移植手術に向けて
移植が決まった後、実際の手術まではどの位の期間がありましたか?また、その間気を付けていた事はありますか?
熊野さん:
ほぼ4カ月です。その間、腎機能がさらに悪化しないよう、腹膜透析をきちんと行うことや、食事制限を守り、感染症にかからないようにする事、体力を落とさない事等に気を付けていました。
そしてご夫婦で移植手術に臨まれたわけですが、移植手術の際、娘さんはどの様なお気持ちでしたか?
娘さん:
私は一人っ子なので、両親二人が同時に手術をするというのは、正直とても複雑な気持ちでした。
母は非常に行動力があることは知っていましたが、こんなに早く移植手術が現実になるとは思っていませんでしたので、心の準備が出来ておらず、健康な母の体にメスを入れてその結果が芳しくなかったらどうしようとか、不安な気持ちになったこともありましたが、両親を信じて一緒に進んでいこうと思いました。
それでも手術当日、両親を手術室に見送った後不安な気持ちになってしまい、病院の隅で泣いていた時、移植チームの先生が「僕たちも頑張るから、君も一緒に頑張ろうね」と声をかけ励ましてくださった事を今でも覚えています。
美味しい食事
移植手術を終えた時の気持ちを聞かせてください。
熊野さん:
まずは妻の様子が心配でした。私自身は思ったほど痛みを感じていませんでした。後で皆に、「鈍くて良かったね」とからかわれてしまいましたが(笑)。
奥様(ドナー):
移植の翌日から夫の尿がスムーズに出て、腎機能もみるみる回復していくのを見て、ほっとし、そして本当に感動しました。
術後の経過はいかがでしたか?
熊野さん:
退院後間もなく一度、尿路感染症に罹った以外は、現在に至るまできわめて順調でした。
入院中、移植直後は食欲が出ず、食事が食べられない時期があったのですが、北田先生が回診に来てくださり「もう少ししたらご飯もちゃんと食べられるようになりますよ」と言われ、先生にそう言われてからは安心したのか、どんどん食欲が出てきて食べられるようになったことを今でも覚えています。
北田先生:
透析期間が長かった患者さんの中には、移植手術後「どんどん食べていいよ」と言われても、食事制限が習慣化しているせいか、初めは戸惑って食べられない方もいらっしゃいますね。
妻への感謝、そして孫を抱く幸せ
移植後ドナーである奥様に対して何かイベント等を行っていらっしゃいますか?
熊野さん:
移植後、感謝の気持ちを込めて記念のアクセサリーを贈りました。また、移植日は記念日として家族でお祝いをしたりしています。
移植をして良かったこと、嬉しかったことはどんな事ですか?
熊野さん:
心身ともに体調が良く、何の制限も無く美味しく食事が出来るようになったことや、好きな温泉や旅行にも自由に行けるようになったこと、そして非常勤としてではありますが、社会復帰できたことなどです。
今では仕事帰りによく温泉にも入っていますよ(笑)。
奥様(ドナー):
移植する前の末期腎不全の時、夫は娘が嫁ぐ姿を見る事が出来るだろうかと、とても不安でした。でもその娘も昨年結婚し、今年はついに二人で孫の顔も見ることが出来、本当に嬉しかったです。
ドナーとなる前、なった後でどんな事が変わりましたか?
奥様(ドナー):
健康のありがたさについて、その意味を深く考えるようになりました。いい生き方をしたいと思うようになりましたね。