弟からの贈り物
弟さんがドナーになられたのはどのような経緯だったのでしょうか。
浜頭さん:
従兄の奥さんから移植について話を聞いた時は移植についてまだ全然知りませんでしたので、家族に私と同じ血液型はいないし、何型から何型であれば移植ができるのかなど、全く分かっていませんでした。彼女から、「今は腎臓移植の場合、血液型は関係ないよ」ということも教えてもらいました。
冷静に家族の誰に相談しようか考えた時に、まずは2人いる弟のことが頭に浮かびました。そして、年の近い弟に、「これ以上動脈硬化が進んだら心臓がまずいので、移植を考えてみたいのだけど、一度一緒に病院に話を聞きに行ってくれないか」と相談しました。そして、一緒に病院に行ったところ、弟から「姉ちゃん、俺いいよ(提供するよ)」と言ってくれました。
優しい弟さんですね。
浜頭さん:
はい、本当に優しい弟です。ただ、弟から提供を申し出てくれたものの、「これは、私のわがままではないのか。何の病気もない弟の体に傷をつけていいのだろうか。術後、弟の体は大丈夫なのだろうか。」と弟から腎臓をもらうことに当然ためらいもありました。
そんな時に、ちょうどドナーの体験をされた方のお話をお聞きする機会がありました。そのドナーさんの元気な姿をみて、大丈夫であることがわかり、安心しました。
移植に向けて、どのような検査を受けられましたか。
浜頭さん:
胃カメラ、大腸検査、乳がん検診、子宮がん検診、歯科検診、眼科検診等を受け、検査の結果、弟をドナーに腎移植を受けることができるようになりました。
弟はAB型、私はB型で血液型は不適合でしたが、HLA(白血球の型)は6個とも全て一致していました。
移植手術が決まってから、実際の手術までの期間はどのくらいでしたか。またその期間の生活で特に気を付けていたことがあれば教えてください。
浜頭さん:
4カ月ぐらいだったと思います。検査で見つかった大腸ポリープの切除などで、バタバタしているうちにあっという間に手術の日を迎えました。手術前は風邪を引かないようにする位で、特別に何かを気を付けていたことはないです。
移植手術を受けるに際し、弟さんとはどのようなお話をされましたか。
浜頭さん:
手術の前の日、「大丈夫?怖くない?」と聞くと、「姉ちゃんの方が長い時間かかるのだから、お互い頑張ろう!」と言ってくれました。
移植手術を終えた時のことは覚えていらっしゃいますか。
浜頭さん:
「終わったんだ・・・」とまずは安心しました。同時に、この心臓の悪かった私を手術してくれた三浦先生は「天才だ!」と思いました。
そして、手術直後でうまく声が出ませんでしたが、声になるかならないかの声を絞り出して、隣のベッドにいる弟に、「ありがとう」と言った時、感謝とうれしさがこみ上げてきました。
困難を乗り越えて
移植手術後の経過はどうでしたか。
浜頭さん:
手術後1週間目に胸が苦しくなりICU(集中治療室)へ戻りました。一時期はたくさんの点滴につながれ、22キロも体重が増えて「どうしよう」と思うこともありました。いろいろ大変なこともありましたが、2カ月後に無事退院できました。退院後はとても順調です。ただ、なかなか痩せないのが今の悩みです。
移植後、ドナーである弟さんに対しては何か特別にイベント等は行っていますか。
浜頭さん:
弟は現在千葉県に住んでいるので、退職して地元に帰ってきたらゆっくり旅行にでも行きたいなと思っています。今は、まずは私が元気で少しでも母の支えになる事が弟を安心させることかなと思っています。
充実した日々
移植をしてから一番良かった事、うれしかった事は何ですか。
浜頭さん:
まずは透析をしなくても良くなった事です。透析をしていた時は、いろいろな事をしたくても透析が優先でしたので。それから、家族に心配をかける事が減ったことも良かったです。
主人も喜んでくれていて、地元で透析導入になった仲間に、「うちのおっ母が移植して元気になったから、話聞いてみたら?」と声をかけているようです。それから、十勝で移植後の患者さんを中心とした患者会を立ち上げ、素敵な仲間と出会えたことも良かったです。また、これは余談ですが、移植後の通院で、札幌に定期的に来られる事も良かったことの一つと言ってもいいかもしれません。漁師の妻なので、以前はなかなか気軽に札幌に出てくることができませんでした。今は、移植後の診察で北楡病院に通院する必要があるので、毎月堂々と札幌に来る事ができます(笑)。通院は、大好きなアーティストのコンサートの日に合わせて来たりして、通院すること自体も楽しんでいます。
移植後の日常生活では、移植腎のために特にどのような事に気を付けて生活をしていますか。
浜頭さん:
薬を飲み忘れない事と、水分をたくさん取る事、そして食べ過ぎに注意しています。でも、残念ながら食べ過ぎないことだけは守れていません。
日常の服薬や、血圧、体重等の記録はどのような方法で行っていますか。
浜頭さん:
体重、血圧、水分、尿の回数は、毎日朝6時~翌朝6時までを、メモ帳に走り書きして翌朝のダイアリーに記録しています。
薬は、小さな入れ物に薬の殻を入れておき、寝る前に飲み忘れがないかを確かめて、殻を捨てることで確認をしていま
す。また、外食の時や震災に備えて、バックには常に3日分の薬を入れておいています。
三浦先生:
北海道の場合は広いのと、どこにでも免疫抑制剤があるわけではありませんので、外出時には数日分の薬を持ち歩くことを病院でも指導しています。
先日も道東に住んでいる患者さんが、突然薬が足りないということになり、結構大変でした。