移植腎の長期生着のために知っておくべきことについて、北里大学病院の吉田一成先生にシリーズで解説していただきます。
第2回目は、移植腎を長持ちさせるためにはどうしたらいいのか、についてです。

Q2.どうしたら移植腎を長持ちさせることができますか?

移植腎を長持ちさせることはすべての腎移植患者さんの切実な願いです。大変な思いをして腎移植をしますし、ドナーのことを考えても少しでも移植腎を長持ちさせたいと思います。しかし現実には、移植した腎臓が一生機能することは多くありません。移植腎を長持ちさせるための因子として、移植前、移植時、移植後に分けて、さらにドナー側とレシピエント側の両面から考える必要があります。

■移植手術前
まず、移植前ですが、レシピエントとしては腎移植を受けるために良好な身体状態を保つことが大切です。腎移植を受けるときには腎臓の働きはほとんど、あるいは全く無くなってしまっていますが(腎不全)、良好な心肺機能を保ち、動脈硬化が悪化しないように、そして感染症やがんが無いようしておく必要があります。そのためにはがん検診や歯の手入れも重要です。これが蔑ろにされていると、せっかく腎臓を提供してもらってもトラブルが続き、最悪の場合には腎移植直後に腎臓を諦めるような、あるいは生命に危険が及ぶような事態が起きることもあります。
ドナーから提供していただく腎臓の状態が良好なことも重要なのですが、ドナーは限られており、実際にはドナーを選ぶことは困難です。現在、血液型が合っていなくても何の問題もなく腎移植ができますし、その成績も良好です。組織型も合っていなくても充分に移植できますが、20年を越す長期の生着を考えると合っている方が良いことが分かっています(前回の記事参照)。

■移植手術時
腎移植手術の時に腎臓が痛まないように、腎臓に血流が流れない時間(阻血時間と言います)を短くし、適切な保存液を使います。移植手術の合併症を予防し、少なくする、これらは移植外科医の責務です。

■移植手術後
そして、移植後は適切な免疫抑制療法を行い、拒絶反応を回避する。このためには適切な免疫抑制薬の処方も大切ですが、怠薬にも注意する必要があります。でも、あまりに薬に気を取られて社会生活が送りにくくなってしまうのでは、何のために移植したのか分からなくなってしまいますよね。極めて生真面目にすることは悪くありませんが、限度を認識して安全な範囲で楽天的に過ごすことは精神的にも良いですし、腎機能にも良い影響を与えるようです(油断してサボれと言っているわけでは決してありません)。
次に問題になるのは拒絶反応を防ぐためには必須である免疫抑制薬の副作用によって起こる合併症です。まずは感染症です。感染は全身に及ぶことが多く、移植腎にも悪影響を及ぼします。予防、早期発見、早期診断、早期治療が重要です。
次は代謝障害です。肥満、高血圧、高血糖、高脂血症、高尿酸血症があり、栄養管理、食事管理、身体運動管理が大切です。必要に応じて薬物療法で治療しますが、服薬する薬が増えてしまいます。看護師(RTC)に加えて薬剤師、管理栄養士の協力が必要です。
また、残念ながら腎移植後はがんの発生率が増えることが分かっていますので、引き続きがん検診を受けることも必要です。移植腎が機能していても心筋梗塞やがんで命を落とすことになってしまってはいけません。

移植後の注意点

さて、生活を送るのにやはり規則正しく、そしてあまり突拍子もないことはしない方が良いと思います。たまに羽目を外すことがあっても良いとは思いますが、油断をしないこと、特に毎日の食事や服薬には注意して、生活のリズムとして無意識に行えるぐらいにしても良いと思います。定期的な通院も必要ですし、何か普段と変わった変化があればそれに気付き、早めに連絡をしてもらうことも重要です。「平気かなぁ」と思って放っておいたら重大なことになっていた、というのでは困ります。あまりに神経質にならずに、でも細心の注意を払って。でも言うが安く行うのは案外難しいと思います。医療機関に気軽に相談できる関係を作ることも案外大切です。

せっかく移植したのですから積極的な移植人生を送って、社会のために働き、役立っていただきたいと思います。そのためには患者さんと移植医療に携わるチームが一緒になって協働作業をすることが大切です。移植患者さんも移植医療チームの一員なのです。