奈良県立医科大学附属病院レシピエントインタビュー第4回目は、約4年前に、ご主人がドナーとなり、生体腎移植手術を受けられた中西芳子さんです。中西さんは48歳の時にIgA腎症と診断され、66歳ごろから急激に腎機能が悪化したため、約半年間の透析の後、移植手術を受けられました。退院後、ご主人の強力なサポートによって体力を取り戻されたお話や、ボランティア活動やご旅行などの趣味の活動で忙しくしていらっしゃる現在の様子を、ドナーとなられたご主人も交えお聞きすることができました。

中西さんが移植を受けるまでの経緯

  • 1991年(48歳) IgA腎症と診断される
  • 2008年(66歳)頃~ 強いむくみが出始める
  • 2009年10月(67歳) 血液透析導入
  • 2010年5月(67歳) 生体腎移植手術

育児と家事に忙しかった日々

病状が出始めてから、移植手術に至るまではどのような生活でしたか。

中西さん
40代後半までは全く症状はありませんでした。3人の子どもの育児と家事で毎日忙しく、血圧を測ったこともありませんでした。でも、午後になると疲れることが多かったのを覚えています。偏頭痛もありましたが、病院に行かなければならないという意識はありませんでした。1991年、48歳にして初めて病院に行き、IgA腎症と診断され、治療を始めました。
その後、夫の転勤に伴ってイギリスとスペインで暮らしましたが、その間は月に1度、現地の病院で受診していました。帰国後、2008年(66歳)から強いむくみが出始め、2009年に入るとクレアチニン値が上昇し始めました。同年の3月にはクレアチニン値が3mg/dL、5月に5mg/dL、10月には11mg/dLと一気に上がり、10月に血液透析導入となりました。そして血液透析導入の翌年、2010年5月に、主人がドナーとなり生体腎移植手術を受けました。

先生、中西さんのように、50歳近くまで腎炎に気付かない方も多くいらっしゃるのですか。

吉田先生
いらっしゃいますね。特に、それまで健康で病院を受診する機会もあまり無く、ご自宅で血圧を測る習慣も無いような方は、気付かないことも多いです。


ご主人(ドナー)
妻はスポーツ好きで、中学からバドミントンをやっており、国体に出場したこともあるくらいですので、とても健康でしたね。


中西さん
バトミントンは、職場を離れてからもOBとして8年間くらい続けていましたので、健康には自信がありました。そのため、妊娠、出産のたびに、「尿蛋白が出ています」と言われていたのですが、「気を付けなければいけない」という意識は全くありませんでした。


吉田先生との出会い

移植に関しての情報や知識は、いつ、どのようにして知ったのでしょうか。

中西さん
腎臓以外の移植(心臓移植や肝臓移植)のことはニュースなどで知っていましたが、なぜか腎移植については全く知りませんでした。20年間も病院通いをしていたのに、移植について知る機会がありませんでしたので、「老後は透析をして暮らすのだろうな」と思い込んでいました。「日本で移植はできない」と思っていたのですね。それが、透析導入が決まった時点で、主人から移植の話をされ、初めて「移植ができる」と知りました。

ご主人は腎移植についてはご存じだったのですか。

ご主人
はい。知識というほどではないですが、テレビなどで見て知っていました。妻には何も言っていませんでしたが、透析は受けさせたくないと思っていましたので、透析導入前から、「もしそういうことになれば、自分が提供しよう」と思っていました。
そして、私たち夫婦のかかりつけの医師に、移植について相談したところ、奈良県の腎移植医療の第一人者である吉田先生を紹介してくださったのです。

中西さん

中西さん
当時は、主人がそのようなことを考えているとは、全く知りませんで した。腎機能が急激に悪化し、透析導入が決まった時に、主人から移植の話をさ れましたが、私は主人の体のことが心配でしたので、「透析を続けても良い」と 思っていました。また、海外で暮らしている娘たちも、「私たちの腎臓ではどうかな?検査を受けに日本に帰るよ。」などと言い出したので、「お母さんは、移植なんて全然考えていないのよ。今後そんな話はしないでね。」と言っていました。
しかし、私たちのかかりつけの医師は、「ドナーの方も大丈夫です。移植した腎臓の寿命が仮に10年として、透析に明け暮れる日々に対して、普通の生活の中でやりたいことを見つけ、元気に過ごせる10年は素晴しいと思いますよ。」と熱く押してくださったのです。主人も、「これから10年、自分だけが元気でいたとしても、仕方がない。二人が同じ年だけ生きられたら、それでいいじゃないか。」と言って移植を勧めてくれました。私は、「移植後、もし私がまた透析に戻って、あなたまで透析になってしまったらどうするの?」と心配していましたが、最後は主人に感謝して手術を受けることを決心し、移植を前提に、吉田先生にシャントを作っていただき、透析導入となりました。

先生、ドナーの方が透析導入になることはあるのでしょうか。

吉田先生
ほとんどありません。当院ではこれまで1例もいらっしゃいません。 そのようなことが起こらないために、ドナーの検査を綿密に行っています。

ご主人は、手術や、ご自身の健康に対する不安はありませんでしたか。

ご主人
自分の意思で決断したことですし、吉田先生に納得のいくまで質問をし、腎移植の効果とリスクを理解できましたので、大きな不安や心配はありませんでした。また、先生が自信を持ってお話される言葉や雰囲気で、「これは大丈夫なのだな」と感じていました。