感謝と恩返し
移植して元気になり、今後挑戦したいことはありますか。
築田さん:
本当は、移植後も自分の勉強を続けたかったのですが、年をとったこともあり、頭が回らなくなってきてしまいました。研究は本当に体力を使います。
理系の研究も大変ですが、文系の研究は文献を読み漁らなければいけなかったり、調べたりしなくてはいけないので、日に日に集中力が無くなってくると、「今後も続けていくのは難しいかな」と思っています。
また、今は塾の先生の仕事をしているのですが、夜が遅いときがあるので、「頂いた腎臓を長くもたせたいのであれば、もう少し仕事を抑えてください」というようなことを言われることもあります。ただ、大変ありがたいことに移植を受けることができたので、「頑張って仕事をして、お金をいただいて、生活を安定させたい」と思っています。動ける限りは世の中と関わっていた方がいいですし、今までもそうでしたが、「体が動くということは何かしなければいけないのだろうな」と思っているので、できる限り今の仕事を頑張って生活を安定させ、社会的経験を積んで、60歳近くになったら、より地域に密着したステージで、幅広く困っている人たちのために役立つことがしたいです。
ドナーの方への思いを聞かせてください。
築田さん:
ただただ「感謝」の一言ですが、具体的にその気持ちを表すには、「自分が納得した生き方を全うする」ということしか思い浮かびません。そのために、頂いた腎臓には少し無理を掛けることもあるかと思いますが、何卒ご容赦いただきたく思います。いずれあの世に行ったときに、自分がやってきたことをきちんとご報告できるよう、頑張ります。
塾で教えている生徒の中には、医学部を受験する子もいて、そういう子に国語を教えたりもしています。私は病院や透析施設にものすごくお世話になって生きてきましたので、そのような形で世の中に恩返しができればと思っています。そういう意味では、私が携わっている仕事は、「とてもありがたい、うれしい仕事だな」と思っています。
平光先生:
医学部を目指す学生たちに教えていただいているというのは、私たちとしても大変うれしいことですので、ぜひ続けていただきたいですね。
先生方へお伝えしたいことはありますか。
築田さん:
いろいろな意味でハイリスクな私の手術をしてくださった名古屋第二赤十字病院には大変感謝しております。特に先生方や医療スタッフの方々には、
他の地域ではおそらく受けられなかったであろう、大変行き届いた医療を提供していただいていると思います。これからもよろしくお願い致します。
メッセージ
現在、献腎移植を待っている方や、献腎移植希望登録を検討している方へお伝えしたいことはありますか。
築田さん:
いつ連絡が来るか分からないものを待つ、というのは、それだけでストレスである上に、待機期間が長くなると、移植手術もリスクが高くなります。
また、移植ができても、術後の経過はケースバイケースで、必ずしも自分が望んだ生活ができるわけではないかもしれません。免疫抑制剤は永遠に飲まなければならないですし、障害年金も減額、もしくは停止されるなど、移植後の社会復帰を考えると、厳しい現実が待っている場合もあります。
それでも、私は、「移植をしてよかった」と思っています。それは、その後どんなことがあろうと、やはり「移植を受けないより、受けた方がいい」と思うからです。人によるとは思いますが、私は先ほども言ったように、もし移植をしなかったら、「あの時移植していたら、どうなっていたのだろう」と、ずっと考えていたと思います。後で後悔したくない気持ちがあったからこそ、リスクがあっても手術を受けると決めたのです。とにかく移植の機会があって、手術をしていただき、うまくいっている、というのはとてもありがたいことですし、本当によかったなと思います。
機会をいただき、それに挑戦できて、手術もうまくいったことに満足感があるのですね。
築田さん:
どんなにチャレンジしたくても、自分の力ではどうにもならないこともありますからね。献腎移植はドナーの方がいらっしゃって、成り立っているものです。そういった重みも含めて、私は、「手術をして良かった、次に私ができることは何だろう」と思いながら、生きていきたいと思っています。
先生方から、献腎移植を待っている方へ、メッセージをお願い致します。
山本先生:
現在、献腎移植を受けるまでには相当な待機期間がありますが、築田さんのように体調管理をきちんと行い、透析の先生の言うことを聞きながら、しっかりとした透析管理をしていただくことによって、移植後の成績も良くなります。希望を捨てずに待っていてほしいと思います。
平光先生:
現在当院では、献腎移植を待っている患者さんの診察を1年に1回行い、治療が必要な方には治療を受けていただいています。献腎移植は待機期間がとても長いですが、1年に1度は必ず外来に足を運んでいただきたいと思います。そして、動脈硬化などが進まないようにするためにも、血圧のコントロールや食事の管理などの自己管理を頑張って続けていただき、希望を持って、待っていてほしいと思います。