その日に決まった生体腎移植

移植担当医の先生と初めて移植について話したのはいつですか。また、その時にはどのような会話がありましたか。

成田さん:
2005年5月に移植外科を受診し、打田先生に相談しました。約1時間かけて、私やドナーになる妻からの質問に答えていただきました。
私からは、夫婦間移植でのHLA適合度による生着期間への影響や、移植後の生着率や生着期間についてお聞きしました。また、移植までの流れや検査の方法、手術の方法、レシピエントとドナーの手術でのリスクを繰り返しお聞きしました。 ドナーの妻には、腹腔鏡を使った手術と開腹手術について、検査内容、入院期間など詳しく説明していただき、妻からの質問にも丁寧に答えていただきました。
一番心配していたのは、移植後のドナーの片腎での安全性ですが、「腎臓を一つ取ってしまったらダメな人は提供出来ません。健康な人しか、ドナーになることは出来ません。」というお話をお聞きして納得しました。
また、移植が出来ないというケースは、もらう人が原因で出来ない事はほとんどなく、提供者側の原因(1つ取ってしまったら困る状態の方や、将来腎臓を悪くするような持病を持っていらっしゃる方は提供出来ない等)で出来ないケースがほとんどで、その為にドナーの検査をしっかりと徹底的にされるという話を聞き、それも安心感につながりました。
打田先生からは「もう質問は無いですか?」と、こちらから質問が出なくなるまで繰り返し聞いて頂けました。これまで色々な病院に行きましたが、その様な経験は初めてでしたので、質問をたくさん持っていきましたが、全部答えて頂き、自分なりに納得することが出来ました。
その時のお話で、一番早くて12月末の予約が取れるという事でしたので、妻も小学校の教員として学校に勤務しておりますので、冬休みが取れるその時期に移植をして頂くことを決めました。

愛情あってこその「阿吽」の呼吸

奥様にはドナーになって頂くことに関して、いつ、どの様にお話をされたのでしょうか?

成田さん:
ドナーになってほしいという話は1回もしていません。病院に相談に行きたいので、一緒についてきてくれないかと話し、2人で病院に行きました。
阿吽(あうん)の呼吸と言いましょうか、毎日一緒に生活する中で、妻は、私から話をしなくても分かってくれていたみたいです。

NPO法人日本移植未来プロジェクト 企画 「絆~生体腎移植ドナーの想い」に、成田さんの奥様は当時のご自身のお気持ちをこの様に書いていらっしゃいます。以下「絆~生体腎移植ドナーの想い」より抜粋

・・・生体腎移植がぐっと身近になったのが、NPO日本移植者協議会東海支部主催の腎臓移植勉強会でした。その時の講演が「最近の生体腎移植 腎臓は1つで大丈夫!」、その後棚橋さんご夫婦の体験談をお聞きしました。真剣に話を聞き、質問する主人の横で、主人の中に希望がどんどんふくらんでいることと、生体腎移植にすがるような主人の気持ちを強く感じていました。そして、翌月、主人に頼まれて第二日赤の移植外科を受診しました。私は、話を聞くだけと思って受診したのですが、ドナー検査は移植することが前提というお話を伺い、決断を迫られました。
透析で苦しんでいる主人の姿、主人だけでなく家族の私の生活にも及んでいる暗い影、腎臓が1つになっても大丈夫なこと、ドナー手術の安全性、生体腎移植を経験した皆さんの明るく元気な姿、これからの夫婦二人の人生設計を頭の中で天秤にかけて、ドナーとなる決断をしたのでした。・・・

先生、ドナーの方には生体腎移植の説明をされる際、どの様なお話をされるのですか?

打田先生:
車に例えてお話をさせて頂きます。腎臓を1つあげるという事は、車に例えると、スペアタイヤを無くすという事で、主に2つの点に注意していかなければならないという説明をします。
1つは、精神的な問題。スペアタイヤ無しで走っているという不安に耐え、一生付き合っていかなければならないという事。もう1つは、パンクしないような運転、メンテナンスが必要になるという事です。車が車検を受けるように毎年検診を受けに来てほしいという事と、釘のあるような道を走らず、安全運転をしましょうとお伝えしています。

名古屋のドナー検査はどのくらいの期間をかけてやるのでしょうか、また検査入院までにどのくらいの回数面談等を行われているのでしょうか?

打田先生:
ドナー検査ですが、まず、1次検査にて簡単な血液、尿検査、負荷検査等を行います。その後2次検査では1週間入院をして頂き、具体的に手術をするとなった場合にどちらの腎臓を取るか、どの様な手術を行うかというような事を決めていきます。
愛知県は他県に比べてドナー検査への保険適用が利くという事もあり、ドナー検査はしっかりと行っています。 また面談に関してですが、昨年のデータでは、移植が決まってから検査入院までに平均で5回面談を行い、検査入院があり、手術までにもう1回話をするようにしています。現在は、成田さんが移植された頃より、コーディネーターも付くようになり、更に丁寧になっていると思います。

夫婦間生体腎移植手術へ

移植手術が決まった時の心境を教えてください。

成田さん:
移植を受けて自由に生活をしたいという夢がありましたので、ついに夢の実現に向けてスタートが切られたという大きな喜びと共に、ドナーである妻への申し訳ない気持ち、健康な妻の体にメスを入れなければならないという罪悪感、ドナーの健康に対する不安などが錯綜して複雑な気持ちでした。それでも、移植をすれば、自由な生活に戻ることが出来るという期待感が、日に日に強くなっていきました。

移植手術を終えた時の心境を教えてください。

成田さん:
手術後初めて目覚めた時には、尿が出ていることに驚き、嬉しさがこみ上げてきました。本当は、手術に入る前は、手術後すぐにドナーの妻の状態はどうかと聞こうと思っていたのですが、目覚めた直後は、自分の尿が出ているのかどうかが気になってしまい、まず自分の事(尿が出ているのか)を聞いてしまいました。妻には、「私より自分のおしっこの方が大事だったんでしょ?」と言われました(笑)。
その後、妻の状態も良好とお聞きして、とても安心しました。普通食が出されたときには、本当に普通の生活に戻れるのだと実感しました。そして、医師や看護師などの医療スタッフに感謝する気持ちで一杯でした。手術の翌日、病室からブログを更新しました。 (手術翌日の成田さんのブログ

移植前まで、腎不全の病気は悪くなるばかりでしたが、手術後の検査を受けた直後から、どんどん検査結果が良くなっていきました。それまでの20年間の生活とは全く違い、血液検査をする度に数値が良くなり、移植というのは本当に良くなるのだという事を実感しました。
まだ、術後の痛みなどがありましたが、出来るだけ早い段階から歩いた方がいいという指示だったので、病院の食事のトレイを自分で返しに行き、その後、廊下を1周周ってくる、というように体を動かしていき、そのうちそれが2周出来るようになり、と徐々に良くなっていきました。

手術後の食事で一番嬉しかったのはどんな食事でしたか?

成田さん:
うどんが出てきた時が一番嬉しかったです。手術前は食べてはだめなものばかりで、特に汁ものがだめだったので、本当に嬉しかったです。また、水分制限も厳しかったので、手術の前日までは水分を取る際には氷をかじっていました。手術後はその氷が、ペットボトルの水やお茶に変わりました。退院時に冷蔵庫にまだ残っていた氷を全部捨てました。移植をして水分制限からも解放された事を実感しました。

移植後、食べる事ができて嬉しかったうどん