というのは、かなり長いですね。

山本先生
築田さんの場合は、リンパ球クロスマッチの問題かもしれませんね。献腎移植のレシピエント選択基準の前提として、「リンパ球クロスマッチが陰性」ということがありますが、築田さんの場合は、どうしても輸血の影響でクロスマッチが陽性になりやすかったのかもしれません。

先ほどのお話では、最初の連絡を含め、5回、移植の連絡を見送られたとのことですが、どのような理由からだったのでしょうか。

築田さん

築田さん
献腎移植希望の登録後、25~6年目に最初に電話がかかってきた時は、とにかく寝耳に水で、何も準備もしていないですし、ビックリしてしまいました。一瞬「どうしよう」と迷ったのですが、「冷静に考えれば無理だな」と思いました。私が受けない場合、次の候補の方に連絡をしなければいけないですから、その場で即答しなければいけないというのは分かっていましたので※2、「今回はお断りします」と答えました。でも、「移植の電話はかかってくるんだ」ということがはっきり分かったので、「これはきちんと準備しておかないとまずいな」と思いました。
(※通常は、献腎移植の連絡は電話を受けると30分~1時間で移植を受けるかどうか決める必要があります。)
そうすると改めて、「ITPでも移植ができるのかな」と思いました。あとは、家のこともありました。私は埼玉から岐阜に嫁いで来ていましたし、主人の両親が割と高齢になっていたので、「移植手術の際に、いろいろと協力してもらえるだろうか」という不安がありました。そのため、その2点をクリアにして、「それで移植ができないようだったらやめよう」と思っていました。
ITPの検査のために、献腎移植待機者の外来を担当されていた先生のところに行き、麻酔科や血液内科の方でも診ていただきました。結局、「移植は可能です」ということでしたので、「では、登録を続けます」ということになりました。その後、3回目の移植連絡までは、まだ検査の結果などがはっきりしていなかったのですが、検査結果がはっきりした後は、「今度電話が来たら、断らないよ」ということを主人にも伝えていました。リスクが多いのは分かっていたのですが、「とりあえず移植ができる可能性があって、お話が来たのならば受けないという選択肢はないだろう」と考えていました。断ってしまうと、「『あの時断らなかったらどうなっていただろう』と、ずっと考えるだろうな」と思ったので、「とりあえず何があっても、こちらからは断らないでおこう」という気持ちで待っていました。

移植の連絡をいただくようになってからは、腎移植の勉強会などにも参加されたのですか。

築田さん
勉強会は何回か参加しました。腎移植がどういうものか、ということは、だいたいのことは知っていたのですが、例えば、「移植する腎臓はおなかの右の骨盤の中に埋める」ということや、「手術の際は、どこを、どのようにつなげるか」ということなどは、勉強会で初めて知りましたね。服用する免疫抑制剤などの基本情報も勉強させていただきました。ただ、やはり難しい話や細かい話はイメージしにくいので、その時に分かる範囲や、知りたいことしか頭に残らなかったですね(笑)。

その後、移植を受けるまでには、どのくらいの頻度で連絡があったのでしょうか。

築田さん
最初の連絡があった年には、3回立て続けに連絡をいただいたのですが、その後、ぱったりと連絡が来なくなってしまいました。それから4~5年目くらいに、また連絡が来始めたのですが、4回目の連絡の時は、4~5番くらいの順位で、「一応リストに挙がっています」という電話だけで終わってしまいました。
5回目の連絡の時には、「4番目なのですが、もしかしたら繰り上がるかもしれないので、来てくださいませんか」と言われて、夜中の11時ごろにタクシーに乗って病院に行きました。先生と救急外来で準備をしながら待っていたのですが、結局夜中の2時過ぎに、「やはり他の方に決まりました」と言われて、翌朝電車で帰りました。その次に、ようやく6回目で、「今回は2番目です」という連絡をいただき、移植手術となりました。