移植手術に向けて
圷先生と初めて移植について話したのはいつごろですか。また、その時にはどのようなお話がありましたか。
高橋さん:
2012年の2月ごろです。腎臓の働きや移植手術についてのお話をお聞きしました。ただ、話を詳しく聞いた後、少し不安になりました。「本当に腎臓が機能するのかな」とか、「もし失敗したらどうなってしまうのだろう」と、不安の方が大きくなってしまいました。
やはり、お母様のことも心配でしたか。
高橋さん:
そうですね。申し訳ないという気持ちが大きかったです。
お母様は、移植手術に対して迷いなどは無かったのでしょうか。
高橋さん:
不安はあったと思います。ただ、ドナーになるという迷いはおそらくなかったと思います。もし兄がドナーとなることになっても、全然迷わなかったと思います。家族ですので、「家族の一部になれるのなら」という気持ちだったのだと思います。
移植手術が決まったのはいつごろですか。
高橋さん:
2012年の3月くらいに決まって、4月20日に手術しました。透析期間は5カ月間です。
移植に向けてどのようなことに気を付けて生活をしていましたか。
高橋さん:
特に食事に気を付けて生活していました。そのころは家で食事をとることが多かったので、私がカリウムとリンをとり過ぎないようにするために、母が、生野菜ではなく温野菜をメインにしてくれたり、塩分を控えた料理を作ってくれたりしました。母は、私が中学生のころから徹底してメニューを組んでくれていましたので、栄養バランスのよい食事がとれていました。
透析治療は順調でしたか。
高橋さん:
初めて透析をした時は、立ちくらみ、貧血がひどく、体がだるかったのですが、慣れてくると食事も順調に食べられるようになりました。ただ、移植前に、(母と私の血液型が違うので)血漿交換のために1カ月入院した時の透析は、本当につらかったです。理由は分からないのですが、とにかくつらくて、常に食欲がありませんでした。病院食が何も食べられない時は、甘いものを買ってきてもらって食べたりしていました。
もしかしたら、免疫抑制剤を飲み始めていたからかもしれません。
先生、血漿交換があるときには、手術の1カ月前に入院するのですか。
圷先生:
当時は、1カ月前から免疫抑制剤を飲み始めていたので、1カ月前に入院してもらっていました。
現在は、免疫抑制剤は外来で処方して飲んでもらい、2週間前から別の薬を点滴する必要があるので、その時点から入院してもらっています。
移植前に、お母様とは何かお話をされましたか。
高橋さん:
お互いに、移植手術に関しては理解していたので、「手術は先生にお任せするしかないから、お互い元気になることを祈っていようね」とか、「移植したら透析をしなくてよくなるから、それだけでも違うよね」といった話をしていました。そのころには、手術に対する不安はだいぶ薄れていました。
手術に対する不安はどのように解消されたのですか。
高橋さん:
看護師さんから話を聞いたり、パンフレットなどを読んで、手術に関する情報を得ました。あとは、入院している患者さんにも移植をしている方が多かったので、その方々からも話を聞きました。「移植後は食事制限も無いし、透析で縛られる時間も無くなるから、いいことが多いよ」と言われ、マイナスの
話がなかったので、だんだん不安が薄れていきました。
そして手術に臨まれたのですね。先生、ドナーとレシピエントの手術時間は、それぞれどのくらいでしょうか。
圷先生:
ドナー、レシピエントとも手術自体は3~4時間くらいなのですが、いろいろな準備やそれぞれの手術の進行具合によって終わる時間が影響されますので、ドナーは午前9時に入室して、戻ってくるのは午後3時前後です。
また、レシピエントは、その2時間後くらいに終わります。早くても夕方になってしまいますね。
移植後の感動
手術が終わった時のことは覚えていますか。
高橋さん:
父と兄の声が聞こえて、看護師さんから、「高橋さん、起きて、起きて」と言われて少し目を開けました。でも、視界がボヤっとしていて、その後すぐまた寝てしまいました。そんな感じで、声がちょっと聞こえたぐらいで、意識はほとんどありませんでした。
起きた瞬間に思ったのは、「喉に何か詰まっている」というような違和感で、呼吸しづらかったのと、背中が痛かったです。そういう体感的な苦しさと、「お母さん、大丈夫かな」という気持ちが同時にありました。
手術後、どのような変化がありましたか。
高橋さん:
透析導入してからは、3~4カ月で肌が黒くなっていきましたが、移植後、尿がたくさん出て、肌がきれいになりました。障害者手帳を見ると分かるのですが、透析をしていたころは肌が真っ黒だったのです。術後に歩けるようになって鏡を見に行くと、自分の肌が白くなっているということに気付いて、衝撃を受けました。
また、入院する前の食事制限が特に厳しかったので、移植後、食事制限が無くなったことにも感動しました。
手術後の経過はどうでしたか。
高橋さん:
サイトメガロウイルス感染で4回入院しました。
退院2カ月後に2週間入院し、それから1カ月後に再び入院、その退院1週間後に発熱で入院し、更にその10カ月後に再入院しました。
先生、高橋さんのように何回も感染する方は多いのでしょうか。
圷先生:
最近の若い人は、移植する前にサイトメガロウイルスに感染しておらず、抗体が無い人が多いので、高橋さんのような方もいらっしゃいます。
抗体ができるまでは抵抗力が無いので、感染しやすくなってしまうのです。
抗体は、どれくらいでできるのですか。
圷先生:
移植者の方は免疫抑制剤を飲んでいますので、普通の人よりは抗体ができにくいです。抗体ができるまでに1年くらいかかる人もいらっしゃいますし、ずっとできない人もいます。移植後は、消化管の粘膜などにサイトメガロウイルスが繁殖して、炎症を起こしたり、潰瘍を起こしたりすることもあります。
高橋さんの場合は、口内炎が多かったですね。