腎移植前後の皆さんが気になる移植後の食事管理について、北里大学病院栄養部 管理栄養士 吉田朋子先生に解説していただき、シリーズでお届けします。
第5回目は、腎移植前の食事管理について解説していただきます。
腎移植前の食事管理
腎移植前の食事管理は、行っている治療により異なります。腎移植後の合併症を予防するためにも、腎移植前の食事管理は重要です。今回は、血液透析、腹膜透析、慢性腎臓病保存期(透析を行っていない)に分け、ガイドラインを参考にし、成人の食事管理のポイントを説明します。(小児は成長を考慮する必要があるため、主治医に確認しましょう)
●血液透析
血液透析を行っている場合には、血液透析間の体重増加(食塩、水分)に注意すること、たんぱく質は血液透析で老廃物と一緒にアミノ酸も喪失してしまう分を加味し維持できる必要量を摂取すること、エネルギーは活動量にあわせた必要なエネルギー量を摂取すること及びカリウムやリンなどの過剰摂取に注意しましょう。血液透析の種類や頻度(1週間に何回の血液透析を行っているのか)や時間(1回の血液透析を行う時間)などによっても食事管理は異なってきます。
血液透析の栄養管理
◇エネルギー
必要な摂取エネルギー量は活動量などによっても異なりますので、体重の変化などをみながら主治医に確認しましょう。また、糖尿病の方は血糖コントロールをしっかり行いましょう。
◇たんぱく質
血液透析で老廃物と一緒に除去されるアミノ酸はたんぱく質の一部のため、たんぱく質の必要量は標準体重1㎏あたり1.0~1.2g/日となっています。しかし、たんぱく質を必要量以上にとり過ぎると、カリウムやリンなどの摂取量も多くなるため、適量にすることが重要です。
◇食塩
血液透析を行っている場合には、食塩は血圧や腎機能への関わりだけではなく、血液透析間の体重増加量に影響するため、6g未満を目標にしましょう。料理の味付けはうす味にし、加工食品などに含まれる食塩にも注意しましょう。麺類や汁物は食塩だけでなく、水分もとり過ぎてしまいます。また加工食品は保存料としてリンが添加されている食品が多いため、食塩だけでなくリンのとり過ぎになりますので注意しましょう。(具体的な方法は第2回を参照して下さい)
◇水分
血液透析を導入した直後で尿量が保たれている場合には、水分制限は不要な場合があります。ガイドラインでは上記のような記載となっていますが、尿量によって異なりますので、主治医から言われた水分量にしましょう。
◇カリウム
血液透析はカリウムの除去を行いますが、尿量が減少してくると尿からのカリウムの排泄量が少なくなること及び血液透析で必要な栄養量(たんぱく質など)を確保するためには食事中のカリウム摂取量も増加します。カリウム値が高くなると、不整脈の原因となり、命に影響を及ぼす場合がありますので、日頃からカリウムを多く含む食品の摂取には注意し、検査結果でカリウム値が高い場合にはカリウム制限をしっかり行いましょう。(具体的な方法は第4回を参照して下さい)
◇リン
血液透析はリンの除去を行いますが、血液透析で必要な栄養量(たんぱく質など)を確保するためには食事中のリン摂取量も増加します。血液透析で除去できる量には限りがあるため、検査結果でリン値が高い場合にはリン制限が必要です。さらに薬物療法を併用している場合には、服薬時間などを守りましょう。(具体的な方法は第4回を参照して下さい)
●腹膜透析
腹膜透析を行っている場合には、活動量にあわせた必要エネルギー量から、腹膜で吸収されるエネルギー量を引いた量が摂取したいエネルギー量となります。たんぱく質は腹膜透析で老廃物と一緒にアミノ酸も喪失してしまう分を加味した量を摂取します。食塩及び水分は残腎機能と尿量、除水量により、医師から指示されている量とします。カリウム制限は基本的にはありませんが、高カリウム血症の場合には制限が必要となります。リンは血液透析と同様に過剰摂取に注意しましょう。
腹膜透析の栄養管理
◇エネルギー
必要な摂取エネルギー量は活動量などによっても異なります。また腹膜から吸収されるエネルギー量を考慮する必要がありますので、体重の変化などをみながら調整しましょう。また、糖尿病の方は血糖コントロールをしっかり行いましょう。
◇たんぱく質
腹膜透析で老廃物と一緒に除去されるアミノ酸はたんぱく質の一部のため、たんぱく質の必要量は標準体重1㎏あたり0.9~1.2g/日となっています。しかし、たんぱく質を必要量以上にとり過ぎると、リンなどの摂取量も多くなるため、適量にすることが重要です。
◇食塩
残腎機能や尿量、除水量によっても異なりますので、主治医に確認しましょう。しかし、食塩の過剰摂取は血圧や残腎機能にも影響するため、当院では6g未満を目標としています。(具体的な方法は第2回を参照して下さい)
◇水分
