腎移植後の外来ではさまざまな検査が行われます。腎移植後に検査値をみる上で知っておくべきことや、移植内科医がどのようなポイントをみているのかについて、名古屋第二赤十字病院の後藤憲彦先生にシリーズで解説していただきます。
第7回目は白血球数(WBC)についてです。

①白血球数(WBC)とは

白血球は血液の成分の1つで、細菌やウイルスなどから体を守る働きをしている細胞です。白血球は好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球などで構成されます。

血球

白血球働き

白血球数は細菌感染症をはじめとする炎症性疾患や、血液系悪性腫瘍、アレルギー疾患などで増加するので、感染症の診断や経過観察を行うのに有用で、白血球分画(白血球の分類)は、感染症の種類やアレルギー性疾患、白血病などの診断や治療効果を確認するために行います。

②白血球数の基準範囲(*1) 基準範囲は施設によって異なる場合があります。

3.3~8.6×10³/μL

③腎移植後に白血球数をみる上でのポイント

腎移植後の維持免疫抑制薬の中で、ステロイドは好中球を増加させます。また、運動、感情的なストレス、生理などでも上昇します。そのため、レシピエントの白血球数が増加しているか減少しているかは、1回だけの採血では判断できません。移植後ベースラインの白血球数を把握して、そこから増加しているか減少しているかを判断します。

【白血球数が増加している場合】
好中球が増加する状況は覚えきれないくらいあります。非感染性の炎症疾患、感染症、急性出血、移植腎機能低下時、尿毒症出現時に増加します。理由はよくわかっていませんが、喫煙でも増加します。
その中で腎移植後は、悪化のスピードを考えて感染症を早期診断することが重要です。感染症でないと判断されたら、炎症疾患や血液系悪性疾患などを鑑別していきます。

【白血球数が減少している場合】
好中球が低いときには、まず薬剤性の好中球減少症を考えます。薬剤性好中球減少症を引き起こす薬剤はたくさんあります。移植後に関係する薬剤で頻度が高いのが、ミコフェノール酸モフェチル、妊娠希望で使用される可能性があるアザチオプリン、サイトメガロウイルス感染治療薬のバルガンシクロビル、ニューモシスティス肺炎予防のST合剤などです。これらの薬剤を開始してから早い時期に白血球減少が起きる可能性があるのに対して、リツキシマブは使用から1~6カ月くらいで白血球が減少してきます。血液型不適合腎移植やDSA(ドナー特異的抗HLA抗体)陽性腎移植では、リツキシマブを使用するのが一般的です。リツキシマブを使用したレシピエントは、移植後1~6カ月くらいの白血球減少に注意することが必要です。
白血球は増加するときよりも減少した時のほうが、緊急度が高くなります。一般的に、好中球が1000/μLを下回ると感染症のリスクが増えてきます。500/μL未満では非常に危ない状態になります。好中球数は白血球数と白血球分画から計算します。原因薬剤を減量ないしは中止して、白血球を増やす薬(G-CSF製剤)を使用します。 腎移植後の免疫抑制療法は、リンパ球を中心とした細胞性免疫※1を抑制します。そのため、ウイルス、結核、カビの中でもニューモシスティスに対する防御が弱くなりますが、好中球の機能(自然免疫)※2は抑制しないのが通常です。好中球が減少した時には、このバリアが破綻してしまいます。好中球が防御しているのが、細菌、カビ(カンジダやアスペルギルス)などの病原体です。好中球が減少したレシピエントが発熱したときには、緊急の対応が必要です。

※1 細胞性免疫:主にリンパ球であるT細胞が、細菌やウイルスなどの異物を攻撃、排除しようとするもの。細胞性免疫に対し、リンパ球であるB細胞が、免疫グロブリンという抗体作用をもつタンパク質を産生し、抗体が異物(抗原)に取り付いて攻撃、排除しようとするものを液性免疫という。
※2 自然免疫:好中球やマクロファージなどの食細胞を主体とした、細菌やウイルスなどに対する初期の生体防御反応のこと。

免疫のしくみ

*1 日本臨床検査標準化協議会「日本における主要な臨床検査項目の共用基準範囲案-解説と利用の手引き-2014年3月31日修正版」