急速進行性糸球体腎炎とは

急速進行性糸球体腎炎(RPGN:rapidly progressive glomerulonephritis)は、世界保健機関(WHO)により、「急性あるいは潜在性に発症する血尿、蛋白尿、貧血と急速に進行する腎不全をきたす症候群」、本邦では、「腎炎を示す尿所見を伴い、数週から数カ月の経過で急速に腎不全が進行する症候群」と定義されます。 糸球体性血尿(多くは顕微鏡的血尿、時に肉眼的血尿)、蛋白尿、赤血球円柱、顆粒円柱を伴い、無治療であれば多くの症例が末期腎不全に至ります。

臨床的なRPGNには、ANCA陽性RPGN、抗GBM抗体型RPGN、増殖型ループス腎炎、IgA腎症、IgA血管炎を含む免疫複合体型RPGN以外にも、感染症に伴うRPGN、急性間質性腎炎、血栓性微小血管症など、多様な腎疾患が含まれます。

RPGNの原疾患は、腎のみを障害する一次性RPGNと全身疾患や感染症などに伴って腎を障害する二次性RPGNの2つに分けられます。(表) 

RPGNをきたす疾患

RPGN をきたす腎病理組織所見として最も多くみられる糸球体病変が、壊死性半月体形成性糸球体腎炎(腎生検の所見で、多くの糸球体に半月体という細胞の増殖する構造物が観察されるもの)です。

腎生検の蛍光抗体法により、①線状パターン、②顆粒球パターン、③沈着がないかごく軽度の微量免疫パターン(pauci-immune)の3つに分けられます。
今回は、ANCA陽性RPGN、抗GBM抗体型RPGN、増殖型ループス腎炎について説明します。

半月体形成性糸球体腎炎では、蛍光抗体法による所見(沈着パターン)から3型に分類します。
半月体形成性糸球体腎炎

ANCA陽性RPGN

■ANCA関連腎炎とは
腎生検の蛍光抗体法による3パターンのうち、③沈着がないかごく軽度の微量免疫パターン が一番多く、その大部分は抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic autoantibody; ANCA)が陽性のANCA関連腎炎の腎症状として現れます。

ANCA(好中球の細胞質に存在する成分を抗原とする自己抗体)はmyeloperoxidase(MPO)を抗原とするP-ANCAとproteinase 3 (PR3)を抗原とするC-ANCAに分けられますが、本邦では90%がMPO-ANCAであり、顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis)の大部分で陽性となります。遺伝因子に感染や薬剤などの環境因子が加わり、好中球細胞質内の自己蛋白であるMPOやPR3が抗原性を獲得してANCAが産生されます。
ANCAによる好中球過剰活性化により糸球体内皮障害から壊死性の糸球体腎炎を生じるANCA関連血管炎に見られる腎炎が、ANCA関連腎炎です。腎臓限局する時は、腎臓限局型(renal-limited AAV)と呼ばれます。Pauci-immune型半月体形成性糸球体腎炎の発症時年齢の平均値は67歳で、6カ月腎予後は、1998年以前に治療された群では72.4%、2003年以降に治療された群では83.1%と近年改善傾向にあります(1)

■腎移植後のANCA関連血管炎再発
腎移植後にANCA関連血管炎からの腎炎が再発する割合は10%と低いため、腎機能が悪化したときには腎代替療法として腎移植を選択するメリットが大きい疾患です(2)。ただし、原疾患の活動性がコントロールできるまで腎移植は延期すべきです。移植時のANCAの値は再発を予測しないため、ANCA陽性だけで移植を延期する理由にはなりません。ANCA関連血管炎では、臨床的寛解から1年後以降に腎移植を予定します。腎生着年数と患者生存は非ANCA関連血管炎からの腎移植と比べて変わりがありません。

抗GBM抗体型糸球体腎炎

■抗GBM抗体型糸球体腎炎とは
腎生検の蛍光抗体法により、①線状パターンを認め、血清学的に抗GBM抗体が陽性になるのが抗GBM抗体型糸球体腎炎です。一次性RPGNとしての抗GBM抗体型糸球体腎炎と、二次性RPGNとして肺出血を伴うGoodpasture症候群(肺・腎をおかす致死的疾患)に分けられます。
感染症(インフルエンザなど)、吸入毒性物質(有機溶媒、四塩化炭素など)、喫煙などにより生じた肺や腎臓の基底膜の障害に対して産生される抗GBM抗体が、基底膜へ結合することから始まる炎症反応で半月体形成性糸球体腎炎が起きます。
発症時年齢の平均値は62歳で、6カ月腎予後は、1998年以前に治療された群では44.7%、2003年以降に治療された群でも48.5%と、近年においても極めて不良です(1)

■腎移植後の抗GBM抗体型糸球体腎炎再発
しかし、腎移植後に抗GBM抗体型糸球体腎炎からの腎炎が再発する割合は5%以下と非常にまれです(3)。そのため、自己腎に対する治療経過とは逆に、腎移植を選択するメリットが大きい疾患です。ただし、治療により少なくとも6カ月間、病勢が安定して、抗GBM抗体価が12カ月以上陰性となっていることを確認してから腎移植を予定します(4)。抗GBM抗体価は抗GBM抗体型腎炎およびGoodpasture症候群の疾患活動性と相関します。

