2度目の移植へ

その後の体調はいかがでしたか。

松本さん
移植後20年を過ぎたくらいから、年に1回くらい蛋白尿が出るようになり、その頻度が数カ月に1回、毎月というように多くなっていきました。
クレアチニンが6㎎/dl位になったのが2回目の移植をする1年位前でしたが、まだ元気に動くことも出来ました。病院でも診察室に呼ばれてすぐに小走りで入っていける状態だったので、先生からは、「この数値に似合わない動きですね」と言われていました。


西村先生
クレアチニンが6㎎/dl位ですとまだ元気な方もいらっしゃいます。大体10㎎/dl 位から全身的な症状が出てきますね。


松本さん
腎臓内科の先生に、「そろそろシャントの準備をしないといけない」と言われ、覚悟は出来ていたので、動けるうちに主人と一緒に透析施設の下見をしに行きました。その頃私は2度目の移植をするにしても、再度透析導入してからでないと手術を受けられないと勝手に思い込んでいました。

その後2回目の移植へはどのように話が進んでいったのでしょうか。

松本さん
県立西宮病院で2回目の移植の件を相談したところ、透析導入の必要は無いことが分かり、主人がドナーになってくれるということで移植に向けて話を進めることになりました。
主人は日頃から、「お母さんの次は僕があげるから」と言ってくれていました。私は主人の思いに心から感謝しました。

ご主人は以前からお母様の次は自分がドナーになると決めていたのですか。

ご主人
移植をしたら元気になるのが分かっていましたし、兄弟もいますが、夫婦間で移植が出来るならそれが一番いいと常々思っていました。一緒に暮らしている奥さんが、「しんどい、しんどい」と言っていたら嫌ですしね。ただ、本当に夫婦間移植ができるかどうかが心配でした。

移植に向けてご夫婦ではどの様な話をされましたか。

松本さん
移植の話が出るだいぶ前から主人の体のことを考えて、「お酒を少し控えて」と言っていたのですが、なかなか実現出来ていませんでしたので、移植手術をするということになってから、「本当にドナーになってくれるというなら、お願いだから休肝日を作って」という話をしました。

移植直前の様子

ご主人
当時は毎日飲んでいたのですが、妻にそんな風に言われたら仕方がないので、じゃあ1日作ろうかという話になって、休肝日を作りましたね(笑)。今でも1週間に1日は休肝日を作っています。

ご主人は手術に対して不安はありませんでしたか。

ご主人
移植手術に対しての不安は全くありませんでした。先生に任せておけば大丈夫だと思っていましたね。余談ですが、検査入院の時に、「左の腎臓の方が元気です」と言われた瞬間に、「妻には左の腎臓をあげてください」と言ったのですが、「それは出来ません」と言われてしまいましたね(笑)。

母と夫への感謝

2回目の移植手術を終えた時の心境を教えて頂けますか。

ご夫婦の固い握手

松本さん
母の腎臓を取り出して、主人の腎臓を移植する手術を全部無事に終えたと聞き、ほっとしました。
「主人は大丈夫だろうか」という思いと同時に、「母の腎臓は私の体の中にはもう無いのだ。今まで本当にありがとうございました。」という寂しい気持ちと感謝の気持ちで一杯になりました。


ご主人
お母さんの腎臓は取り出されましたが、お母さんの腎臓と私の腎臓がバトンタッチをした時に、お母さんの愛情は私の腎臓と一緒になって、今でも妻のことを支えていると思いますよ。

先生、2回目の移植の場合は1回目の移植腎を取り出すのでしょうか。

西村先生
1回目の移植腎を取り出す場合と取り出さない場合があります。例えば2回目の移植前に透析を5年くらい受けており、すでに移植腎が機能していない場合などは取り出しませんので、取らない方のほうが多いと思います。

手術後の経過は順調でしたか。

松本さん
2回ほど39℃の熱が出たりしましたが、日々の検査結果もどんどん良くなっていき、主人の腎臓はすこぶる元気に動いてくれました。手術後、西村先生は毎朝様子を見に来てくださいましたし、岸川先生は顔を合わせた際にいつもニコッと笑ってくださり、とてもホッとしたのを覚えています。

手術後、初めてご主人に会った時のことを覚えていらっしゃいますか。

松本さん
主人が病室に歩いてきてくれた時ですね。なかなか言葉が出ませんでしたね。「傷は痛い?」くらいしか聞けなかったと思います。

ご主人

ご主人
私は移植手術を受けるまで一度も入院したことが無かったので、人生初の入院で実はワクワクしていました。読みたい本もたくさん持ち込み色々と楽しみにしていたのですが、入院後、手術前までは妻からの電話で携帯がしょっちゅう鳴って、あれこれと用事を頼まれ、妻の病室と自分の病室を行ったり来たりで、結局持ち込んだ本も全然読めませんでしたね(笑)。でも術後は私の傷のことなどをとても気にしてくれました。

ご主人は退院後、すぐに職場復帰されたのですか。

ご主人
もともと建設現場で働いていたのですが、退院後すぐに職場復帰しました。その後も特に何もなく元気に過ごしています。

先生、県立西宮病院の移植手術の際の入院期間はどのくらいですか。

西村先生
レシピエントは術前1週間、術後は5週間前後ですね。感染し易い時期をなるべく病院で過ごして欲しいのと、退院後の通院の手間を減らす為にその位の期間に設定しています。