腎移植後の外来ではさまざまな検査が行われます。腎移植後に検査値をみる上で知っておくべきことや、移植内科医がどのようなポイントをみているのかについて、名古屋第二赤十字病院の後藤憲彦先生にシリーズで解説していただきます。
第14回目はHbA1cについてです。

①HbA1cとは

HbA1cとは、血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンというタンパク質とブドウ糖が結合したものです。これらは結合してから120日間は結合が解けないことから、HbA1cの数値を調べることで過去1~2ヵ月の平均血糖値を知ることができます。血糖値とともに血糖コントロールの状態を知ることができ、診断と治療効果の判定に用いられます。

②HbA1cの基準範囲(*1)血糖コントロール目標

血糖正常化を目指す際の目標:6.0%未満
合併症予防のための目標:7.0%未満
治療強化が困難な際の目標:8.0%未満

HbA1c

③腎移植後にHbA1cをみる上でのポイント

HbA1cをみることで、空腹時血糖とともに、糖尿病コントロールの状態を把握することができます。空腹時血糖値≧126 mg/dL、75gOGTT2時間値≧200 mg/dL、随時血糖値≧200 mg/dL、HbA1c≧6.5%の4つのうちのいずれかを確認したら糖尿病型と判定します。別の日に再び糖尿病型と確認されれば糖尿病と診断します。HbA1cのみの反復検査は不可です。
また、血糖値とHbA1cが同一採血で糖尿病型を示すことが確認されれば、初回検査だけでも糖尿病と診断します。血糖の項でも説明したように、移植後に新たに糖尿病を発症すると、レシピエントの移植腎生着率や生存率は低下します。血糖は食事により影響を受けるため、HbA1cで糖尿病コントロールの状態をフォローしていくのが通常です。
また、移植前から糖尿病を合併しているレシピエントの血糖管理も同じようにHbA1cでフォローしていきます。糖尿病と診断されたレシピエントに対して、75gOGTTをしてはいけません。
HbA1cは、食事に関わらず、過去1~2カ月の平均血糖値がわかる良い検査なのですが、腎移植後3カ月以内のHbA1cは、移植前のヘモグロビンと結合したブドウ糖の状態を見ているので、検査としてはあまり有効ではありません。また、貧血によりへモグロビンが低い時にも、HbA1cは低めとなります。また、保険上、1カ月に1度しか検査することができません。
移植後3カ月は、免疫抑制薬の濃度が高いので、血糖は高めに推移することは血糖の項で説明したとおりです。体重増加に気を付けながら、免疫抑制薬が維持量へ減量となる3カ月後を待ちます。3カ月以降でも、カルシニューリン阻害薬やエベロリムスの濃度が目標よりも高い時には、内服量を減量すれば血糖管理は良くなります。
新たに移植後に糖尿病を発症したレシピエントに対しては、HbA1cが7%以下の時には、減量と運動療法をします。7%より高くなった時には、内服や注射(インスリンやGLP1A)により7%以下を目指します。高齢レシピエントや、大血管障害(脳血管障害、心血管障害、末梢血管障害)を合併しているレシピエントが、移植前からすでに糖尿病がある時は、低血糖によるリスクから、7~7.5%を目標にします。1型糖尿病のレシピエントも、低血糖のリスクからHbA1cは高めにコントロールすることになります。

*1 日本糖尿病学会 編・著:糖尿病治療ガイド2016-2017