増殖型ループス腎炎

■増殖型ループス腎炎とは
腎生検の蛍光抗体法により、②顆粒状パターン認め、血清学的に抗DNA抗体や免疫複合体が陽性になるのが免疫複合型糸球体腎炎です。免疫複合体型RPGNは、一次性免疫複合体型半月体形成性糸球体腎炎と一次性糸球体腎炎としての膜性腎症やIgA腎症などに半月体形成を伴う場合、二次性免疫複合体型糸球体腎炎としてのループス腎炎や紫斑病性腎炎に分けられます。二次性免疫複合体型糸球体腎炎としてのループス腎炎の発症時年齢の平均値は47歳で、6カ月腎予後は、2003年以降に治療された群において80.9%です(1)

■腎移植後の増殖型ループス腎炎再発
腎移植後にプロトコール腎生検組織でのみ診断される再発は54%と多いです(5)が、臨床的に明らかな再発は2~11%と少ないため(6)、ループス腎炎から自己腎機能が悪化した時には腎代替療法として腎移植を選択するメリットが大きい疾患です(6)。腎生着年数と患者生存は、非ループス腎炎からの腎移植と比べて変わりがありません(7)
しかし、透析を3~6カ月行い、ステロイドが10㎎/日以下になってから腎移植を行うことが推奨されており(8)、発症から短期間で末期腎不全に移行するときには特に注意が必要です。自己腎生検で慢性硬化病変のみで末期腎不全までの経過が長く、臨床的や血清学的活動性(抗核抗体、2本鎖DNA抗体、CH50、C3)も高くないときには先行的腎移植が可能です。

血清学的検査は移植後には有用ではありません。蛋白尿、尿潜血も伴い、ループス腎炎を疑うときには移植腎生検を施行します。尿蛋白に対してはRAS阻害薬を使用します。サブクリニカル(無症状)な再発には免疫抑制薬の変更は必要ありませんが、腎機能障害を伴う再発に対しては、ステロイドパルス療法(メチルプレドニン500mg3日間からの漸減)とともにミコフェノール酸モフェチル2~3gへの増量か、代謝拮抗薬のシクロフォスファミドへ変更します。コントロールできないときにはリツキシマブ投与(1日目と15日目に1000mg or 4週おきに375mg/m2 or 200mg1回投与)も考慮します(9)
※レニン・アンジオテンシン系阻害薬:血圧を調節するレニン・アンジオテンシン・アルドステロンの体内作用経路を阻害して血圧を下げる薬剤

参考にした診療ガイドライン;エビデンスに基づく急速進行性腎炎症候群(RPGN)診療ガイドライン2017

1.松尾 清, 山縣 邦, 槇野 博, 有村 義, 武曾 恵, 新田 孝, 和田 隆, 田熊 淑, 小林 正, 堀越 哲, 細谷 龍, 湯澤 由, 渡辺 毅, 藤元 昭, 平和 伸, 木村 健, 湯村 和, 伊藤 孝, 佐田 憲, 板橋 美, 古市 賢, 佐藤 壽, 木村 朋, 平山 浩, 宇都宮 保, 冨永 直, 斎藤 知, 臼井 丈, 横山 仁, 田口 尚, 川村 哲, 今井 圓, 斉藤 喬, 成田 一, 進行性腎障害に関する調査研究班急速進行性腎炎症候群分科会. 厚生労働省特定疾患進行性腎障害に関する調査研究班報告 急速進行性腎炎症候群の診療指針(第2版). 日本腎臓学会誌. 2011;53(4):509-55.
2.Moran S, Little MA. Renal transplantation in antineutrophil cytoplasmic antibody-associated vasculitis. Curr Opin Rheumatol. 2014;26(1):37-41.
3.Floege J. Recurrent glomerulonephritis following renal transplantation: an update. Nephrol Dial Transplant. 2003;18(7):1260-5.
4.Netzer KO, Merkel F, Weber M. Goodpasture syndrome and end-stage renal failure--to transplant or not to transplant? Nephrol Dial Transplant. 1998;13(6):1346-8.
5.Norby GE, Strom EH, Midtvedt K, Hartmann A, Gilboe IM, Leivestad T, Stenstrom J, Holdaas H. Recurrent lupus nephritis after kidney transplantation: a surveillance biopsy study. Ann Rheum Dis. 2010;69(8):1484-7.
6.Contreras G, Mattiazzi A, Guerra G, Ortega LM, Tozman EC, Li H, Tamariz L, Carvalho C, Kupin W, Ladino M, LeClercq B, Jaraba I, Carvalho D, Carles E, Roth D. Recurrence of lupus nephritis after kidney transplantation. J Am Soc Nephrol. 2010;21(7):1200-7.
7.Norby GE, Leivestad T, Mjoen G, Hartmann A, Midtvedt K, Gran JT, Holdaas H. Premature cardiovascular disease in patients with systemic lupus erythematosus influences survival after renal transplantation. Arthritis Rheum. 2011;63(3):733-7.
8.Ponticelli C, Moroni G. Renal transplantation in lupus nephritis. Lupus. 2005;14(1):95-8.
9.Rovin BH, Furie R, Latinis K, Looney RJ, Fervenza FC, Sanchez-Guerrero J, Maciuca R, Zhang D, Garg JP, Brunetta P, Appel G. Efficacy and safety of rituximab in patients with active proliferative lupus nephritis: the Lupus Nephritis Assessment with Rituximab study. Arthritis Rheum. 2012;64(4):1215-26.