5移植後に内服する薬

1. 移植後に内服する薬

免疫抑制薬

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ほとんどの施設が移植手術の前後にわたって3剤併用療法を行います。
まずカルシニューリンインヒビターといわれるタクロリムスとシクロスポリンは3剤の柱ともいえる薬です。拒絶反応の時に最も活躍するT細胞リンパ球を抑えてくれる薬剤です。
次に重要なのは代謝拮抗薬といわれるミコフェノール酸モフェチル、ミゾリビン、アザチオプリンです。T細胞リンパ球同様、拒絶反応の時に活躍するB細胞リンパ球を抑制してくれます。この中でもっともよく使用されているのはミコフェノール酸モフェチルですが、下痢や腹痛などの腹部症状および白血球の減少が副作用としてあり、内服が困難なときにはミゾリビンを使用しています。
女性移植患者さんが妊娠を希望したときには、ミコフェノール酸モフェチルやミゾリビンは催奇形性があるため、アザチオプリンに変更します。
副腎皮質ステロイドは、きわめて古くからある免疫抑制薬の1つで、いまだに使用されています。タクロリムスやミコフェノール酸モフェチルは免疫抑制効果が強いため、副腎皮質ステロイドの使用量も減量ないしは投薬中止となることも少なくありません。
2012年からmTOR阻害薬といわれるエベロリムスが登場しました。作用機序は上記に述べた3剤のいずれにも属しませんが、現在移植腎臓の長期生着を妨げる要因の1つといわれているカルシニューリンインヒビターの腎毒性を解決する薬剤として注目されています。

感染予防

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上述した免疫抑制薬が特殊な感染を特に高率に引きおこすわけではありません。ただ重篤性などの観点から気をつける必要があるのはニューモシスチス肺炎および真菌感染です。
ニューモシスチス肺炎の感染の予防としてST合剤の内服を推奨しています。2005年頃より日本中で同肺炎が移植後長期経過した患者さんにも感染するようになり、現在、ST合剤の予防内服を永続的に実施している施設も少なくありません。移植後に発症するニューモシスチス肺炎はエイズの末期に発症する場合よりも重篤といわれています。腎臓はおろか命まで脅かす肺炎です。
真菌の予防には移植後半年の間、ミコナゾールの内服を推薦しています。

降圧薬

腎移植患者さんの降圧目標は収縮期血圧/拡張期血圧 130/80未満です。
治療としてはまず生活習慣の是正を行う必要があります。塩分制限、ストレス軽減、禁煙、適正な体重管理などがポイントです。改善がなければ降圧薬の内服を考慮する必要があります。
処方される降圧薬にはその作用機序により様々なものがありますが、代表的なものとしては、ARB製剤、カルシウム拮抗薬などがあります。患者さんがどのような要因によって高血圧をきたしているのかによって、処方される降圧薬も異なってきます。

尿酸を抑える薬

免疫抑制薬の副作用や移植腎の機能不全、過食、肥満によって、移植後の患者さんが尿酸値高値を示すことはしばしばあります。ただ、移植患者さんで高尿酸血症から痛風発作になることはそれほど多くありません。これは免疫抑制薬の働きによるものではないかと推測されています。
尿酸を抑える薬として移植患者さんに最もよく使われるのはベンズブロマロンです。尿酸を体外に排泄させる薬ですが、肝機能障害が副作用としてあります。
代表的なもう1つの高尿酸血症の治療薬としてはアロプリノールがあります。アロプリノールは尿酸合成阻害薬ですが、副作用として、免疫抑制薬との相互作用から不可逆的な白血球減少を起こすため、移植患者さんに使用されることはめったにありません。
フェブキソスタットは腎障害のある患者さんにも安心して使用できる尿酸抑制薬として注目されています。

胃薬

移植患者さんの薬の服用は一生に渡って多種類に及ぶため、同時に胃薬を処方されることが多いです。
免疫抑制薬、特に副腎皮質ステロイドの重要な副作用の1つとして胃潰瘍や十二指腸潰瘍が知られており、移植手術が終了した後の半年間はプロトンポンプインンヒビターであるラベプラゾールなどを内服することをお勧めしています。これらの薬は胸焼けの原因となる逆流性食道炎にも著効します。ただ、白血球減少などの副作用もあるため、移植後半年以上が経過した維持期の患者さんには他の弱い胃薬への変更も考慮します。

その他

コレステロールの管理はとても重要です。透析を離脱して水分制限がなくなり、副腎皮質ステロイドの内服により食欲が亢進した状態になるため、移植後、体重が増え脂質異常症になる患者さんが多く見られます。動脈硬化の進行を遅らせて心血管疾患(脳卒中、虚血性心疾患)を予防するために、しっかりした管理が必要となります。
一方、脂質異常症は移植後に内服する免疫抑制薬の代表的な副作用です。腎移植後の患者さんは中~高リスク群以上に該当すると思われますので、LDL-C 120mg/dL未満を目標としてコントロールする必要があります。治療の基本は食事制限や運動によって適切な体重を維持することですが、それでも目標達成が困難な時は薬物治療の必要があります。
代表的な薬としてはアトルバスタチン、イコサペント酸エチルなどがあります。脂質異常症の治療薬は多種多彩であり、目的に合わせて使い分けを行います。
基本的には腎移植を行い腎機能がよくなれば二次性副甲状腺機能亢進症は改善します。しかし腎移植後6カ月で約3分の1の患者さんで、5年以上で約20%の患者さんで、副甲状腺ホルモンの値が高値で持続すると言われています。その原因として、副甲状腺ホルモンは腎機能が60%まで低下すると分泌が亢進すること、腎移植前に二次性副甲状腺機能亢進症の程度がすでに著しく亢進していることなどがあげられます。
腎臓移植後に副甲状腺摘出に至るような場合は1~5%程度といわれていますが、現在はカルシウム受容体作動薬であるシナカルセトのおかげですぐに手術をしなくても、しばらく副甲状腺ホルモンの変化を観察することができるようになりました。

監修:湘南鎌倉総合病院 腎移植・ロボット手術センター長 泌尿器科 統括部長 田邉一成先生(情報更新:2024年3月)

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