残腎機能や尿量、除水量によっても異なりますので、主治医から指示されている水分量にしましょう。
◇カリウム
腹膜透析の場合には、毎日透析を行ってカリウムを除去していること(さらに腹膜透析液にはカリウムが含まれていないため、身体の中のカリウムが腹膜透析液に移行していくことや、腹膜透析を行っている人は残腎機能があり尿からカリウムが排泄できていることもあります)から検査結果のカリウム値は基準値内となり、食事のカリウム制限は不要と言われています。ただし、高カリウム血症の場合には、食事中のカリウム制限が必要となります。
◇リン
腹膜透析はリンの除去を行いますが、腹膜透析で必要な栄養量(たんぱく質など)を確保するためには食事中のリン摂取量も増加します。腹膜透析で除去できる量には限りがあるため、検査結果でリン値が高い場合にはリン制限が必要です。さらに薬物療法を併用している場合には、服薬時間などを守りましょう。(具体的な方法は第4回を参照して下さい)
●慢性腎臓病(透析を行っていない)
慢性腎臓病(CKD)の分類にそって、食事管理は異なります。
CKDの病期と食事管理
◎eGFR60以上(CKDステージG1~2)
食塩の過剰摂取は、腎臓へ負担となり高血圧の原因となります。食塩の過剰摂取は避け、うす味の食事を心がけましょう。体重は標準体重を目標にコントロールしましょう。
◎eGFR30以上60未満(CKDステージG3a~3b)
CKDステージG4~5に移行しないように、食事管理を行いましょう。食塩は3g以上6g未満を目標とします。体重は標準体重を目標にコントロールをしましょう。たんぱく質は腎臓に負担をかけない量として、CKD診療ガイド2012では標準体重1kgあたり0.8~1.0g/日となっています。CKDステージG1~2よりさらに注意して、たんぱく質の過剰摂取にならないようにしましょう。(厚生労働省が推奨する成人のたんぱく質量は、標準体重1kgあたり0.9g/日です)。
◎eGFR30未満(CKDステージG4~5)
腎機能が低下し、慢性腎不全の状態になっています。食塩は3g以上6g未満を目標とします。むくみがある場合には食塩制限が重要です。たんぱく質は標準体重1㎏あたり0.6~0.8g/日の低たんぱく食とします。体重は標準体重を目標とします。低たんぱく食を行っている場合には、エネルギー不足にならないように、炭水化物や脂質からのエネルギー補給が必要です。カリウムやリンなどは検査結果をみて、食事のカリウムやリンの制限を行いましょう。腎臓病疾患用にたんぱく質を減らした低たんぱくごはんや低たんぱくパン、少量で高エネルギーの食品、たんぱく質・カリウム・リン・食塩を控えた菓子類、低たんぱく食の宅配食もたくさんの種類がありますので、利用するのもよいでしょう。
◇エネルギー
必要な摂取エネルギー量は活動量などによっても異なります。低たんぱく食を行っている場合には、エネルギーが確保できないと、身体の中のたんぱく質がエネルギー源として使われてしまい、かえって腎臓に負担をかけてしまうことがあります。そのためエネルギー補給ができる脂質や炭水化物などの食品を料理に使用することや、腎臓病疾患用の治療用特殊食品をうまく組み入れて、エネルギー補給を行いましょう。
◇たんぱく質
標準体重1kgあたり0.6~0.8g/日の低たんぱく食では、エネルギーが確保しにくくなるため、必ずエネルギー補給を行いましょう。低たんぱく主食を組み入れることで、主食のたんぱく質をおかずにまわすことができるため、食事の満足感が増します。
◇食塩
3g以上6g未満を目標とします。食塩の過剰摂取は、血圧や腎機能へも影響しますので、うす味に慣れて減塩を心がけましょう。(具体的な方法は第2回を参照して下さい)
◇カリウム
生果物にはカリウムが多く含まれていますので、食べ過ぎには注意しましょう(カリウム制限が必要な場合には、缶詰めの果物にしましょう)。野菜や芋類は茹でることでカリウムを減らすことができます。(具体的な方法は第4回を参照して下さい)
◇リン
リンとたんぱく質は相関関係にあるため、低たんぱく食を実行できていれば、必然的にリン制限を行っていることになります。しかしリン含有量の多い乳製品や小魚、加工食品に偏って食べるとリンの摂取量が多くなるため、注意が必要です。(具体的な方法は第4回を参照して下さい)
今回は、ガイドラインを参考に腎移植前の食事管理についてご説明しました。食事管理は個々の病態によっても異なってくるため、主治医に確認して食事管理を行いましょう。
参考・引用文献:
CKD診療ガイド2012(日本腎臓学会)
エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013(日本腎臓学会)
2009年版腹膜透析ガイドライン(日本透析医学会)
慢性腎臓病に対する食事療法基準2007年版(日本腎臓学会)