糖尿病性腎症とは

糖尿病性腎症(DMN;Diabetic Nephropathy)は、糖尿病発症から10年の経過で微小血管障害(微量アルブミン尿)が出現し、次の10年で末期腎不全に至るのが典型的な経過です。
近年、糖尿病や高血圧などに対する治療成績の向上と糖尿病患者の高齢化により、典型的な腎症の臨床経過ではなく、アルブミン尿の増加を伴わず腎機能が低下する症例が増加しています。
肥満、脂質異常、高血圧、動脈硬化といった糖尿病と併発しやすい病態や、加齢の影響に糖尿病が部分的に関与して腎障害を起こしている病態を糖尿病性腎臓病(DKD;Diabetic Kidney Disease)と呼びます。DKDはDMNを含んだ大きな概念です。10年以内の糖尿病歴で腎機能障害があるときにはDKDの可能性は大きく、糖尿病以外の原因検索のために腎生検を必要とすることが多いです。

DKD

腎移植後の糖尿病性腎症再発

DMNは腎移植後に再発(あるケースでは移植後1年以内)します(1)
しかし、DMN再発により移植腎喪失することはまれで、心臓血管病(CVD)によるDWFG(移植腎が生着しながら死亡すること;death with functioning graft)が移植腎喪失の原因となることがほとんどです。そのため、再発に関わらず、腎移植へ話を進めるべきです。
透析療法を導入せずに腎移植をする先行的腎移植(PEKT)が増えてきています。2018年では生体腎移植の37.7%が透析なし(PEKT)か直前透析のみで腎移植されています(2)。DKDから透析導入になると、高血糖からの終末糖化合物(AGEs)が血管への3つ目の重荷を追加します(3)。PEKTにより早期に末期腎不全から脱却することは、血管へのストレスが多いDKDの患者ほど強く推奨されています。DKDにCVDを既に合併しているCKD患者ではなおさらです。
移植後の食事や体重管理ができるCKD患者であれば、再発に関わらず、移植による末期腎不全からの脱却が大きなメリットとなるのが、DM腎症です。


1.Owda AK, Abdallah AH, Haleem A, Hawas FA, Mousa D, Fedail H, Al-Sulaiman MH, Al-Khader AA. De novo diabetes mellitus in kidney allografts: nodular sclerosis and diffuse glomerulosclerosis leading to graft failure. Nephrol Dial Transplant. 1999;14(8):2004-7.
2.湯沢 賢治, 八木澤 隆, 三重野 牧子, 市丸 直嗣, 森田 研, 中村道郎, 堀田記世彦,剣持敬, 日本臨床腎移植学会・日本移植学会. 腎移植臨床登録集計報告(2019)2018 年実施症例の集計報告と追跡調査結果. 移植. 2019;54(2-3):66-70.
3.Makita Z, Bucala R, Rayfield EJ, Friedman EA, Kaufman AM, Korbet SM, Barth RH, Winston JA, Fuh H, Manogue KR, et al. Reactive glycosylation endproducts in diabetic uraemia and treatment of renal failure. Lancet. 1994;343(8912):1519-22.