180度変わった体
移植をしてから一番良かった事、嬉しかった事はどんな事ですか?
森田さん:
14歳の頃からずっと病気でしたので、健康な体とはどんな感じだったのか記憶がないのですが、移植をしてからは、体の調子が180度変わり、不思議な感じがしています。
透析をしていた頃は、1日が終わると、「やっと今日も1日が終わりました」という感じでしたし、「ここから逃げ出したい」という気持ちになったことも度々ありました。身体的な負担ももちろんの事、精神面の負担も大きかったですね。透析していても元気な人はもちろんいらっしゃいますが、私は1型糖尿病でしたので、透析後の血糖のコントロールが非常に難しかったです。
移植後は、まず週3回の透析をしなくてよくなり、時間の制約や、体のきつさがなくなりました。また、1日4回のインスリン注射もなくなり、血糖コントロールが上手くいくようになり、高血糖や低血糖の心配もなくなりました。
自分の体に自信がつき、今まで出来なかった事やしてみたかった事が出来るようになり、本当に嬉しかったです。
移植後の日常生活では、どの様な事に気を付けて生活をしていますか?
森田さん:
免疫抑制剤を飲み忘れない様に管理に気を付けています。薬は朝8時、夜8時に必ず飲むようにしています。
また、皆さんもやっていらっしゃる事で、特別なことではありませんが、外出から帰ったら必ず手を洗うようにしています。血圧と体重は毎日量るようにし、尿の量や飲水量を意識したりしています。
移植後、新たに始めた事や、今後の夢はありますか?
森田さん:
色々な事に挑戦しています。家業の木工業を営みながら、パソコン教室や、職業訓練学校にも通っています。
将来の夢としては、自分の店(Bar)を持ちたいと思っています。友達と一緒に自分で作った家具も使って雰囲気のいいBarを作りたいですね。
毎日が死と隣り合わせ
先生、日本で移植を希望される方の待機期間が短くなるにはまだまだ時間がかかるのでしょうか?
北田先生:
日本ではしばらく難しいのではないでしょうか。森田さんは長い期間待って頂きましたが、それでも無事に移植出来たので本当に良かったと思います。中にはそれ以上待っておられる方も数多くおられます。移植はまさに善意の贈り物です。どうかドナーさんのために、そしてもちろんご自分のために移植した膵臓、腎臓を大切にしてくださいね。
1型糖尿病の方は透析に入ると合併症が急速に進んでしまいます。また血糖コントロールが難しい方の場合、いつ低血糖発作になるか分からない毎日が続くわけです。そのような場合はできるだけ早く移植をしたほうがいいと思います。我々は、生体膵臓移植も行っていますが、現時点ではまだ保険適用となっていません。早く保険適用になることを望んでいます。
森田さん:
私も透析をしていた頃は、「あと何年生きられるのだろう」と考えていました。透析施設のスタッフにも「1型糖尿病ですか、、大変ですね」と言われたのを覚えています。
北田先生:
1型糖尿病は血糖を調整するインスリンという膵臓で作られるホルモンが全く分泌されなくなる病気です。日本全体で5,000~10,000人程度の患者さんがおられると言われています。風邪などの感染症がきっかけで突然発症することもありますが、原因はよく分かっていません。
1型糖尿病の方の中には血糖のコントロールが難しい方がおられます。自己管理をしっかりしていても低血糖で突然意識をなくして昏睡状態になる事があります。私は待機中の患者さんには「できるだけ1人にならないでください。誰かと一緒に居てください。」とお話ししています。
失われた時間を取り戻して
1型糖尿病で透析もしていらっしゃる方は本当に大変なのですね。
北田先生:
膵臓移植を希望される方は、インスリンの自己注射が欠かせず、低血糖の恐怖と戦いながら毎日を過ごされています。その苦痛や恐怖感は私達には想像を絶するものがあります。少しでもインスリンの投与量を間違えたら大変なことになってしまいます。ご本人はもちろんですが、ご家族も含めて安心した生活を送ることがなかなか難しく、精神的にも肉体的にも非常に大変だと思います。
そのような苦しみから解放されるからなのでしょう、1型糖尿病だった方が移植手術を受けて元気になると、みなさん失われた時間を取り戻すかのように、何か新しい事を始めていらっしゃいますね。
森田さん:
私も今が一休みと思っています。今のうちにやりたい事をやろうと思っています。後で「あれもこれもやりたかった」と後悔しないようにしたいです。今は毎日毎日が楽しく、1日の時間が足りないくらいです。「透析を受けていた時間くらいは取り戻せれば」と思って毎日を過ごしています。
私は昔からジェームズ・ディーンが好きなのですが、彼は24歳の時に事故で亡くなってしまいましたが、生前「100歳まで生きたとしても、やりたいことを全部やる時間はないだろう。急いで生きなきゃ。死はあっという間にやってくるからね。」という言葉を残していました。
私もその言葉の様にやりたい事に挑戦し、1日1日を一生懸命に大切に生きていきたいと思っています。
移植手術を受けることが出来て、ドナーの方や先生に本当に感謝しています。生かされているということには意味があると思い「人生で1つくらいは人の為になる事が出来ればいいな」と思っています。私が出来る事は、皆さんに元気な姿を見せることくらいしかありませんが、私の体験談が、私と同じように糖尿病や腎臓病で苦しんでいる方々の1つの希望となり、お役に立てるなら幸いと思っています。