腎移植後の外来ではさまざまな検査が行われます。腎移植後に検査値をみる上で知っておくべきことや、移植内科医がどのようなポイントをみているのかについて、名古屋第二赤十字病院の後藤憲彦先生にシリーズで解説していただきます。
第3回目は尿酸(UA)についてです。
①尿酸(UA)とは
尿酸とは、核酸(DNA、RNA)※や生体内のエネルギー物質(ATP)を構成する、プリン体という物質が代謝によって分解された後の老廃物のことです。尿酸の7~8割は、体内にあるプリン体をもとに作られており、残りの2~3割が食べ物から取り込まれるプリン体によって作られています。
尿酸は体内に常に一定量存在し、通常は産生される量と排泄される量のバランスが保たれています。しかし、プリン体の多い食事の取り過ぎや大食、飲酒、激しい運動、肥満などによって尿酸の産生が過剰になったり、腎機能が低下して尿酸の排泄量が減少したりすると、血液中の尿酸の濃度が上昇します。
尿酸は通常は血液中に溶け込んでいますが、血液中の濃度が6.8㎎/dLを超えると、溶けきれなくなって結晶化し、関節などの体のさまざまな場所に沈着し始めます。尿酸値が7.0㎎/dLを超えると、高尿酸血症と診断されます。
※核酸(DNA、RNA):DNA(デオキシリボ核酸)は主に細胞の核の中にあり、遺伝情報を担う物質。RNAはDNAの情報に基づいてタンパク質を合成する働きを担っている。
②尿酸の基準範囲(*1)基準範囲は施設によって異なる場合があります。
男性:3.7~7.8㎎/dL
女性:2.6~5.5㎎/dL
・女性ホルモン(エストロゲン)には尿酸の排泄を促す作用があるため、一般的に、尿酸値は男性に比べて女性の方が低めですが、女性でも閉経後は数値が上昇してきます。
・尿酸値が7.0㎎/dLを超えると、高尿酸血症と診断されます。
③腎移植後に尿酸値をみる上でのポイント
高尿酸血症があると痛風になりやすいと考える人が多いのですが、実は高尿酸血症のほとんどは痛風になりません。痛風の定義は高尿酸血症による尿酸結晶の慢性的沈着です。高尿酸血症から結晶沈着を起こす人と起こさない人の違いはよくわかっていません。
高尿酸血症は、冠動脈疾患、腎障害、高血圧、2型糖尿病と相関しませんが、痛風はこれらの疾患と相関します。そのため、痛風があれば治療をすべきです。痛風治療を開始するのは、年2回以上の痛風発作、痛風結節の存在、stage 2以上のCKD(GFR60~89より悪いもの)、腎結石のあるときのみです。尿酸は体内で6.8㎎/dL以上になると結晶を形成します。そのため、尿酸値は6.0mg/dL以下へ厳しく管理します。また、腎移植レシピエントはstage 2以上のCKDなので、痛風発作が起きた時には厳しく治療します。
腎移植後の外来で痛風発作を見ることはほとんどありませんが、高尿酸血症を合併しているレシピエントは多いです。健常人に対する高尿酸血症や無症候の尿酸結晶沈着に、尿酸降下療法が有効かは不明です。高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(2012年)では、無症候性高尿酸血症には、尿酸値8.0mg/dL以上を治療の一応の目安とするが、適応は慎重にすべきとされています。
レシピエントに対しても、本邦の腎移植後のガイドライン(2011年)では尿酸値は8.0 mg/dL未満が目標値となっていますが、最近ではレシピエントの無症候性高尿酸血症は治療すべきではないとされています。ですから目標値もありません。今後、大規模な研究によってこの基準は変わる可能性はあります。
運動や減量とともに、アルコール、赤い肉、砂糖入り飲料は高尿酸血症のリスク因子になるため、摂取を控えます。また、不適切な利尿薬投与、カルシニューリン阻害薬の濃度が高い時、脱水がある時、移植腎機能低下がある時も、尿酸が上昇します。それぞれ、利尿薬の減量や中止、カルシニューリン阻害薬の濃度調整、補液や飲水が必要です。これらの対応をしても高尿酸血症が続くときは、内服療法を考慮してもよいかもしれません。ちなみに筆者は10mg/dLを超えるまで、無症候性尿酸血症の内服治療は行いません。
以前の内服治療は、尿酸合成阻害薬であるアロプリノールが一般的でしたが、腎機能による減量と、アザチオプリンとの併用療法は避ける必要がありました。最近では腎機能による減量が必要ないフェブキソスタットが第一選択となっています。尿酸排出促進薬であるベンズブロマロンが第2選択ですが、移植腎機能が低下している時には使用を避ける必要があります。
*1 日本臨床検査標準化協議会「日本における主要な臨床検査項目の共用基準範囲案-解説と利用の手引き-2014年3月31日修正版」