腎移植前後の皆さんが気になる移植後の食事管理について、北里大学病院栄養部 管理栄養士 吉田朋子先生に解説していただき、シリーズでお届けします。
第1回目の今回は、腎移植後の食事管理の概論をご紹介致します。

腎移植前後の食事管理【概論】 

【概論】
腎移植手術入院はレシピエントの状態によりますが、当院では約1か月程度の入院となっており、入院中は医師の指示により、移植後の腎機能などを考慮した食事となります。当院では入院中に栄養相談を受講してもらい、腎移植前後の食事管理の違いや移植後に注意して頂きたいことなどの説明を行っています。また腎移植後3ヶ月までは急性拒絶反応・感染症に特に注意したい時期のため、感染症予防なども考慮した衛生管理も必要です。外来では定期的に栄養相談を行い食事管理の支援を行っています。
*小児は成長を考慮する必要があるため、食事量については主治医に確認しましょう。

栄養素

1)eGFR(推定糸球体濾過量)とは、腎機能を表すものであり、血清クレアチニンと年齢を用いて算出します。算出する式は以下になりますが、計算するのは大変なため担当の医師に確認するとよいでしょう。
eGFR(mL/分/1.73m²)=194×血清クレアチニン‐1.094×年齢‐0.287(女性は×0.739)
*18歳以上に適用する

2)標準体重(㎏)=身長(m)×身長(m)×22

3)エネルギー必要量は年齢・性別・身体活動度により異なる

4)厚生労働省の日本人の食事摂取基準2010年によると、日本人のたんぱく質推奨量は0.9g/kg/日である

CKD診療ガイド2012:日本腎臓学会より一部改編

*水分:医師から指示された量(一般的には1000~2000mL目標)
*高カリウム血症がある場合にはカリウム制限

例えば、身長165cmの人では標準体重は60㎏(1.65×1.65×22)になります。
エネルギーは体重を減量したい場合には、25~30kcal/kg/日を目安に1500~1800kcal程度、活動量があり体重を維持したい場合には、30~35kcal/kg/日を目安に1800~2100kcal程度となります。たんぱく質は腎機能を考慮してeGFR30以上の場合には0.8~1.0g/kg/日を目安に50~60g程度、eGFR30未満の場合には0.6~0.8g/kg/日を目安に40~50g程度になります。食塩は摂りすぎに注意し、6g未満を目標にしましょう。(減塩の方法は次回掲載予定です)
移植後の薬の中には食欲亢進などがみられる薬もあり、また移植前の食事制限から開放されることにより食欲が増進して食事の量が多くなる人もいます。移植した腎臓に負担のかかるような食べ方にならないように注意したいものです。

移植医からのコメント ~北里大学医学部泌尿器科学 吉田 一成先生

せっかく大変な思いをして腎移植をしたのだから、今まで色々と制限されていたものを一杯食べたい!!と思う気持ちは痛いほど良く解ります。
でも現在の腎移植は残念ながら腎機能を100%回復するものではありません。慢性腎臓病(腎障害があり、腎機能が正常の約60%以下になってしまった状態、eGFRが60ml/分以下でタンパク尿があるような状態)の初期から中期にもどるのが腎移植後の現実ですし、免疫抑制薬を服用していますので、食事療法はとても重要です。でも透析をしているよりははるかに色々なものが食べられるようになります。多少のリスクがあっても美味しいものをお腹いっぱい食べたいと言う「人生観」を持った方もおられるので、一概に制限をすることは良くないかも知れません。また、あまりにもこれは食べてはいけない、あれは飲んではいけないと言うのでは腎移植の良さや魅力が半減してしまうことも確かです。
要は自分の食事とそのリスクをきちんと理解した上でうまく調節することだと思います。それと味の抑揚をつけて上手な食べ方を身につけてもらうことだと思います。やり方によって感じる味の満足感は随分と違ったものになります。
折角、腎移植をしたのですから、やって良かったと思える生活を送ることができるかどうかも腎移植の成功の1つです。これを上手にするためにはある程度の自己コントロールも必要ですし、もう1つの大切な秘訣は管理栄養士さんの専門的知識を活用することです。そのために栄養士は何をどのぐらい食べたらタンパクや塩分がどの程度摂取されるのか、ということの他、どのように食べたら満足感が得られるかについても考えています。やっとの思いで行った腎移植なのですから、人生、楽しまなければ損ですよね。ときには(たまにですよ)多少ははめを外して好きなものをお腹いっぱい食べるぐらいの自由が欲しいですよね。でも多少のリスクを自分でとる覚悟もある程度は必要です。別に脅かしているわけではありませんが、くれぐれもやり過ぎには注意してください。とりあえずは遠慮せずに栄養士に相談をしてみてください。意外な解決方法があるかもしれません。
美味しいものを上手に食べて移植後の人生を楽しんでください。