虎の門病院分院レシピエントインタビューは、約4年前にお父様がドナーとなり、生体腎移植手術を受けられた、桜井光司さん(仮名)です。
「透析導入」の予定が、突然、「腎移植」に話が変わった日のお話や、移植後も、学生にラグビーを教えながら、ご自身の夢に向かって明るく前向きに進んでいる様子など、さまざまなお話をお聞きすることができました。

桜井さんが移植を受けるまでの経緯

  • 2000年(16歳) 高熱が長引く
  • 2001年(17歳) 蛋白尿が出る IgA腎症と診断される
  • 2002年(18歳) 急性腎不全・ネフローゼ症候群 ステロイドパルス療法を受ける
  • 2009年(25歳) 頭痛が連日続く
  • 2010年(26歳) 生体腎移植手術

ラグビーに熱中した日々

いつごろから腎不全の症状が出始めたのでしょうか。

桜井さん
高校1年生の時に夜遊びをして風邪を引き、高熱が長く続きました。
その後、高校2年生の時、学校の尿検査で蛋白が出たため腎生検を行ったところ、IgA腎症と診断されました。高校3年生の夏には、ラグビー部の練習中に血尿が出て、急性腎不全・ネフローゼ症候群になり、その後3カ月間くらい、治療(ステロイドパルス療法)のために入院しました。

高校3年生で、3カ月もの長い期間入院をするというのは、大変だったのではないですか。

桜井さん
大学までの一貫校に通っていたので、11月に大学への進学テストがありました。それまであまり勉強していなかったのですが、ちょうど入院したことで勉強することができ、無事に合格することができました(笑)。
9月、10月と学校を休んでいて、出席日数も足りなかったのですが、ラグビーをやっていたということで、先生方が認めてくださいました。

大学生の時は、症状は出ていなかったのですか。

桜井さん
尿蛋白は出たり出なかったりで、定期検診も大学2年生ぐらいまでは行っていたのですが、途中で先生から、「もう通院しなくていいよ、寛解(かんかい)※だよ」と言われました。
※症状が落ち着いて安定した状態

大学を卒業してからも症状は落ち着いていたのですか。

桜井さん
卒業後は、現在も勤務している学校に非常勤講師として就職し、中学生を教えていました。その時から職場の健康診断では、病院に行くように言われていたのですが、行かずに放っておいて、ラグビーをやっていました(苦笑)。
そうしたら、25歳(2009年)の夏に、頭が割れるような痛みが連日続くようになり、血圧を測ると、収縮期血圧が200mmHgくらいになっていたのです。それでも病院に行かずに、市販の頭痛薬を騙し騙し飲んでいたのですが、後から病院の先生に、「頭痛薬を飲み続けていたことは、腎臓にとってさらに良くなかったですね」と言われました。
結局、この時は、高校生のころに通っていた病院で診察を受け、入院したのですが、「すぐに透析をしましょう」という感じでしたので、私も家族もそれを受け入れられずに、セカンドオピニオンを求めて退院しました。
そして、インターネットで見つけたクリニックで、服薬と食事の保存療法を始めました。それでも、1~2カ月後には、先生から、「シャントを作って血液透析をしなさい」と言われ、4月の終わりにシャント手術のために虎の門病院分院に伺いました。


固い握手

虎の門病院分院を選ばれたのはなぜですか。

固い握手

桜井さん
それが、実はたまたまだったのです(笑)。透析を受けるため、保存療法を受けていたクリニックの先生の知り合いの透析病院へ挨拶に行ったら、虎の門病院分院か、もう一つの別の病院のどちらかで、シャント手術を受けてくるように言われたのです。たしか、仕事の時間の都合で、その日の晩に虎の門病院分院の方へ行きました。そこで、「透析導入」という話から、「腎移植」に話が突然変わることになったのです。
虎の門病院分院では、受付で、内科の先生が紹介状をぱっと見て、いきなり、「移植するつもりはないのですか?」とおっしゃったのです。「いや・・・、シャントを作りに来たのですけれど・・・」と答えたのですが(笑)、それまでも家族でたまに移植の話をしていたこともあり、「じゃあ話を聞こう」ということになり、その夜に両親と一緒に丸井先生にお会いました。
丸井先生にお会いした際、先生が両親と私に、「頑張りましょう」と言って、グッグッグッと強く握ってくれた、固い握手が非常に印象的でした。今でも、家族全員がそう言いますね。

その時の固い握手で、「この先生に任せよう」と思ったのですか。

桜井さん
そうですね。皆不安でしたが、その握手で母が一番安心していました。父も、その場では言わなかったですが、後で、「あの人なら大丈夫だろう」みたいなことをいつも言っていました。

先生は、いつも患者さんに握手をされるのですか。

丸井先生
私は外来で診察をするようになってから、いつも患者さんに自己紹介をして、握手をしています。
なぜかと言うと、医者は患者さんのことを根掘り葉掘り聞くのに、患者さんは医者に対して、「あなたは誰ですか」ということはあまり聞かないですよね。患者さんと良い関係を築こうと思うと、ある程度は自分が何者かということは、伝えた方がいいのではないかと思っているからです。
また、私がニュージーランドで仕事をしていた時、会う人会う人皆が握手をしていたので、それと同じように、日本でもこちらから握手をすると、それだけでずいぶんといろいろなことが伝わるということが分かりました。
私が握手をする一番の理由は、「私はあなたとこれから関係を築いて、そして決して一方的ではなく、あなたと一緒に診療や医療を進めていきたい」という気持ちを伝えるということです。また、握手したときの患者さんの手から受ける印象や、表情などの反応を見ることも、診察の一つでもありますね。

虎の門病院分院でお話をお聞きになる前も、ご家族でたまに移植の話をしていたとのことですが、移植に関してはどのような情報をお持ちだったのでしょうか。

お兄さんと一緒に

桜井さん
以前通っていた病院の先生からは、「血液透析をしてからでないと移植はできない」という話を聞いていましたので、家族も皆そう思っていました。ですから、虎の門病院分院で内科の先生から移植の話をされた時には、「透析をせずに移植ができるの?」と、とても驚きました。
後で聞いたら、兄は当初から移植をした方がいいと思っていて、いろいろと調べてくれていたみたいです。最初に移植という話をしてくれたのも兄です。


丸井先生
桜井さんが当院に来られた時に良かったのは、「まず移植ありき」ではなくて、桜井さんにとっての最良の治療法として、「移植」という手段が得られたということではないかと思いますね。
内科の先生方が、「桜井さんにはどのような治療選択をするのがいいのか」を考えてくれたので、「透析をしないで腎移植をするという選択肢はどうだろうか」という相談を持ちかけることができましたし、それに対して、「じゃあ、内科的にどれだけアプローチして手術まで待てるかを見て、早く準備を進めよう」というふうにできたわけです。