大切な腎臓のために
移植後の日常生活では、移植腎の為に特にどの様な事に気を付けて生活をしていますか。
田中さん:
塩分を摂り過ぎず、水分を多めに摂ること。あとは、体重を増やさない、睡眠不足にならないように気を付けています。
日常の服薬や、血圧、体重等の記録はどの様な方法で行っていますか。
田中さん:
服薬は、寝る前に薬ケースに一日分をセットして準備し、持ち歩いています。服薬時間は携帯のアラームを利用しています。
血圧、体重等の記録は、ノートを使ってすべて記録しています。最初の入院の時とまったく同じ状態で、今もつけていますね。
松本先生、そのような指導をされているのですか。
松本先生:
看護師さんが指導をしてくれるようになっています。
橋詰移植コーディネーター:
一昨年から、術前評価入院時から術後を見据えた患者指導を始めました。看護師から移植に関する説明や自己管理方法について、管理栄養士から移植後の食事に関する栄養指導、薬剤師から免疫抑制剤の薬剤指導を検査入院の際に行います。入院中のバイタルサインは、通常なら看護師さんが記録してくれると思いますが、当院では自分で記録ノートを作成し、自分で測ってもらいます。自己測定してもらう事で、「血圧の高い・低い」「熱が出ている」「体重が増えている」などを術前から意識してもらいます。術後の自己管理の確立を目指して取り組んでいます。
田中さんは、今でもそれを継続されているということですね。
田中さん:
はい。変わらず行っています。
移植後、新たに始めた事や、今後の夢はありますか。
田中さん:
移植後は、生まれたばかりの孫と2歳の孫の世話で一生懸命です。落ち着いたら、主人と長期旅行や山登りにまた行きたいですね。
ご主人は、臓器提供後、どの様な生活をされていますか。特に気を付けていることはどの様なことでしょうか。
ご主人(ドナー):
手術前とほとんど同じ生活ですが、休肝日を週2日にしました。私の場合、もともとはストップがかからなければいくらでもお酒を飲んでしまうのですが、腎臓が1つしかなくなってしまったので、妻からすると「私が取ってしまって、お父さんがひっくり返ったら責任を感じてしまう」と、口うるさくなるわけです(笑)。血圧を測り始めたのですが、それも「1日おきでいいや」とやっていると、妻が口うるさく言ってきますね(笑)。
橋詰移植コーディネーター:
さきほど“共に生きる”とおっしゃっていましたよね(笑)。一緒に頑張りましょう!
ご主人(ドナー):
正直なところ、もう少し自由にさせて欲しいです(笑)。タバコは止めたいのですが、なかなか止められません。
松本先生:
禁煙はしてくださいね。
感謝とメッセージ
主治医の松本先生へお伝えしたいことはありますか。
田中さん:
移植前から、移植に不安な私の話を良く聞いて下さり、こんなに元気になるように導いて下さったことを、心から感謝しています。
ドナーのご主人への想いを教えてください。
田中さん:
普通なら、しなくても良い手術をさせてしまいました。頂いた腎臓を大切にして、期待に少しでも応えたいと思っています。
現在、移植手術を控えている、または移植手術を検討しているレシピエントやドナーの方へメッセージをお願いします。
田中さん:
出来るだけ、手術を経験された方のお話を聞かれる方が良いと思います。不安なことを色々と尋ねる事で、心の準備ができ、楽な気持ちで手術に臨むことが出来ます。
私自身は、検査入院をしていた時に、たまたま、術後3ヶ月ぐらいの方と、これから手術を受けるという方がいらっしゃったので、3人で一緒に色々話しました。今でも仲良くしています。
どのような話を聞いて一番安心されましたか。
田中さん:
手術前の様子や、薬を飲むときの話、手術後の話などです。分からなかったことが分かり、不安が消えました。また、元気な姿で「手術はたいしたことないわよ」などと言ってもらうと、やはり安心できましたね。頭の中でいろいろイメージして、シミュレーションすることができました。
また、先生や看護師さんから手術前の教育のようなものがあり、手術で起こる可能性があることを、恐ろしいことも含め、全部教わるのです。それもシミュレーションという意味でよかったですね。例えば、私は18年半の透析で、膀胱が委縮して小さくなってしまっていたので、手術でうまく縫合できないと破裂するかもしれないとか、手術が終わっても最初は膀胱を慣らすために10分毎にトイレに行くとか、その様なことを全部シミュレーション出来ているというのが、気持ち的に楽でした。
橋詰移植コーディネーター:
私達の経験から、手術後、患者さんが一番辛いところはどこなのだろうということを考え、事前にお話するようにしています。例えば、術後の経過について、「ベッド上で1日~2日は安静でいること」「おしっこの管を最短でも1週間入れておかなければいけないこと」「おしっこの管を抜いた後も最低でも30分に1度は、夜中でも起きて排尿をしなくてはいけないこと」など、多くの患者さんが苦痛と感じるポイントについてはよくお話します。腎移植看護を経験してきて一番辛いだろうと思われる部分を、いかに患者さんに事前に伝え、イメージしていただけるかだと思っています。
最後に先生から移植を考えている方へ向けてメッセージをお願いします。
松本先生:
患者さんのこれからの人生にとって、“一番いいこと(治療)”をするのがいいと思いますので、ご本人が納得できれば、(無理に移植を選ぶのではなく)どの様な方法でもよいと思います。ご本人の、本当になりたい自分の理想像に近づけるように治療するのが一番だと思います。
それが生体腎移植であれば、もちろんドナーの方が必要で、ドナーの方には移植前の健康を保っていく責任がありますので、そのことを忘れないでほしいと思います。