移植後に訪れた幸せ
そして移植後にご結婚されたのですね。
末野さん:
妻とは、公務員になってから、職場の研修で出会いました。研修のクラスでは、「こういう人も働いているのだよ」と移植のことを皆に伝えていましたので、妻も私が移植をしたことは恐らく知っていたとは思いますが、特別に伝えたことはありません。少し敬遠されるかな、という気持ちがあったので、彼女が私と普通に付き合ったのはとても意外でしたね。
ご結婚後、お子さんも生まれたとのことですが、移植者として特別に注意したことや、大変だったことはありますか。
末野さん:
うちは祖父の代からずっと透析が続いているので、遺伝の可能性もあるとは思うのですが、子どもができてから、妻自身も不安になることがたくさんあったようなので、私の方から、「一度病院の診察に一緒に行ってみない?」と誘って、先生と直接話をしてもらいました。
力石先生、腎臓病と遺伝について少し教えてください。
力石先生:
明らかな遺伝性の疾患とそうでないものがあります。遺伝性の疾患として代表的なのは多発性嚢胞腎ですが末野さんは違いました。
遺伝性腎炎もありますけれど、末野さんがそれには当てはまらないと思います。
腎臓を長持ちさせるために
移植後の日常生活では、移植腎のために特にどのような事に気を付けて生活をしていますか。
末野さん:
薬の飲み忘れに注意し、水分を1日2リットル取ること、また卵を食べないなど、コレステロールの過剰摂取をしないように気を付けています。また、電車通勤ですと風邪をうつされてしまうこともあるので、職場に配慮していただいて車通勤をさせてもらっています。電車に乗るときはきちんとマスクするなど、感染症の予防に一番気を付けています。
日常の服薬や、血圧、体重等の記録はどのような方法で行っていますか。
末野さん:
服薬は携帯電話の目覚まし機能を活用し、飲み忘れの無いようにしています。血圧や体重は、特に頻繁には記録はとっていません。血圧計はすぐに取り出せるように自分の部屋に置いて計測しています。
お父様は何か気を付けていることはありますか。
お父様:
腎臓に負担をかけないように、水分を十分に取るようにしています。後は、約5カ月に一度、かかりつけ医に血液検査を行っていただき、特にクレアチニン値の観察をしています。手術直後は1.5mg/dlくらいでしたが約5年後の現在は1.2mg/dlくらいです。
先生、ドナーの方の健診はどのようにされていますか。
力石先生:
原則は定期的にこちらに来ていただいています。最初のうちは頻繁に来てもらっています。その後は、例えば血圧が高くて投薬が必要な方は3カ月に1回くらいですが、問題の無い方は1年に1回というのが原則です。ただ、体調が良くて困ることがないと、来るのを忘れてしまったりするので、忘れずに検査に来ていただきたいですね。
大切な家族のために
今後の夢はありますか。
末野さん:
自分のことを育ててくれた両親や家族への感謝の気持ちを忘れずに、家族がこれからも幸せな生活が送れることを心から望んでいます。また、自分が障がい者となったことで見えてきたさまざまな社会的な課題を、今の仕事を通じて解決したいと考えています。私と同じような悩みを抱いていた人たちや、自分の息子を含め子どもたちの将来が、「誰もが生き生きと暮らせる社会」になればいいと思います。と言っても、今は生まれてきた自分の子どものことで頭がいっぱいです(笑)。
移植した日はお祝いなどをしているのですか。
末野さん:
特に何もしていません(笑)。
父も私も移植手術後に仕事が変わり、すぐにそれぞれの新しい生活が始まったため特別なことはしていません。また、私の場合、母が現在も血液透析を行っているため、手放しに喜べることはありません。そのため、まずはきちんと独立した生活を送ることや、提供を受けた腎臓をできるだけ長く保つことを心掛けています。
今、末野さんとお父様は一緒に住んでいるのですか。
お父様:
一緒には住んでいませんが、息子が私たちを気遣ってくれて、すぐ近くに住んでくれています。
末野さん:
実家のすぐ近くに駐車場を借りているのですが、朝、通勤する際、実家に洗濯物が干してあるのを見たり、帰宅する際に電気がついているのを見たりすれば「ああ、大丈夫だな」ということが分かります。
お父様:
その話は今日初めて知りました。本人は私達にそのような話をしないのですが、夕方帰ってくると家に寄ってくれるので、そう思っているのだなというのは感じています。