ドナーはどなたですか。
西村さん(妻):
私です。
血液型が同じである夫がドナーになる決意をしていましたが、主人の家系的な遺伝や今後の事も考え私から希望しました。私はO型で光雅はB型でしたが問題ないとの事でした。
北田先生:
血液型が異なっても移植は可能です。B型だからB型でないと移植はできない、という事はないですね。このことをご存じなく移植を諦めている患者さんも多いので正しい理解を広めたいと考えています。
手術はどの位かかりましたか。
西村さん(夫):
朝から夕方まで、10時間前後待っていましたね。先生を信じていましたので、あまり心配はしていませんでした。
北田先生:
手術時間は大人の場合と大して変わりませんでした。ドナーであるお母さんは2時間程でした。
もちろん、私が執刀医としてお母さんと光雅くん、お二人とも担当しました。一般的にレシピエントの手術は3時間くらいですが、光雅くんは5時間程かかりました。光雅くんの左右の腎臓を摘出し、以前尿道の役割をしていたチューブをとり、停留睾丸の手術も同時に行いましたので少し長めですね。
術後のお気持ちを教えてください。
西村さん(妻):
夕方には目が覚めていましたが、自分の事で必死になってしまいましたね。落ち着いた頃に「光雅は生まれ変わったのだ」という晴れ晴れとした気持ちになりました。
加えて、移植は光雅の人生のワンステップに過ぎず、これからこえなければならない壁はたくさんあるのだと、身の引き締まる思いになりました。
北田先生:
手術は無事成功しましたが、その後が本当に大事で、注意が必要でした。お腹の筋肉が弱く肺の低形成もあり、移植腎が肺を圧迫して呼吸困難にならないか、免疫抑制剤も開始されているわけですから体調管理は常に重要な課題でした。
西村さん:
そんなとき、今まで何も口にしなかった光雅が、手術後ケーキを喜んで食べるようになったことを知った先生からケーキが届いたのです。ビックリしましたね。光雅は自分からぐちゃぐちゃにしながら食べていました。嬉しかったですね。
北田先生:
そうでしたね、私もとにかく嬉しくて、ケーキを届けましたね。
術後、光雅くんに変化はありましたか。
西村さん:
移植後、光雅の目が驚くほど輝き始め、色んな事にチャレンジできるようになりました。
移植前はつかまり立ちしか出来なかったのに自分の力で歩けるようになり、食べ物を一切口にしなかったのに、自分で食べ物を口に運ぶようになりました。喜怒哀楽もしっかりと表れ、身長もグンと伸びました。
外出が楽しく出来るようになり、旅行にも行けるようになりました。移植後は、今まで光雅を苦しめていた全てのものが消えてしまったのです。
今では光雅が生まれた時に感じていた不安はなくなり、将来に夢や希望が持てるようになりました。
手術をされて、どうでしたか。
北田先生:
もちろん、子供の手術は大変です。でも二重の喜びがあります。
子どもさんの笑顔は、移植前と移植後では格段に変わります。輝きが全く違いますね。移植後に子どもさんの笑顔を見る事が出来ると、本当に良かったなと思いますね。
移植をして一番嬉しかった事は何ですか。
西村さん:
移植後、1ヶ月くらいで何も持たずに立ち上がった事がとても嬉しくて、もうそれだけで十分だと思いました。光雅は今も順調に成長してくれています。
免疫抑制剤は問題なく飲めていますか。通院のペースはどの位ですか。
西村さん:
現在お薬は時間毎にカプセルで飲んでいます。本人も嫌がりません。
もちろん免疫抑制剤も毎日飲んでいますが風邪をひきにくくなり丈夫になりましたね。以前は頻繁に入院していましたが、術後は一度も入院していません。
現在、通院は3週間~1ヶ月に一度です。外来の待合室で移植者同士の交流ができ、私も光雅も病院に行くのが楽しみです。そして今では、同じ小児腎移植をした仲間と、困ったとき、辛い時に支え合える絆も生まれました。
今後の目標や夢など教えてください。
西村さん:
今の目標は幼稚園に行くことです。今までの遅れを取り戻すべく、現在トレーニング中です。
光雅を家の中に閉じ込めてしまっては、「何の為に移植をしたのか」という、そもそもの趣旨と違ってきてしまいます。多少のリスクは覚悟の上で、光雅には普通の子供と同じように、普通の生活をさせてあげたいと考えています。
光雅くんへのメッセージを教えてください。
北田先生:
まずは命があっての人生ですが、みなと同じように学校に通い、いわゆる“普通の”大人になってほしいです。苦しいこともあるでしょうが、それも経験できるような。そして将来自分の産まれたときの話をきくこともあるでしょうから、ご両親を大事に、そして自分も大事にして欲しいですね。
光雅くんは容姿もいいので将来モテると思いますよ。(^-^)
ご両親からのメッセージをお願いします。
西村さん:
今まで光雅を通して多くの人に出会い、支えられ、様々な体験をし、勉強させられました。普通に生きて生活できるということが、どれだけ素晴らしいことなのかを気付かせてくれたのも光雅です。病気を持って生まれてきたことは決して不幸なことではなく、それを受け入れることで、人生を何倍にも輝かせることが出来ると私達は光雅から教えられました。
現在、多くの子供達が様々な病気で苦しんでおり、その子供達のご両親は「その苦しみを代わってあげたい」「助けたい」と懇願していることと思います。大げさですが、自分の命に代えて息子の命を守ることが出来た私達はとても幸運であったと思います。
今後は、光雅が明るく前向きに生きていくことで、同じ病気を抱えた子供達に希望を与え、元気な子供達には光雅と接することで、命の大切さや健康であることの尊さを感じてもらえたら幸いだと思います。