血栓性微小血管症とは

血栓性微小血管症(TMA; thrombotic microangiopathy)は、微小血管症性溶血性貧血、消費性血小板減少、微小血管内血小板血栓による臓器障害を特徴とする病態です。臨床的には、①血清LDH※1上昇、血清ハプトグロビン※2減少、破砕赤血球を認めるHb10g/dl未満の微小血管症性溶血性貧血、②15万未満の血小板減少、③AKI(急性腎障害)で診断します。
※1 LDH:肝臓をはじめ、心臓、腎臓、赤血球などのからだのさまざまな場所でつくられる酵素で、肝臓では通常肝細胞に多く存在し、糖質をエネルギーに変える働きをしています。
※2 ハプトグロブリン:赤血球から分離したヘモグロビンを運搬し、肝臓に運ぶ役割を担う血清蛋白質。溶血性貧血では、消費亢進により血清中のハプトグロブリンは低下します。

HUS

原因から、
①志賀毒素を産生する病原体大腸菌(STEC; Shiga toxin-producing E. coli)によるSTEC-HUS
②フォンビルブランド因子(von Willebrand factor; VWF)切断酵素であるADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13)活性が10%未満(ADAMTS13に対する中和抗体が陽性であれば後天性TTP、陰性であれば先天性TTP)である血栓性血小板減少性紫斑病(TTP; thrombotic thrombocytopenic purpura)
③二次性TMA(代謝異常症、薬剤性、感染性、自己免疫性疾患や膠原病関連、悪性腫瘍、悪性高血圧、妊娠関連であるHELLP症候群や子癇、骨髄移植や臓器移植関連)
④補体が関連した非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)
の4つに分類するのが一般的です。

腎移植後のTMA再発

TMAにより末期腎不全になったときには、透析治療や腎移植治療が選択されます。移植後の原疾患の再発頻度は、原因によりさまざまです。
STEC-HUSや二次性TMAによる末期腎不全では、腎移植後の再発はほとんどありません。
補体が関連した非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)が原疾患であるときが問題となり、腎移植後にTMAを再発した患者は、自己腎の腎機能障害の原因も補体が関係したaHUSであることがほとんどです(1)
海外からの報告では、aHUSは毎年成人100万人あたり2人発症すると言われています。本邦では、2015年現在で100~200人前後がaHUSと診断されています。補体関連aHUSは補体活性経路の第2経路の異常活性化により発症します。抑制因子の機能喪失変異として、H因子(CFH)、I因子(CFI)、MCP(membrane cofactor protein)の異常、または抗H因子抗体によるH因子の機能低下などがあります。活性化因子の機能獲得変異として、B因子(CFB)やC3の異常などがあります。いずれにしても、第2経路の過剰な活性化により血管内皮細胞や血小板表面の活性化をもたらし、aHUSを発症します。
移植後の再発率は変異部位により異なり、CFHやCFIの変異では50~100%、MCPの変異では、15~20%程度の移植後再発です(2)。TMA再発は移植後1年以内に起こり、しばしば数日から数週間で再発します(3)

溶血性貧血と血小板減少を伴った血清クレアチニン上昇を認めたときには、移植後のTMA再発を疑います。腎移植後TMAの原因となるのは、免疫抑制薬(シクロスポリン、タクロリムス、エベロリムス)、虚血潅流障害、ウイルス感染(HIV、パルボウィルスB19、サイトメガロウィルスなど)、抗体関連型拒絶などがあります。これらの鑑別には移植腎生検が有用ですが、血小板減少を伴うときには、出血のリスクを避けるために必ずしも必要とされません。

原疾患がaHUSの場合の腎移植前治療

原疾患がaHUSと診断されている生体腎移植時には、エクリズマブ900mgを移植24時間前、7、14、21日目に900mgを使用し、以降は2週ごとに1200mgを使用します。遺伝子変異があるaHUSでは、親子間や兄弟姉妹間の生体腎移植を避けるべきです。献腎移植では移植後3日にエクリズマブ900mg使用します。以降は生体腎移植と同じです。
エクリズマブ投与の際には、髄膜炎菌による致死的感染症のリスクが増大します。投与2週前までに髄膜炎菌ワクチンを接種します。緊急で使用した時には、抗体を獲得するまでの期間のペニシリン系抗生薬の予防投与が必要になります。
原疾患が不明として腎移植を予定するCKD患者も多いです。家族歴、aHUSの認知度が低かった時代に自己腎生検でHUSやTTPと診断、臨床経過などからaHUSを疑うことも必要になります。aHUS原因遺伝子異常があっても発症するのは全体で50%程度とされており、家族歴がはっきりしない例も多いです。原疾患としてaHUSが除外できないときは、血清保存と共に遺伝子検査をしながら、エクリズマブを準備して腎移植を施行します。
aHUSと診断された生体腎移植レシピエントに対するエクリズマブをいつまで継続すべきかの結論は出ていません。使用中は髄膜炎菌や肺炎球菌に対するワクチンを定期的に追加します。感染症発症を疑った時には、原因が判明する前からペニシリン系抗生薬の投与が必要です。


参考にした診療ガイド;非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)診療ガイド2015

1.Miller RB, Burke BA, Schmidt WJ, Gillingham KJ, Matas AJ, Mauer M, Kashtan CE. Recurrence of haemolytic-uraemic syndrome in renal transplants: a single-centre report. Nephrol Dial Transplant. 1997;12(7):1425-30.
2.Zuber J, Le Quintrec M, Sberro-Soussan R, Loirat C, Fremeaux-Bacchi V, Legendre C. New insights into postrenal transplant hemolytic uremic syndrome. Nat Rev Nephrol. 2011;7(1):23-35.
3.Bresin E, Daina E, Noris M, Castelletti F, Stefanov R, Hill P, Goodship TH, Remuzzi G. Outcome of renal transplantation in patients with non-Shiga toxin-associated hemolytic uremic syndrome: prognostic significance of genetic background. Clin J Am Soc Nephrol. 2006;1(1):88-99.