移植の機会に恵まれて
その後、約10年後に移植の話がきたという事ですね。
松井さん:
献腎移植で自分の順番が来るとは思っていませんでした。移植したいと思っても出来ないので、頭の中には「移植」という考えを置いていませんでした。透析をしながら今を楽しく生きていきたいと考えていました。
私は30歳の時に献腎移植の連絡を頂いたのですが、実はその1年前の29歳の時にも1度連絡を頂いた事がありました。その時は、私は3番目の候補者だというお話でした。29歳の時のお電話で、初めて「私にも移植出来る可能性があるのだ」と思いました。それから、「もし移植が出来たらどんな世界なのだろう」と思い、世界が広がるような気持ちになりました。そして、移植をしたい気持ちが自分の中にあることを感じました。「もし自分にまたその機会があるのなら移植を受けたいな」と思っていました。
2回目の連絡はその1年後に来たのですね。何か準備はしていらっしゃったのですか?
松井さん:
何もしていなくて、本当に突然でした。
移植前は、移植に関してどの程度の知識をお持ちでしたか?
松井さん:
生体腎移植をされた方には何人かに話を聞いたりしていました。ただ、移植をする前は、透析と移植の違いが、透析は病院に通わなくてはいけなくて、水分制限がある、移植は病院に通わなくても良いが、薬は飲まなければならない、というような本に書いてあるような知識しかありませんでした。
移植をする前は、免疫抑制剤に対する不安などが大きく、「どんな感染症にかかってしまうのだろう?」とか「聞いたことのないカタカナの感染症にかかってしまっても大丈夫なのだろうか?」などと、知らないことに対する不安が大きかったです。
何かが変わった瞬間
献腎移植の連絡を受けた時はどの様な気持ちでしたか?
松井さん:
病院から電話を頂いたのは、夜の10時半頃だったのですが、自宅の電話に病院の番号を登録していたので、電話に市立札幌病院の文字が表示されました。「この時間に市立札幌病院からかかってくるという事は、もしかして移植の連絡なのかな」と思い、震えながら電話に出ました。「松井さんが1番目の候補者です」と言われ、「30分考えて電話してください」と言われました。
気持ちは決まっていましたので病院に連絡をし、「次の日の朝、病院に来てください」と言われました。本当に何かが変わった瞬間でした。
その日は眠れましたか?
松井さん:
その日はドキドキして眠れませんでした。とにかくよく分からない気持ちでした。そこから時間がすごく早く流れ、翌日病院に行き、透析をして検査をして、原田先生から移植の説明を受けました。
先生は起こりうる可能性をすべて説明してくださったのですが、薬の副作用の話などを聞いたらすごく怖くなってしまいました。移植したらその後どうなるのか、また起きあがることが出来るのだろうかと、夜の病院で1人で不安になってしまいました。何もかもが早すぎて心の準備が出来ず、緊張して不安だったのだと思います。
でも提供をしてくれるドナーの方、ドナーのご家族の想いを胸に、「自分が不安でいたらだめだ、とにかく元気に大切に生きていかなければ」と思い、移植手術に臨みました。